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【AFTER GAME】 2021-22 島根戦(12/11~12)~待ち望んだ「VICTORY FACTORY」初勝利。その裏に見た、キャプテンの覚悟~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI

およそ1ヶ月ぶりにアダストリアみとアリーナでのホームゲームとなったロボッツ。西地区の上位争いを繰り広げる、島根スサノオマジックを迎えた。GAME1でロボッツは度重なるミスとシュートタッチに苦しみ続け、59-87と一方的なゲームを許してしまった。GAME2では攻守に躍動感が蘇り、追いすがる島根を最後の最後で退け、88-85で勝利。「VICTORY FACTORY」アダストリアみとアリーナでのB1昇格後初勝利を果たしてみせた。今回のAFTER GAMEでは、2日間にわたって勝利への執念を燃やし続けた#25平尾充庸にフィーチャー。熱狂の舞台裏を、彼の言葉で紐解いていく。

崩れてしまったGAME1。平尾に初めて見た表情

「戦ってない、戦ってないよ。これじゃ、どこのチームとやっても負ける。」

GAME1を終えて、アリーナの片隅で筆者と平尾がすれ違う。ロッカーでのミーティングも当に終わり、この日の記者会見には出席せず。あとは家路に就くばかりであろうところで、彼がポツリと一言、本音を漏らしたようだった。しばし、歩きながら言葉を交わした後、「明日、勝ちましょう」と返して見送ったが、言っているこちらの口元がぎこちなかった。

GAME1での平尾は、今までと明らかに違う表情をしていた。ファストブレイクを狙うべく、信じて出したはずのパスコースに味方が走り込んでこない。ボールをプッシュするのか、パスを選ぶのか。その判断がコート上で統一されていないようにも見えた。リバウンドやルーズボールもことごとく島根の物にされ、速攻から差を広げられ続ける。ボールが止まってしまい、インサイドから無理なシュートに出てしまい、その多くを落とした。セカンドチャンス、ペイントエリア、ファストブレイク…主立ったスタッツは島根が優位に立つものばかりだった。

これまで、どの試合でも「チームとして戦う」あるいは「チームを戦わせる」ことにエナジーを向けていたはずの平尾。ある意味「いらだち」にも近い姿をコートで見せるのは、記憶をたどる限り初めてのことだった。結果、試合の途中から人が変わったように自ら決めに行く場面も目立っていく。

こうした試合を経たからこそ、勝利の直後にファンやブースターへの思いが溢れ出したのだろう。平尾はMVP獲得のインタビューでこんなことを述べた。

「昨日のような試合を自分たちがしてしまうと、見に来てくれるお客さんに非常に申し訳ない気持ちで。昨日チームで話し合って、『今日は本当に気持ちを見せて戦おう』という風に挑んだ試合だったので、本当に価値のある勝利だと思います。」

劇的な勝利の後では少し意地が悪いような気もしていたが、記者会見の場に登場した平尾に、あの表情の真意を尋ねることにした。

「試合中にも感じたこともありましたし、またベンチで見ているときにも感じたことがあって、『戦わないならコートに立つな』と思ってしまいました。5人しかコートに立てない中で、ベンチメンバーも出たいと思っている選手もいるはずで、『自分ならこうする』と考えている人もいるはずなんです。でも、そういう人たちを置いて選ばれてコートに立っているわけです。ならば戦わないなんてまずあり得ないことなんです。それが昨日の試合では見えなかった。そこが僕はすごく腹立たしかった。勝ちたいチームの行動ではなかったんです。」

ROBOTS TIMESでの取材を始めてから1年半近く。これまで、目を覆うような大差負けを喫した後でも、平尾の口からここまでの言葉が出てくることはなかった。事あるごとに「覚悟」と言い続けてきた、昨シーズンの始まりに似た張り詰めた空気感が、そこにはあった。

思い返せば、プレーオフや地区優勝を争うようなチームと、敗れこそしたが度々好ゲームを演じてきたロボッツ。前節も決して万全とは言えないゲーム運びの中で王者・千葉ジェッツを苦しめた。そうした、チームの成長と結果から来る一つ一つの自信が、どこか違う方向にチームを傾けてはいないか。平尾はあくまで、チームを引き締め続ける言葉をかけていた。

「試合の途中でも、『簡単に勝てると思うなよ』と。昨日はチャンピオンのような振る舞いの試合をしていたと思います。自分たちはあくまでチャレンジャーであって、なおかつ一つの勝利をものにしたいチームです。だからこそ、終わってからもそうですけど、『もっと必死にやろう』というところを話して。今日は試合前のアップからも気持ちを見せてくれていたので、そこは一つ成長できた部分なのかなと思います。」

チームとしても、敗戦を受けて一つになって勝利をひたすらに目指したことも、一つ大きなポイントだ。戦わなくして、結果は付いてこない。リチャード・グレスマンHCが会見で残したとおり、この勝利は「Great team win」であった。

やはり、チームに必要なもの

GAME2の戦いぶりは、ロボッツにとって今後のスタンダードたりえるものだった。オフェンスでは#15マーク・トラソリーニや#21エリック・ジェイコブセンがしっかりとスクリーンをセットして、相手とのズレを作り続けた。また時にはフォワード陣が積極的にボールの受け手となり、相手のプレッシャーを交わしていく。結果的には勝利を引き寄せたプレーも、平尾とジェイコブセンによるピックアンドロールによるものであり、その前にはトラソリーニとジェイコブセンが大事にボールを持って運んだことにあった。一方のディフェンスでは、能力の高いスコアラーに対しても、臆することなくダブルチームを挑み、ボールをシュートレンジからじわりじわりと押し下げていく。試合を通じて、合わせて3回のショットクロックバイオレーションを引き起こさせたことは、今シーズン、ロボッツがたびたび味わってきた「コンマ数秒での守り」をやりきったことに他ならない。ビッグマンの#4ニック・ケイに対しては#11チェハーレス・タプスコットが身長差をものともせず貼り付き、一方では#2ペリン・ビュフォードや#3安藤誓哉のドライブを、#29鶴巻啓太が必死に食い止め続けた。もちろん、最後のパスをさばかせないディナイが、チーム全体で効いていたことも見逃せない。プレータイムが少ない中での#0遥天翼、#14髙橋祐二もまた見事だった。リチャード・グレスマンHCも、試合後の会見でこうしたディフェンスでの貢献に一つポジティブなコメントを残している。

「タプスコット選手は他のチームのインサイドプレイヤーと比べてもサイズのミスマッチを抱えるシチュエーションに多く遭ってしまいますが、かなり厳しい中でも頑張ってくれました。鶴巻選手も、特にビュフォード選手に対してよく守ったと思います。ビュフォード選手が決められなかったシュートがいくつかあったと思いますが、鶴巻選手のディフェンスのおかげです。鶴巻選手は昨シーズン、選手として大きく成長しましたし、今も成長中です。まだまだ、彼はここで終わらないでしょうし、その貢献がなければ勝利は掴めなかったでしょう。」

ここまで書き表せば分かるように、ロボッツが勝利を積み重ねるために必要なことは至ってシンプルだ。昨シーズンから根付かせ続けた「Unselfish」「Toughness」を、チームカルチャーとして「BUILD UP」させ続けること。もっと極端なことを言えば、1試合の40分間、全ての局面でそうあり続けること。勝利への近道など存在しないことが、改めて分かる結果となった。2000人を超えるファンの前での勝利。ロボッツに関わる全ての人が待ち望んでいた瞬間だった。改めて、記者会見での平尾の言葉を引用する。

「昨日に関してはビビっていたと思うんです。相手のプレッシャーに対してボールを意図せずに保持している時間帯も多かったです。今日に関してはそうではなく、もらうべき場所でボールをもらって、アタックすべき人間がアタックをする。走るべきタイミングで走りきる。しっかり守って走るというところをしなくてはなりません。これが本当にベース。これができなければまず土俵に立てないよ、というのをしっかりみんなが理解しなければ、勝てない試合が続くでしょうし、勝っても偶然という結果になってしまいます。ベースを作っての成長。そこに向けてみんなで力を合わせていきたいと思います。」

一方で、改めて平尾はファンへの感謝も忘れない。厳しい戦いであることを飲み込みつつ、こんなメッセージを残していった。

「本当に長く、お待たせしすぎてしまったというところがあったのと、もちろん厳しいシーズンの中で一生懸命戦う。ファンの方たちも厳しいシーズンであることは理解してくれているとは思います。ただ、やっぱり戦うこともしないチームには、『何がホームで初勝利だ』って思っているはずなんです。本当に全員で戦って、ホームで勝利を収められたことは、応援してくださっている方にも『次も応援しよう』って思ってもらえたんじゃないかなと思っています。」

VICTORY FACTORY、量産体制へ

12月もタイトな日程でのゲームが続く。次のゲームは今シーズン初のアダストリアみとアリーナでの平日開催となる。対戦相手は東地区のレバンガ北海道だ。北海道とはリーグ戦4試合を戦うが、これが今シーズン唯一のホームゲーム。#8多嶋朝飛やトラソリーニにとっての古巣対決であることは、承知の通りであろう。

今シーズンは天皇杯ですでに対戦経験がある両者。この時は北海道を69-77で下して勝利を果たしている。献身的なディフェンスを40分間やりきった上で、#0橋本竜馬、#4寺園脩斗といったガード陣に最後まで満足な仕事をさせなかったことが勝因でもあった。

その北海道は天皇杯を終えて好調モードに突入。宇都宮ブレックス、千葉ジェッツ、大阪エヴェッサと、チャンピオンシップを窺うチームから相次いで勝利をもぎ取ったことで、ムードは高まっている。ただ、こうしたチームを打ち破ってこそ、成長を実感できるはずだ。

両者ともに、今シーズンはオフェンスで苦しむ試合が多い。ロボッツのフィールドゴール成功率が42.4%なのに対して、北海道が43.5%。B1全体でもこの2チームがワースト2となってしまっている。こうなれば戦術は明確。ロボッツはタフに守って相手のシュートを落とさせること、一方ではチャンスで迷わないこと。多少のシュートのバラつきやアップダウンがあったとしても、これを40分続けることだ。

アダストリアみとアリーナは、「VICTORY FACTORY」なのだ。FACTORYと名乗るからには、勝利を量産しなくてはならない。今シーズン初の連勝を果たし、さらにチーム状態を上向かせたいところだ。

平日の夜、少し帰りが遅くなるかもしれないが、そんな状況だからこそ味わえる興奮もあるはず。会場にぜひ足を運んで、あるいは都合が付かない場合はバスケットLIVEで、大きなブーストを生んでもらいたい。

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