2020-21シーズン開幕特集・GM上原和人編

取材・文:荒 大 text by Masaru Ara
取材日:2020年8月29日

Bリーグ5年目となる2020-21シーズン。新型コロナウイルスによる脅威は未だ去っておらず、異様な雰囲気を持ったまま開幕を迎えようとしている。今、競技としてのバスケットボール以上に、プロとして、ファンや地域を元気づける力が求められている。ロボッツにおいて、チームの強化・編成を一手に担うのが、ゼネラルマネージャー(GM)である上原和人。チーム作りの根幹を担う彼は、このコロナ禍を戦い抜くチームをどう作ろうとしているのか。今季からGM専任となった想いと合わせて、彼の意気込みを聞いた。

営業兼任からGM専任へ。すべては昇格のため

チームの編成について触れる前に、まずはこのオフ、上原自身に変化が起きたことを取り上げたい。これまでスポンサー営業の責任者を兼任してGMの職に就いていた上原だったが、今季を迎えるに当たってGMに専念し、チームの強化に全力を投じることを選んだ。その理由を尋ねると、これまで味わってきた悔しさが根底にあったという。

「ずっとB1に昇格するっていうのを毎年掲げながらも、B1に行けてないというそこの思いが一番ですよね。スポンサー営業とチーム両方やっていると、どっちも中途半端になっていたのが今までだったので、それを覚悟を決めて、チームに時間を費やすことにしました。僕は選手じゃないし、コーチでもないので、バスケットで直接できることはないですけど、チームを編成したり環境を整えたり、スタッフを集めたり、管理するとか、バスケットに直接結びつかなくてもできることがあると考えています。」

GMに専念したことで、よりチームに寄り添って時間を過ごすことが増えてきたという上原。日々の練習にも顔を出すようになったことで、選手たちの状態をより細やかに把握できるようになった。

「今まで練習に行けていなかったので、たまたま行った練習で、ある選手の状態が悪かったとか、態度が悪かったということがあっても、調子の良し悪しを、それだけで判断しちゃいけないなと思っていました。多くの時間を共にして、コミュニケーションをとることによって、一人一人『こいつは上辺だけだな』とか『口だけだな』って選手もいれば、『こんな陰で努力してるからこれだけの結果になるよね』というのが分かってきます。ヘッドコーチじゃないからこそ、時には厳しく、時には選手と同じ目線で話していく。うまく気持ちを乗らせてあげるというのも自分の仕事です。」

「チームを一番に置くことで、行動も変わってきます。自分がどこに時間を使えば、B1昇格できるかというのを考えたとき、GMに専念した方が達成できるんじゃないか。迷いはあったんですけども、覚悟を決めました。」

「覚悟」とともに、今シーズンの編成に乗り出した上原。編成においては、これまでと大きく方針を変え、シーズンに臨むことになった。

スタッフ、指導者、そして選手。キーワードは「Bリーグ慣れ」

野球、サッカーといった他の競技と比べて、人の出入りが激しいというイメージがつきまとうバスケットボールの世界。特に2部リーグとなれば、その傾向はより強くなり、実際にB2では昨シーズンと陣容が様変わりしたチームもある。しかし、今年のロボッツは、多くの選手、コーチ、スタッフが残留して今シーズンを迎えた。また、新加入選手のラインアップ、そして今季のヘッドコーチを務めるリチャード・グレスマン氏を含めて、Bリーグでの実績を積み重ねた顔ぶれが並ぶ。このような方針は、これまでのロボッツには無かったと、上原は言う。

「去年で言うと、タイソンさん(柴田ストレングスコーチ)、中島さん(アスレティックトレーナー)といった1年目のスタッフの能力を生かしきれていなかったと思います。彼らが1年通して経験して、次のシーズンに向けて動き出せた、そこは大きなアドバンテージです。非常に優秀なスタッフが残ってくれたというのが一番です。」

「ヘッドコーチ(HC)に関しては、一つは日本・Bリーグのことが分かっているHCであること。60試合のスケジュールを理解しているHCというのが一番でした。HCの選定については、僕だけじゃなくて、山谷社長や堀オーナーとも話をしました。その後、HC候補と何人かオンラインで面談しながら、最終的に、自然と『リッチ(グレスマン氏)だよね』と。バスケットの考えとかを全部聞いて、オーナーや社長とも最後に面談をして、『この人じゃないですか』と自然に決まっていきました。」

グレスマンHCの就任に当たっては、対戦相手としての彼や、彼が率いるチームを見ていた側面もあるという。

「愛媛という、予算の限られた戦力を相手に、うちはなかなか勝てていませんでした。2019-20シーズンこそ2勝したけども、2018-19シーズンで1勝1敗。それよりさかのぼると負けしかない。僕自身、シューターの選手が大好きなんですが、愛媛を見ていると、躊躇なく打ってくる。『ここで打つか』っていうところで自信を持って打ってきて、かなりアグレッシブに選手がゴールに向かう印象がありました。なので、うちのシューター陣にリッチHCのシステムを当てはめて、ちゃんと『ここは打っていいんだよ』というのを明確にすると、どんなバスケットになるかというのがすごくワクワクします。」

コーチ陣は決まった。となると、新加入選手の候補探しが始まる。今季のBリーグは、外国籍選手の登録やオンザコートのルールが変更されたことで、外国籍選手はシーズンを通したフル稼働が求められる。例年にない「タフさ」が必要な戦いを見据え、上原は「Bリーグ慣れ」を重要視した。

「今年に限ってはもう、全員Bリーグ経験者にしようと思いました。この2年間、ケガに泣かされていたし、ケガだけが原因じゃないですけど、このレギュレーション、60試合というところを、経験しているか、知っているかで、かなり違いが出てくると思います。毎年『Bリーグは初めて』という外国人をうちは獲っていましたけど、やっぱり苦労している。一つそこは、経験している選手の方がいいよねと、そこはコーチと、もちろん社長とも話をしました。」

「すべてにおいてそうですけど、個を見ているわけじゃない。日本人選手がまず決まっていて、それに合う外国籍選手を探す。そして、3人のバランスというところを、重要視しています。得点王が3人いたら強いのかと言われたら、そうではないと思いますし、やっぱり組み合わせです。そこは、リッチさんのバスケにはまる組み合わせというところですね。中には『他にも魅力的な選手がいるな』というのはかなりあったんですけど、予算もある中で、本当に組み合わせの中ではベストな組み合わせだったんじゃないでしょうか。」

こうした「Bリーグ慣れ」に関して、上原は「結果的にはこれでよかった」と付け加える。それがなぜかと言えば、このコロナ禍の影響に他ならない。今季のチーム始動は7月の上旬。上原への取材が8月の下旬。この間およそ2ヶ月近くにわたって、チームには外国籍選手が合流できていなかった。Bリーグ全体を見渡してみると、チームによっては契約に合意したまではいいものの、そもそもの合流の前提となる、日本への入国もままならない状況に陥っているところもある。改めて、外国籍選手にまつわる現状を聞いてみると、上原も影響の大きさを否定しなかった。

「予想外だったのは、もちろん外国籍選手が入国できていないことです。本来であれば8月の早ければ上旬、遅くても中旬にはみんな合流していくところなので、今の状態(8月29日現在)で9人しかチームにいません。そうなると、対人練習ができないっていうのが一番想定外です。リッチHCのバスケットシステムで行くと、外国籍選手しかできない動きがあって、そこを他の人にやらせてしまうと、その選手に別の意識が芽生えてしまいます。それは絶対にさせたくない。なので、外国籍選手のポジションには、今はコーチが入ったりしています。チーム作りとして、外国籍選手がいないというのは本当に大きいですよね。」

幸いにして、ロボッツに今季加入した外国人選手は、すでに在留資格を持っていたことから、すでに入国を果たし、チームへの合流に向けて調整が進められている。ここでも、Bリーグ経験が活きたという格好だ。

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