取材・文:小沼 克年|text by Katsutoshi Onuma
写真:茨城ロボッツ|photo by IBARAKI ROBOTS
206cm113kgの堂々たる体躯を持つタイラー・クックは、ロボッツに新たな風を吹き込む存在として期待がかかる。アメリカ出身のビッグマンは、幼い頃から周りよりも大きな身体だった。それもあってか、最初はバスケットに限らず様々なスポーツに取り組んだという。
「バスケ、アメフト、野球、サッカー、あとはホッケーもやっていました。12歳くらいまではアメフトを続けたいという気持ちが強かったけど、怪我が多かったから母に『もうアメフトはやめてバスケットを続けなさい』と言われて(笑)。それで13、14歳からバスケット1本に絞ることにしたんです」
来日を後押ししたのは元同僚のBリーガー
アイオワ大学を経てプロキャリアをスタートさせたクックは、2019-20シーズンにクリーブランド・キャバリアーズでNBAデビューを飾った。その後はNBA下部のGリーグで研鑽を積みながらも、NBA通算65試合に出場。2023年からはオーストラリア、スペイン、トルコのチームを渡り歩き、2025-26シーズンは新たな挑戦に踏み出した。
「5月くらいには日本でプレーすることを決めていました」。そう話すクックには、頼れる相談役がいた。大学時代、3年間一緒にプレーしたライアン・クリーナーである。現在、滋賀レイクスに所属するクリーナーは、2021年の来日以降Bリーグで活躍し続けている。
「クリーナーには数年前から『お前も早く日本に来た方がいい』って言われていて。今回、実際にオファーをもらってからも、それぞれの場所やチームについていろいろな情報を教えてもらいました」

気心の知れた仲間の後押しもあり、クックは日本のBリーグでプレーすることを決意。その中でロボッツを選んだ決め手には、こんな背景があった。
「日本に来ることは早い段階で決まっていましたけど、どのチームでプレーするかは悩んでいたんです。ロボッツとサインをする2週間くらい前に(クリス・ホルム)ヘッドコーチと電話で話す機会があって、その時に今のチーム状況やチームに足りない部分、自分に対して期待していることなどを、すごく具体的かつ正直に話してくれたので、それが決め手になりました。あとは(#0)ロバート・フランクスとも少し話をして、茨城は東京からも比較的近くて非常に便利な場所だということがわかったので、考え抜いた結果、ロボッツを選びました」

「自分自身を持つ」という哲学
まだ27歳と若いプレーヤーながら、これまで10以上のチームに所属してきた。それを良しとするかどうかは個々の価値観次第だ。しかし、環境が変わればその都度、異なる国やチームの文化を把握し、己を適応させる力が必要になる。いち早く信頼を勝ち取るために、コートでは自らの存在価値を示さなければならない。
「自分自身を持つ」
新しい環境にアジャストするために大事なことについて、クックは自らの考えを述べた。
「変化に対応することは大事です。けれど、しっかりと自分自身を持っていないと新しい環境に順応することは難しいと思っています。今回の移籍も『自分はこういう人間で、こういうプレーヤーだ』という確固たる信念を持った上で日本に来ました」
今季のロボッツのロスターは計12名のうち、新戦力は#1 小島元基、#9 ヤン ジェミン、そしてクックの3名のみ。継続路線でホルムHC体制2年目に挑む。クックは新たな仲間と積極的にコミュニケーションを図り、「変えるべきところや合わせるところは合わせて、その中でも自分自身の強みを出せるようにアジャストしています。僕の場合はディフェンスリバウンドを取ったらそのまま自分でボールプッシュできることが強みでもあるので、そこに関しては最初の練習から積極的にアピールしました」と、これまで同様のやり方でチームに溶け込もうとしている。

新天地で紡ぐ物語
身体能力を生かしたダイナミックなプレーを武器に、ロボッツに必要な“個で打開する力”を備えるクックは「一人のディフェンスだけでは自分のことは抑え込めない」と自信をのぞかせる。
「自分の強みはオフェンスをクリエイトすること」とも話し、「自分がアタックすることで周りを生かすこともできる。自分のスコアだけにこだわらず、チームメイトの良さも引き出せるようなプレーでチームに貢献していきたい」と理想の勝ち筋を思い描く。ホルムHCからの「ディフェンスでもインパクト残してほしい」という要求も、新たな挑戦として前向きに応えている。

新しい環境を存分に楽しんでいるのは、バスケットに励んでいる時だけではない。単身で来日したクックは、プライベートでも意欲的に行動を起こしている。
「オフの日は家でじっとしているタイプだけど、新しい国に来たので今は外に出ることを心がけています。東京に行くことが多くて、結構歩き回っています(笑)」
プライベートサウナ、時計屋、ラーメン店、レストラン巡り──。特にラーメンチェーン店の『一蘭』は水戸にもお店があることを知り、これから常連になりそうだと顔をほころばせながら話した。語学アプリで日本語の習得に取り組む姿勢からも、新天地に溶け込もうとする熱意が感じられる。
「一番の目標は、このチームで30勝を達成すること。そのためには毎試合しっかりとしたパフォーマンスを発揮することが大事です。個人としても60試合という長いシーズンを通して、自分が自分であり続けることを意識して戦いたい」
住む場所が変わり、バスケットのスタイルも変わる。これまで何度も繰り返してきた。けれど、「自分自身を持つこと」は変わらない。数えきれない努力と学びを重ねてきた27歳は今、Bリーグ、そして茨城ロボッツという舞台でまた新たな物語を紡ぎ始めた。



