【AFTER GAME】 2022-23 三遠戦(10/15〜16)〜22点差を逆転完了。最後は遂行力で上回って連敗ストップ~

取材・文:荒 大 text by Masaru ARA 写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKIROBOTS

シーズン中唯一となる、日立開催のホームゲーム。ロボッツは日立市・池の川さくらアリーナに、中地区の三遠ネオフェニックスを迎えた。今シーズンのホーム初勝利を狙うも、GAME1は先行しながら形勢をひっくり返されて80-90で敗戦。GAME2も第3クォーター終了直前に22点差を付けられる展開となりながら、第4クォーターで猛追、残り7秒で逆転に成功し、96-94で勝利した。劇的勝利を手繰り寄せたのは、メンタリティもさることながら、チームとしての遂行力に立ち返った戦いができたからこそだった。今節のAFTER GAMEは、コート内外のドラマがたっぷり詰まったGAME2にフォーカスしていく。

ムードを解き放ったキャプテン

GAME2の開始前、コートの片隅に突然ロボッツの選手たちが輪を作っていた。集まっているのは選手たちだけだった。その輪の中で、#25平尾充庸がメッセージを伝える。

「自分の役割だったり、チームの決め事だったりを遂行しよう。そこから、やることをしっかりやれば、絶対に楽しいバスケットができるから。シュートを迷うな、思いっきり打とう。入らなかったらしょうがない、全員で戻ろう。そういうバスケットをしよう。もう1回見つめ直そう。それはもうアップから、全力で楽しもう」

この円陣は、平尾と#21エリック・ジェイコブセンが、チームの現状を見つめた上で急遽打ち合わせて行ったものだった。

「どうしても、チームは勝ちに飢えていますし、昨日のように、出だしが良くても後半で巻き返されたとか、途中から自分たちのリズムが崩れていくとか、悪循環になっていったと思っていたんです。こうなると、どうしてもみんなは下を向きがちだし、『楽しむことを忘れている』と、エリックとも話していたんです。エリックからは『日本人選手に伝えて』と言われたんですけど、日本人選手だけに言うのも違う気がしたので、みんなを集めて話をしました」

そんな雰囲気はすぐに選手たちに伝わっていく。開幕以来、一際大きな声でベンチから鼓舞する#2福澤晃平も、この日は特にボディランゲージも含めてチームを盛り立てていた。その声は、コートの対極に位置する記者席でもはっきりと聞き取れる。そうした姿を、コート上にいたメンバーたちはどう見つめていたのだろうか。平尾に改めて尋ねる。

「新しい選手も入ってきて、彼自身も非常に今もがいてるときだとは思うんです。それでも、彼は彼でいつもやっぱり仕事をしてくれる。また、彼のいいところって自分が出ていなくても、もし調子が悪くても、ベンチであれだけ声を出せる。そんな選手が何人いるか。数えたときに、Bリーグを探しても、そこまでいないと思うんです」

今季の福澤は、昨シーズンまでのようなプレータイムを得られない日々が続く。それでも、ベンチにいる限り、自らにできるタスクをこなし、コート上に熱意を伝えていく。第4クォーターの序盤に個人ファウルが5つに達してコートを去らざるを得なかった#17山口颯斗、あるいは開幕以来出場機会がなかなか訪れない#33林翔太郎や#88ジャワラジョゼフ、時にロスター外となる#24鍵冨太雅にしても同じこと。押せ押せのムードの中で、彼らもまたコート上の5人の背中を押した。

「ベンチでの振る舞いについては、コーチからも言われるポイントではあるんです。ただ、いくら『声を出せ』と言われても、僕がベンチにいたとして、頑張っていない人たちを応援したくはない。応援してもらうためにも、まずはコートに立った人間がどれだけ一生懸命頑張るか。シュートが入るか入らないかじゃなくて、泥臭くバスケットをすること。そこが見られることで、やはりベンチももちろん応援したくなるし、またブースターの方だったりファンの方だったりも、やっぱり応援したくなるようなチームになってくると思うんです」

記者会見を終えて「勝って反省、ね」と言って会見場を後にした平尾。これだけマインドを変えうる出来事が多く起きて、それでもなお敗れたとなっては、その後のチームの姿がどうなってしまうか。勝ったことでできる反省もある。チームとしての姿も留められる。つくづく、大きな1勝だった。

「先手」に立ち返った10分間

改めてコート上の出来事を振り返ると、第4クォーター開始の時点で、ロボッツは山口と#13中村功平をコートに立たせる。この段階で、共に個人ファウルは4つ。つまり1つのファウルが命取り…という状況だった。点差は第3クォーター開始時点と変わらぬ21点。どう巻き返すか…というところでロボッツは必死に先手を打ってくる。このクォーターの10分間、コートに立ち続けた平尾はこう振り返る。

「一番ハマったのは、『トラップ』というディフェンスでした。もちろんギャンブル的なディフェンスでもあるんですけど、うまくハマってくれたし、あとは三遠さんからすれば、点差があるので少しでも時間を使いたい。つまり、オフェンスにおいても『守り』が出るので、非常に嫌だったと思うんです」

「トラップ」が何かをここで説明しておくと、相手の進路を塞ぎつつも、ディフェンスの対策がしやすい方へ、しやすい方へとおびき出すように守っていく。この第4クォーターにおいて言うならば、空いているように見えたコースへボールを出させると、「待ってました」とばかりに中村や#11チェハーレス・タプスコットがスティールを決めて、そのまま突進していった。実際の場面と合わせて見ると、その効果のほどが伝わるだろう。

加えて、この第4クォーターでは、三遠のベンチワークも後手に回らざるを得なかった。ロボッツに第3クォーターで追撃を許した際に、既に三遠はタイムアウトを1つ使っていたのである。後半で使えるタイムアウトは3つ。時間を取って次の策を伝え、落ち着かせる…という状況を作りたくても、下手に使い切ってしまうと、最終盤のここぞ、というタイミングでゲームを締めくくるための指示を出す時間が取れない。「シーズンに入ってから、ゲームの締めくくりが課題だった中で、露呈していなかった部分がここで出てしまった」とは、三遠・大野篤史HCの弁だ。

選手起用においても同じことだった。山口の退場に伴って選手交代をする必要があったのだが、ここでリチャード・グレスマンHCが起用したのは、この試合のプレータイムが決して長くなかった#1トーマス・ケネディだった。起用の意図について、グレスマンHCはこう話す。

「率直に言って、マッチアップの関係だったり、どのケースでコートに立たせるべきかを模索しながらだったので、それまでのプレータイムが限られてしまっていました。ただ、山口選手がファウルアウトとなった場面で、何かを変えなくてはいけない。そこで彼をコートに送ったわけですが、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました」

この試合、それまでフィールドゴールがなかったケネディだが、ここから圧巻のシュートラッシュを見舞う。目の前が空けば迷わず打っていく。少々ボールが停滞しかけたところで、ミスマッチを見つけてゴール下を打開し、このクォーターだけで13得点を挙げる。極めつけは最終盤にリバウンドを2本奪い、同点・逆転への起点となった。

「全てのチャンスを最大限のものにしよう、という準備を進めていました。リバウンドについても、追いかけようとしなければ、取れるものも取れません。最後までやり続ける、ということでチャンスをものにできたのではないかと思います。」

そしてとどめは、ボールがないところで平尾がファウルをもらってのフリースロー。この時、平尾は三遠の若き司令塔で、奇しくも天理大学の後輩にあたる#24佐々木隆成を相手にしていたわけだが、その瞬間は「フリースローが得意な方、というのもあるので『しめしめ』でした」と振り返る。自信を持って投じたというボールは、2本ともリングへ吸い込まれる。残り7秒、ファウルは厳禁ながら、必死にパスやドライブのコースを消していく。三遠の#4アイゼイア・ヒックスはタプスコットのチェックを受け、シュートもパスもできぬまま、試合終了のブザーが鳴る。最後の最後に10分間をフルに使っての猛追劇は、最後の最後に相手を振り切って幕を閉じた。

連日詰めかけた3000人

開幕節に引き続き、この日立にも多くの観客が詰めかけた。2日間ともに3000人を超える入場者を記録し(GAME1:3078人、GAME2:3011人)、コンパクトなアリーナを熱さで包み込んだ。ちなみに、半年前に行われた横浜ビー・コルセアーズ戦の入場者は1743人。これまでの最多は2019年10月の仙台89ERS戦で記録した1958人だったことを考えれば、その盛況ぶりも際立つだろう。GAME2を終えての記者会見では、平尾やグレスマンHCが改めて感謝を述べた。

「この前の日立開催を超えるお客さんがいらっしゃって、前回は1700人ほどだったはずです。多分、その中だったら今日は負けていたはずです。3000人以上の方が会場を青に染めてくれて、僕たちの背中を押してくれたからこそ22点差を巻き返せたのだと思います(平尾)」

「コート上だけでは感謝を伝えきることができなかったので、もっと話させてください。連日たくさんの方に来ていただき、本当にありがとうございました。この環境や雰囲気はとても素晴らしく、20点以上の大差からカムバックできたのは、ファンの皆さんの力が非常に大きく、皆さんのおかげで勝つことができました(グレスマンHC)」

昨シーズン、かみす防災アリーナ、つくばカピオアリーナ、もちろんアダストリアみとアリーナでの勝利はあったのだが、この池の川さくらアリーナでだけは勝てなかった。2020年10月に青森ワッツに勝って以来となる日立での勝利は、うれしいB1での日立初勝利となった。

ここからのホームゲームはしばらく水曜日開催が続くが、「今シーズン中にもう一度…」と思った方は、ぜひ他のホームアリーナでの観戦もお願いしたい。それぞれのアリーナの良さも味わえるだろうし、その過程でもっとロボッツに愛着を持ってもらえるはずだ。

目指すは「海賊狩り」

次節は敵地での開催。対戦相手は中地区の横浜ビー・コルセアーズだ。試合会場は横浜国際プールが予定されており、ロボッツとしては初見参の地となる(昨シーズン、横浜BCホームの試合は横浜武道館で開催)。暴れん坊の海賊集団の本拠地で、どのような戦いが繰り広げられるだろうか。

横浜BCは、前節の試合で#1パトリック・アウダと#6赤穂雷太が欠場。それでも開幕から絶好調だった名古屋ダイヤモンドドルフィンズを相手に1勝をもぎ取っている。そんな状況を可能としているのが、全体的なバランスの良さ。#5河村勇輝のオフェンスクリエイティブ能力の高さはもちろん、昨シーズンは不安定だった外国籍選手のパフォーマンスにおいても、#10チャールズ・ジャクソンと#15デビン・オリバーが黒子役と主役の座を入れ替えながら戦っていく。シーズン直前まで行われたチェコ代表での活動もあって、アウダがフル稼働とは行かない状況もありながら、しっかりとオフェンシブな戦いを維持できている。安定感のあるパフォーマンスはスタッツにも表れ、ペイントエリアでの得点では現在リーグ1位の44.7得点、リバウンドを奪ってのセカンドチャンスでの得点もリーグ2位の14.8得点という数値は、改めて注意せねばならないポイントだろう。

一方で、横浜BCのウィークポイントとしては、ファウルや、それに伴うフリースローでの失点が多い(1試合平均14.8失点=リーグワースト5位)こと。また、3Pシュートを抑えられない傾向にもあるので、ここをロボッツがどう突くか、という勝負ポイントになっていくだろう。

そんな中でロボッツのキーマンは、今季のアピール度合いが著しい中村だろう。相手のディフェンスを割って入るスキルも、前が開けた状況で3Pシュートを撃ち抜くセンスも、今季は間違いなく良い状態を保てている。平尾、福澤、さらには#8多嶋朝飛らと繰り広げる激しいガード陣争いの中で、着実に信頼を得ている様子も見られているだけに、これを持続できるかがポイントになるはずだ。

昨シーズンは3戦して未勝利に終わった横浜BC戦。海賊狩りを果たして、チームの成長を見せつけられるかを楽しみにしたい。

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