取材:文:佐藤拓也 text by Takuya SATO
写真:茨城ロボッツ、B.LEAGUE photo by IBARAKIROBOTS,B.LEAGUE
激動の1カ月だった。
11月3日にジェームズ・アンドリセヴィッチスーパーバイジングヘッドコーチ(SVHC)を解任。翌日の長崎戦は敗戦を喫したが、2日後の第2戦において92対88で今季初勝利を挙げた。
そして11月中旬から突入した、約2週間のバイウィーク期間中には2020-21シーズンから3シーズンにわたって指揮を執ったリチャード・グレスマンHCを再招聘し、さらには#84ジョニー・オブライアントの加入を発表した。
昨季までのスタイルに戻す
開幕10連敗と大きく出遅れ、11月5日に初白星を掴んだものの、第7節から再び黒星が並び3連敗を喫するなど、中々調子を上げることができないまま、東地区最下位に低迷。その苦境から抜け出すためにリーグ戦再開まで2週間という時間の中、グレスマンHCはチームの立て直しに尽力した。
「昨年までの戦術に戻り、今までの戦術とすべて変わりました」
#17山口颯斗がチームの変化をそう語るように、昨季までのスタイルに戻すことによって、チームを生まれ変わらせようとしたのだった。
そして挑んだバイウィーク明け初戦。対するは今季西地区で猛威を振るう名古屋ダイヤモンドドルフィンズ。強豪との一戦で見せたのは、変革への萌芽だった。
第1Qは後手に回ってリードを奪われてしまうが、第2Qに入ると、ロボッツらしいアグレッシブな姿勢を前面に出せるようになり、名古屋Dのターンオーバーを誘発。そこから勢いよく攻め立て、「確率の高いシュートで終われるようになった」とグレスマンHCが振り返ったように、スピーディーな攻撃で名古屋の守備を翻弄して得点を重ねていった。そして、48対44とリードして前半を終えることに成功した。
「良いボール回しから得点をすることができていたと思います。昨季までリッチHCと一緒にやっていた選手が多いので、前半は昨季までのスタイルのバスケの中で選手個々とチームの良いところを出せていました」
ハーフタイムに山口は手応えを感じていたという。グレスマンHCのもと、勢いを取り戻したロボッツ。後半もその勢いのまま畳みかけたかった。
1試合通して継続する課題に直面
しかし、名古屋Dが一枚上手だった。
後半はゾーンディフェンスに切り替え、激しくなった名古屋Dのプレッシャーに封じられて攻撃は停滞し、11得点しか挙げることができなかった。一方、名古屋Dの厚みのある攻撃を食い止めることができずに21失点を喫して、逆転を許した。
第4Qも名古屋Dの勢いを止めきれず、さらに差を広げられて試合は終了。グレスマンHC復帰初戦を白星で飾ることはできなかった。
「スタッツを見る限り、ターンオーバーにおいて選手たちは良い仕事をしてくれたと思います。そこは改善できたと感じています。ただ、クォーターによってアップテンポなバスケができなくなり、相手がプレッシャーを上げてきた時に止まってしまう課題が出ました。私は常に動き続けるように求めていますが、まだそれができていません」
グレスマンHCは唇を噛んだ。
山口はチーム作りの時間の少なさをその原因として挙げた。
「前半はチームとして良いところを出せましたが、後半に相手がゾーンディフェンスに切り替えてきてから、練習の少なさゆえの雑さが出てしまったと思います。チームとしてまとまることができず、その流れを引きずってしまいました」
第2Qの戦いぶりが証明するように、グレスマンHCのもと、チームとしてのスタイルは明確で、体現できた時には上位チームをも凌駕する力を発揮することができる。ただ、それをいかに1試合通して継続するかという課題にも直面した。
だが、現状改善できずにいる。グレスマンHC就任以降7連敗中。初戦の名古屋D戦同様、前半はペースをつかんで互角の戦いに持ち込むことができているものの、後半で失速してしまう戦いが続いている。
第12節群馬戦後、グレスマンHCは悔し気な表情でチームの現状について言及した。
「今シーズンを通して、第3Qで苦しんでいます。(理由の)一つは、相手が強度を上げてきて、それに対して、自分たちはミスを起こせない状況になってしまうことが挙げられます。そうなると、オフェンスもディフェンスも難しい試合になってきます。群馬さんのようなタレントのあるチームに対しても、4Q中3Qは20点以下に抑えているのですが、1つのクォーターでやられてしまっています。ビッグクォーターを出さずに、1試合を通して守り切らなければいけないと思っています」
相手がペースを変えてきた時に対応する力を身につけなければならない。分かってはいても、改善しきれないもどかしさを抱き続けている。
だからといって、ここで自分たちのスタイルをぶらすわけにはいかない。苦境を乗り越えるためにも、大切なのは自分たちのスタイルをぶれずに積み上げていくこと。苦しい今こそ、どんな時でも一つになって前進していくロボッツのアイデンティティーが問われている。やまない雨はない。明けない夜はない。苦しみの先に必ずまぶしい光が差し込んでくる。そう信じて戦い続ける。
新加入選手を融合させて起こす化学反応
勝利から遠ざかってはいるものの、光明も見えている。
一つは新加入オブライアントの活躍だ。身長206cmの高さを活かしたパワフルなプレーだけでなく、運動能力が高く、俊敏な動きを見せて攻守でチームに貢献している。デビュー戦となった名古屋戦で16得点を決める活躍を披露すると、その後、7試合に出場して、1試合平均15.9得点という高い得点力を誇っている。これからコンディションを上げ、さらにロボッツのバスケに慣れて、チームメイトと連係を深めていけば、チームを引っ張る存在になってくれることだろう。
「ジョニー(#84ジョニー・オブライアント)は1on1で点を取れるし、ピック&ポップで3Pシュートを打てるので、非常にスペーシングが広がって、他の選手も得点しやすくなっています。アンガス(#9アンガス・ブラント)とは正反対のプレースタイルなので、二極化を活かした攻撃で相手の嫌がる戦い方ができるのではないかと思っています」
山口は期待を寄せている。
そして、もう一つは特別指定選手として登録されている#18大庭圭太郎の台頭が挙げられる。驚異的なスピードを駆使したプレーで攻守において躍動を見せて、チームにアクセントを加えている。試合を重ねるごとに存在感を示しつつ、プレー時間を徐々に増やしていき、12月17日の群馬戦では20分以上のプレータイムを得るに至った。
チーム最年少の21歳。「ディフェンスやスピードに関して、少しは通用してきているなという感覚はあります。ただ、バスケットボールIQや戦術の部分が、20試合を重ねて課題として感じています」と語る若きPGのさらなる進化に期待せずにはいられない。
リーグの3分の1が終了。1勝20敗という成績に誰もがもどかしい思いを感じていることだろう。だが、下を向いている時間はない。
グレスマンHCのもと、戦術と連係を深めながら、新戦力を融合させて、さらなる化学反応を起こしていく。そして、不屈の闘志で這い上がる。