【AFTER GAME】 2023-24 Vol.1 ~産みの苦しみを経て、再びのドラマ~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:茨城ロボッツ、B.LEAGUE photo by IBARAKIROBOTS,B.LEAGUE

B.LEAGUE 2023-24シーズンの開幕以来、ロボッツはなかなか勝利を得られない戦いが続いた。攻守ともに噛み合いきらない戦いが続く中、ジェームズ・アンドリセヴィッチスーパーバイジングヘッドコーチ(SVHC)が解任され、クリス・ホルムHCが後任の指揮官となっての戦いが始まった。その直後に行われた、日立市・池の川さくらアリーナでの長崎ヴェルカ戦で、ロボッツは待望となる今シーズン初勝利を挙げてみせた。「日立開催のGAME2」にて、再び起きたドラマティックな戦いぶりを中心に、シーズン序盤の戦いを振り返っていく。

オフェンスの迷いを解消して

シーズン開幕前の段階から、ロボッツは司令塔の#25平尾充庸の欠場が続いた。これによって、ボール運びからオフェンスの組み立てまでを誰が担当するか、という課題が発生する。昨シーズン以前もいわゆる「ポイントフォワード」という形を見せていた#11チェハーレス・タプスコットがオフェンスを組み立てたものの、ボールムーブメントがなかなか作りきれないシーンも目立った。

#13中村功平や#17山口颯斗などもオフェンスクリエイトに参加する形で負担の分散を狙ったが、ターンオーバーの多さも課題として付きまとう。昨シーズンはリーグで7番目に少ない1試合平均11.7本だったターンオーバーが、長崎戦終了時点では平均16.3本とリーグワーストの状態だった。ホーム開幕節となるファイティングイーグルス名古屋との一戦を終えたところで、中村はやや戸惑いを思わせる言葉を残していた。

「相手のプレーに対応して色々と動くよりも『自分たちのバスケットをすれば勝てる』と意気込んで臨んだのですが、どうしても流れの中でアップダウンがありました。シュートが落ちてしまうことがディフェンスにも伝染してしまうようなこともありました。『ミスをしないように』と僕らも意識するがゆえに、思いきりの良さが出せなくなっているのではとも感じるので、今が我慢の時ではとも思います」

その後も、相手に食い下がるも、勝負どころで相手に上回られる状況が続いていたロボッツ。勝利した長崎戦のGAME2でも、ターンオーバーはシーズンワーストとなる22本とかさんだものの、そこから簡単には相手に流れを渡さず。これまでとは一段違ったコート上の躍動感を見せて挑み続けて、ついに勝利へとつなげた。ホルムHCは「組織的なオフェンス(organized offense)をしよう」と掲げていたそうで、その狙いについて、次のように説く。

「長崎さんと我々のバスケットスタイルは似ているとは思いますが、GAME1ではハンドラーやポイントガードになる選手がボールを持つ時間が長くなってしまい、良いリズムでの攻撃ができませんでした。GAME2に当たっては、なるべくハンドラーがボールを持たないように、決められたパターンでのプレーをやり続けさせました。実際、これをきっかけに良い流れのオフェンスにつながったのではと感じています」

例えば目に付いたシーンで言えば、3ポイントライン付近で#9アンガス・ブラントがボールを持ち、中村や#1トーマス・ケネディなどがその周囲を動き回る。一見、ゴールから遠い場所でボールが留まるように見えたが、その時間で人がしっかりと動くことでズレが生まれる。ハーフコートから始まるオフェンスながら、スピード感は消えていなかった。

そして、ズレが生まれればと言わんばかりに、相手とのギャップを突いての得点シーンが量産されていった。また、外からのオフェンスであっても、ボールが止まらないようにオープンスペースを作り出し、そこをきっかけに押し破って得点を稼ぐという、ロボッツならではというシーンも戻ってきた。

まだまだ粗削りな部分はあるかもしれない。だが、その中でホルムHCが与えた「やり続ける」というミッションが、ある意味、コート上の迷いを振り払っていくことにつながったのかもしれない。

「全てを出し切れ」

勝利を果たした長崎戦GAME2では、ホルムHCはともかくシンプルかつ要点を掴んだ指示を選手たちに与えていた。オフェンス面の指示は先述したとおりだが、ディフェンス面でも要点をシンプルに絞り込んでいった。

「ディフェンスについてはリバウンドを重視しました。4人の選手が6本以上のリバウンドを取ってくれましたし、オフェンスリバウンドにも全員が絡みに行きました。同時に『コートに出たら全てを出しきっていこう』と伝えました。それを体現したからこその勝利でしょう(ホルムHC)」

長崎の速さのあるプレーを封じるには、リバウンドの獲得は大きなファクターを握る。最終盤で勝利を逃してしまった群馬クレインサンダーズ戦のGAME2でも、終盤にリバウンドを掴まれたことが、勝負の分かれ目となったことは否めない。

掴ませないこと、一瞬でも遅らせること。その積み重ねがどの局面でも展開されていった。また、相手のほころびに対しては容赦なく襲いかかる。第2クォーター終盤には、立て続けにディフェンスからボールを奪って速攻を見舞い、タプスコットやケネディがゴールまで走り込んで速攻を完成させ、逆転まで持ち込んだ。たびたびバスケットカウントを奪って流れを呼び込んだタプスコットは、試合を振り返って、チームとしての勝利を称えた。

「(勝利できたことは)率直に言ってうれしいです。今日の勝利によってチームとしてのスタンダードができたと思えますので、ここからの積み上げを大事にしたいです。私たちのチームには『心』を大事にしてプレーする選手たちが多いです。その中で、コートに立った選手たちが『いかに全員で一緒にプレーするか』を考え続けた結果、勝利できたと感じています」

昨シーズンの日立開催となった三遠ネオフェニックスとの戦いでは、第4クォーターに10分間フルに出場し、22点差の逆転劇を手繰り寄せた。この日も最終盤に長崎が猛追を仕掛ける中で、長崎の#7ジャレル・ブラントリーを押し込んでバスケットカウントを奪う。「まさか、今日も…」と感じた人がいるであろう中でのビッグプレーで、アリーナは一気に沸き立った。

「日立で試合ができて、またそこで勝てたこと。日立という場所との相性の良さもあるだろうと感じています。同時に、ファンの方々のサポートの熱気を感じました。長崎さんがフリースローを打つタイミングで、とても大きなノイズを立ててくれたのも含めて、助けになったと感じています(タプスコット)」

山口が試合直後のインタビューで「勝てたのは僕たちだけでなく、皆さんのおかげ」と述べたように、4000人を超す観衆の中で、ロボッツの勝利を願うアリーナ全体の熱量がついに結実した瞬間だっただろう。この1勝を収穫に、次の勝利を求めていきたい。

強敵との戦いは続く

ロボッツとしては、ここからも強敵との戦いが続く。11月後半の中断期間を経て、昇格以来まだ勝利を果たせていない名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの戦いも待ち受けている。ここを皮切りに、12月はホームゲーム8試合が行われるだけに、真っ青なアリーナの応援を背に、勝利を重ねてほしい。

長崎戦GAME2ではケネディ、ブラント、タプスコット、中村、山口の5人が2桁得点を記録し、#29鶴巻啓太もそこに迫る9得点を挙げた。このバランスの良さに追随する動きが現れると、大きくチーム状況は変化していくはず。#25平尾充庸を始めとして、得点力のある選手は揃っているわけで、調子の噛み合ったゲームを、早く見たいところだろう。

ようやく「『初日』が出た」、今シーズンの茨城ロボッツ。ここからの巻き返しを期待していきたい。

おすすめの記事