#14 久岡幸太郎「キャリアの全てを懸けて、チャレンジする道を選んだ」-後編-

取材:文:鳴神 富一 text by Tomikazu Narukami

写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKI ROBOTS

2024年1月にロボッツに加入したのが、#14久岡幸太郎。バスケット人生を懸けた挑戦、ダメなら引退という相当な覚悟を持ってB1でのプレーを望んだ、今シーズン。シーズンオフにチャレンジする中で、広島ドラゴンフライズから声が掛かり、練習生として加入。その後選手契約を果たすも、ロスターの関係上で再び練習生へ。

そんな状況下でロボッツが正式に選手契約としてオファーを出し、それを久岡自身が受諾して、晴れてB1の舞台に戻ってきた。

前編に続き、今回の後編ではロボッツファミリーに加わる大きな理由となったチームメイトの存在、B1のコートに再び戻ってきたことへの思いなどを語ってもらった。

#14 久岡幸太郎「キャリアの全てを懸けて、チャレンジする道を選んだ」 -前編-

大学時代を共に過ごした「中村功平」と「鶴巻啓太」の大きな存在

ロボッツに移籍するにあたって大きな理由となったのが、「自分が心を許していて、親しい友人でもある大学の同期が2人もチームにいるということ」であった。その2人というのが中央大学時代に4年間苦楽を共にした、同期でもある#13中村功平と#29鶴巻啓太である。

「彼ら2人がいるということでオファーを断る選択肢はなかった」と言い切るくらい、中村と鶴巻の存在は、精神的にもタフな状況にいた久岡にとっては大きかったのであろう。チームに合流後も全く新たな場所に来たと感じることがないくらいの雰囲気を彼ら2人も含めて、チームで作ってくれたのはありがたかったと言葉を続ける。まさしく「心友」の存在が久岡のチャレンジを、より前に推し進めてくれたというのも過言ではない。

「彼らはそんなにバスケットの中では喋るタイプではなく、黙々と自分の仕事を遂行するタイプですけど、良い空気感を作ってくれていたなと感じています。合流して間もなくても、新しいチームに来たと思わないくらいの入り込みやすさがロボッツにはありました。もちろん平尾さん(#25 平尾充庸)がチームもまとめてくれ、若手の選手も多分僕に気を遣ってくれて色々と積極的に接してくれていたなと。コーチ陣も新加入の選手が来たら、積極的にコミュニケーションを取ろうと指示していました。今思うと同期の2人もそうだし、チーム全体の助けもあって、心の充実があるのかなと感じています」

そんな中村と鶴巻ではあるが、普段は「めちゃめちゃ喋りますよ(笑)僕の方が喋らないくらいかも…」とのこと。プライベートでは大学時代に戻ったかのような時間を3人で過ごしているようだ。

「自分がロボッツに来てから1ヶ月くらいは、ほぼ毎日一緒にご飯を食べていましたね。自分はインドア派なのですが、2人が連絡をくれて、色々と連れて行ってくれました。だいだい家にいると『今、何をしている?』と連絡が来て、話しているうちに『ご飯、行こうぜ』という流れになって…。大学時代に戻った感覚でした」

「それでも仲の良さから出る、プライベートでの気軽さや緩さをコート上には持ち込んではいけないと感じていて、締めるところは締めていく。それがプロ選手ですし、大切だと思っています。コート上では3人がやるべきことをしっかり遂行して、コートを離れてプライベートになったら仲の良い関係に戻る。そういうベストな関係を継続していきたいですね」

予言していたことが実現、本人たちも驚きを隠せなかった

大学の同期が3人も同じプロクラブにいること、なかなか例を見ない形である。周囲はもちろんのこと、当の本人たちも驚きを隠せなかったようだ。

「いつか一緒にプレーすることになるかもしれないねという話を、前から連絡を取り合っている時にしていたんですよね。それで『本当にそうなったら、驚きだよね』って冗談で話していたら本当に実現して(笑)」

久岡のロボッツ加入のリリースが出た瞬間、周囲からは物凄い連絡が来た上に、全員が面白がっていたという。一方の本人たちは、冗談で話していたことが実現したことで、驚きを隠せなかったそうだ。

「ちょっと最初は信じられないというか、3人で話して『本当に実現したね』という言葉しかなくて。自分の中ではプロキャリアの中で大学の同期もそうですし、今までプレーした仲間の誰か1人と、いつかプロの舞台でプレーできれば嬉しいなと思っていました。それがまさか2人同時で実現するなんて、夢みたいです」

「大学4年生のインカレ(全日本大学選手権)では成績を残せなかったけど、その前の春のトーナメントでは良い形でプレーできて。そういう苦楽を共にした4年間の心友って、人生でも大きな存在だし、たくさんの思い出があって…。そこから時を経て、自分自身としては激動の1シーズンの最後がロボッツで、さらに大学の心友がいる。人生のストーリーとしてはワクワクしたし、ありがたかったです」

キャリアの進退を懸けてまで追い求め続けた、B1という舞台。それに加え、「心友」と共に時間を再び過ごすことを実現させてくれたクラブへの感謝を、久岡は忘れない。

「本当にロボッツファミリーの皆さんは、来てくれて本当にありがとうと言ってくれます。僕としては、こんな素晴らしいチャンスや機会を与えてくれて、逆にありがとうという気持ちでいっぱいですね」

チャンスをくれた人たちに、そして支えてくれる人たちに恩返しをしたい

感謝の気持ちを持ちながら戦い続けた今シーズン、昨シーズンの香川ファイブアローズから広島ドラゴンフライズ、そして広島からロボッツとシーズンに2度の移籍をするという日本では多く見られない経験をした久岡。覚悟を決めていたものの、やはり心の中ではさまざまな感情がうごめいていた。

「人生27年間しか生きていないですけど、本当に難しく、一番過酷というか色んな感情に揺さぶられた時間だと思っています。ただ、その中で感じたのが今の熱量で今までも日々を過ごすべきだったということ。平凡な僕みたいな選手がトップを目指すためには、時間の過ごし方やバスケットへの向き合い方など、突き詰めていかないと生き残っていけない。後がない状況になって人間って大切なことに気づくもので、僕も全てを懸けて投げ打って戦う覚悟でシーズンインして、苦しんで辛い思いをした。でも、そういう熱量で最初からできる選手がトップでいられるということが分かりました」

「覚悟を持って挑戦したことには今でも悔いはなく、とても充実した時間を過ごしています。この挑戦が失敗に終わったとしても、後悔はしないですね」

そういう思いがあるからこそ、結果を出してしっかりとチームに貢献したいと、久岡自身は感じている。その背景には個人的に「恩返しがしたい」という思いがあった。 「環境に恵まれて、人に恵まれて、僕はこの場所に立てているので。広島の人たちや今までのプレーさせてもらったチームに対しても、そして今の茨城に対しても、結果を出すことでしか恩返しできない部分ってあるので追い求めてきました。そして、両親や今まで支えてくれた人たちにも恩返したいです。実家(群馬県)からも近くなって、両親も喜んでくれて、試合も観に来やすくなりました。親孝行をしたいというのも実は今、大きなモチベーションにもなっています」

ここで終わらせたくはない、自分自身のチャレンジ

今シーズンがダメならバスケットを引退する覚悟で全てを懸けて挑んだ、久岡であったが、ロボッツに移籍後も競争の中でプレータイムは思うように多く勝ち取れなかった。それでも「苦しい成績でもブースターの人たちが物凄い熱量を持って前を向いていて、様々な場所でその熱量に僕ら選手たちは勇気づけられて、ここまで来られました」と感謝の言葉を口にした。そして「だからこそ、素晴らしい環境や雰囲気があるロボッツはB1継続をした上で、Bプレミアに進むべきクラブだなと思っています」と続けた。

ステップアップしていくロボッツの歩みと同じように、久岡自身もより高みを目指して、理想を追い求めていきたいと最後に強く意気込んだ。

「今続いているロボッツのストーリーと同じように、来シーズン以降もB1の舞台で自分自身は戦いたいと思っています。まだまだ支えてくれた人への恩返しもしたいです。そして、その先にあるBプレミアの舞台に選手として立てるように頑張りたい。覚悟を持って挑んだ今シーズンのストーリーをここで終わらせることなく、これからも続けていきたいと思っています」

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