#9 アンガス・ブラント ~This too shall pass(これもまた過ぎ去るだろう)~

取材:文:佐藤 拓也 text by Takuya SATO

写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKI ROBOTS

9月11日、茨城ロボッツは#21 エリック・ジェイコブセンが右足舟状骨骨折偽関節というけがを負い、インジュアリーリストに登録したことを発表。それに伴い、同日に#9 アンガス・ブラントの契約合意を発表した。

オーストラリア出身のブラントは現在33歳。NBL(オーストラリア)では新人王の獲得、2度の優勝に輝いた実績を持つ。世界ランキング4位(2023年9月時点)のオーストラリア代表歴もあり、208cmの身長を活かしたポストプレーに加えて、速攻で前線を走るランニングプレーを得意としている。昨季#21 ジェイコブセンが担っていたセンターとして、力強くチームを引っ張る役割が期待されている。

大怪我に苦しんだ昨シーズン

日本でプレーして4シーズン目。来日前は「日本の地理や文化はまったく分からなかった」というが、実際に日本でプレーしてみて、年々向上するBリーグのレベルに驚いているという。

「毎シーズン、Bリーグのレベルが上がっていることを感じています。B1、B2関係なく、レベルが上がっており、Bリーグ発足から数年しか経っていませんが、成長が目に見えるように分かるんです。そんなBリーグでプレーすることはすごく楽しいですし、日本の人たちはすごく優しいので、出来る限り長く日本でプレーしたいという思いを持っています」

そんなブラントに不運が襲い掛かったのは昨年12月のこと。2021-22シーズンには香川ファイブアローズの中心選手としてチームのB2プレーオフ2021-22進出に貢献。2022-23シーズンも前半戦は活躍を見せていたものの、左アキレス腱付着部症という大怪我を負い、インジュアリーリストに登録されることとなり、それ以降戦列を離れることとなってしまった。

「昨シーズン怪我をしてしまい、シーズンが終わった時にも怪我をしている状態だったこともあり、香川から契約延長のオファーをいただけなかったんです。そこから色々なチームが私を候補として挙げてくれたみたいですが、昨シーズンの半分をプレーできていなかったこともあって、コンディション面に関して疑問視されたみたいで、オファーが届くことはありませんでした。でも、それは当たり前のことだと思っています」

シーズン終了後、自らの置かれた状況を受け止めながら、新たな道を探す日々が続いていた。そこで届いたのが、ジェイコブセンの代わりにセンタープレーヤーを探していたロボッツからのオファーだった。

「ジェイコブセン選手が怪我をしたということで、僕のもとにオファーが届いたんです。その時、アメリカにいましたが、これはチャンスだと思って二つ返事で移籍することを決めました」

「ハードワーク」がモットー

ロボッツがB2に所属していた2020-21シーズンはB1でプレーし、ロボッツがB1に昇格してからはB2でプレーしていたこともあり、過去に対戦したことはない。それでも、「チームとして毎シーズン成長していることは分かっていますし、クラブとして積み上げができていて、選手のレベルが上がっているし、良い環境が整えられていることも知っていました。すごく良いクラブだと思います」と印象を語る。加入への迷いはなかった。それどころか、「良いクラブでプレーできることがすごく楽しみだったし、感謝の思いを持って茨城に来ました」と嬉しそうな表情で語った。

新天地であるロボッツでの役割について、ブラントはこう語る。

「センターとして求められていることはいいスクリーンをかけてあげることだと思っています。そうすることによって、ガード陣がオープンになる。また、ゴール下でリバウンドを拾えれば点を取れると思うので、そこもしっかりやりたい。ディフェンスに関しては、私自身、アメリカンフットボールで例えると、クォーターバックのような意識でプレーしています。なぜかというと、一番後ろにいるので、4人の選手とコミュニケーションを取らないといけない。ディフェンスに関して、しっかり指揮を執りたいと思います」

そして、最も大切にしていることは、「ハードワーク」だと断言する。

「コートに立っている時はハードワークをしないといけない。私の特徴はプレーしている時はハードにプレーして、持っている力をすべて出し切ること」

チームのためにプレーし、チームのためにコートを走り回る。それこそが、ブラントの「モットー」だ。

さらに、ブラントには大きな役割が求められている。それは豊富な経験を若い選手の多いチームに還元すること。オーストラリア代表での経験、そして、日本をはじめ、色々な国でプレーした経験。それらすべてがロボッツにとって大きな財産だ。

「ロボッツにおいて、明らかに私はベテランの部類に入ります。若い選手たちとプレーする時は自分の経験を伝えたいと思っています。オンザコートはもちろんですが、オフザコートでも自分の経験を伝えたい。オンザコートでもオフザコートでもいいチームメイトでありたいと思っています」

開幕して感じる手ごたえ

リーグ戦が開幕し、6試合連続してスターターとして出場を果たしている。けがのため、プレーできない時期が長く続いただけにコートに立ってプレーできる喜びを味わっている。

一方、チームは開幕6連敗。苦しいスタートを切ったことについて、「ちょっと落胆している気持ちはあります」と率直な思いを口にする。とはいえ、決して現状を悲観しているわけではない。

「試合を見ていただけたら分かると思いますが、すべて接戦で、勝つチャンスはあったと思います。ずっと話し続けているのは、チームとしてやりたいシステムや戦術をやり続ければ、絶対に結果につながるということ。自分たちのやっていることを信じることができているからこそ、40分間続けることが大事です。そこは自分たちでコントロールできる部分だと思うので、やっていきたいと思います」

そして、自らのプレーに関しては「波があると思っています」と振り返る。

「昨シーズンはずっと怪我でプレーしていなかったんですけど、今シーズンに入って6試合連続で出場したことによって、徐々に体がアジャストしてきています」

着実にコンディションが上がっており、これからさらにパフォーマンスを向上させていける実感があるという。だからこそ、目を輝かせながら、こう続けた。

「毎試合プレーすることによって、ロボッツがやりたいバスケにフィットしていると感じています。コーチ陣も毎試合的確なフィードバックをしてくれているので、感謝しています」

苦しんだ分だけ強くなる

座右の銘は「This too shall pass」。日本語に訳すと、「これもまた過ぎ去るだろう」。

この意味について、ブラントはこう説明する。

「人生において、生きていると悪いことは必ず起きます。でも、その悪いことは必ず通り過ぎるんです。悪いことに対して、ずっと直面すると前に進めないんです。それに対して、打ち勝つ、乗り越えることが大事だと思っています」

昨シーズン、大怪我に苦しんだ。新加入したロボッツでも結果が出せない日々が続いている。

それでも、自らの現状に対して前向きに取り組み続けられるのは「その言葉に助けられている」からだと胸を張る。

「怪我をしている時もいかに早く治してコートに戻るかということだけを考えてリハビリを続けることができましたし、現在ロボッツも0勝6敗という厳しい結果ですが、過去のことを考えていても前に進めないので、とにかく成長し続けることだけを考えています。そうすれば、勝利は見えてくる。苦しみは過去のものになるんです」

苦しんだ分だけ強くなる。苦しんだ分だけ喜びは大きくなる。その時を信じ、ブラントは前だけを見続けている。

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