【AFTER SEASON 2021-22】 BUILDUPを振り返る~中編

文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:豊崎彰英、B.LEAGUE photo by Akihide TOYOSAKI, B.LEAGUE

「BUILDUP」を掲げたチームの歩みを振り返る「AFTER SEASON 2021-22」。前回は1勝を挙げる難しさの中、チームがアダストリアみとアリーナでのB1初勝利を果たすまでを追った。2022年に入ってからも、ロボッツのチーム状態はアップダウンを繰り返していたが、徐々に浮上への機運を掴みつつあった。第2回にあたる今回は、1月から3月までの戦いを取り上げ、チームが勝利のために燃やした執念の日々を辿っていく。

必要な「負け」もあるはずで

年末に川崎ブレイブサンダースに敗れたあと、1月2日・3日のアルバルク東京戦、そして1月22日・23日の広島ドラゴンフライズ戦とホームでの戦いで5連敗。その中でチームは1月27日にアウェーへ乗り込み、昨季までB2でしのぎを削り合って、「昇格同期」とも言うべき間柄である、群馬クレインサンダーズとのシーズン初対戦に臨んだ。ロボッツは大黒柱の#21エリック・ジェイコブセンの得点こそ伸びなかったが、#11チェハーレス・タプスコットと#15マーク・トラソリーニが群馬のインサイドに上手く入り込んで得点を量産。ガード陣の得点も伸びたこの試合では、終盤の群馬の猛追を凌ぎきって84-91で勝利。個人の得点力や爆発力を武器に戦う群馬に対して、連係プレーとチームとしてのスペーシングで戦いきったロボッツが勝ったことで、チームは波に乗っていく。はずだった。

ただ、直後に敵地にて行われた新潟アルビレックスBB戦で、ロボッツは連敗を喫する。シーズン序盤から続いていた、長い連敗のトンネルからの脱出を懸けた新潟は、必勝を期してロボッツに襲いかかり、勝利を掴んだ。GAME1を終えてリチャード・グレスマンHCが残した言葉は、とても厳しい物だった。

「今シーズン、自分たちに起こる全ての出来事がハードなもので、簡単なことは一つもありません。水曜日に良いゲームができたわけですが、この試合では1試合を通したUrgency(危機感)が足りず、新潟さんに上回られました。ただ試合に来れば勝ち星を得られる、そんなことは無いんです。しっかりと戦っていきたいと思います。」

翌週の富山グラウジーズ戦も、GAME1で敗戦。最大15点差まで引き離されたところから追撃するが、及ばずという展開だった。この試合を終えて記者会見に登壇した#8多嶋朝飛は、勝利に向けたポイントを、じっくりと話してくれた。

「僕らはいろいろなことを準備して、試して、それが効くのか効かないのかというのをやり続けています。準備してきたことを、誰が出てもしっかりやり続けるというところが必要です。さらに、相手が対応してきたことに対して、自分たちも試合の中でアジャストしながらやっていくことも必要だと思います。相手の対応に対してブレずにやる一方で、アジャストもする。両極端にも見えるんですけど、すごく大事なことです。1つのプレーに対して、リアクションをして集中が途切れてしまうことが、どうしてもGAME2では多くなってしまうので、そうしたところを1プレーごとに積み重ねて、上手くいかない時は我慢し続けることが重要なのかなと思います。」

昨年11月の川崎戦、12月のA東京戦、そしてこの試合の2週間前に行われた広島戦と、ここまでのロボッツはGAME1で接戦を演じた後にGAME2で大敗を喫する、という試合をいくつか経験していた。この試合を終えて、「まさか、また」という良くないパターンが頭をよぎった人もいたはずだ。ただ、翌日のGAME2はこの時の多嶋の言葉の通りの展開となる。

ディフェンスでは連携を断ち切ってシュートを落とさせ、オフェンスでは相手のギャップをとにかく使い切っていく。第1クォーターの開始5分あまりで富山に2度のタイムアウトを使わせ、35-10というビッグクォーターで幕を開けた。

ところが、続く第2クォーターから富山が反撃を開始。第3クォーターで同点とされ、第4クォーターで一時富山が前に出る。多嶋が言葉に残した「上手くいかない時の我慢」が試されるシーンにもなってしまった。富山はインサイドにリーグ屈指の巨漢センター、#34ジョシュア・スミスがどっかりと座る布陣ではあったが、彼に対して動きの中で勝負を続けて、得点を重ねていったことで、ロボッツが再びリードを奪い返した。ファウルゲームに出た富山に対して、フリースローを沈め続けて勝負あり。85-79でカムバックに成功した。この時のAFTER GAMEには載りきらなかったのだが、#25平尾充庸は試合後にこう語っている。

「勝ちを拾ったというゲーム展開でした。理想の勝ち方ではないですし、反省するところはたくさんあるんですけど、相手に盛り返される展開をいかに減らすかというところを意識しなければ、今後も厳しい試合になります。今までを振り返れば、リードを作った試合はたくさんあって、どちらかと言えばその後に押し込まれて負ける、という試合が続いていました。今日は終盤に粘ることができたので、あとは中盤で相手のペースにさせない。そこを修正して、よりロボッツらしいバスケットや良い勝ち方を見つけられるのではないかと思います。今日に関してはインサイドもアウトサイドも抑えることができたのが勝因の1つだと思いますし、第4クォーターでは鶴巻がリバウンドやシュート、アシストと良い活躍をしてくれました。彼がいたからこそ、という粘りの試合でもあった気がします。」

目の前の1勝を狙う。そしてそれを積み重ねていく、という観点に立てばできれば負けは喫したくないところ。だが、「こうなっては負ける」ということを肌身で感じ取ることができたゲームをしっかり経験したことで反省が生まれ、「そうはさせない」という経験値となって帰ってくる。その積み重ねが、富山戦の勝利や、この後の連勝劇のポイントとなったのでは。シーズンを振り返る今となっては、そう思わされる一戦でもあった。

取り戻した、職人の切れ味

京都戦を終えて、バイウィークに入ったタイミングで、ロボッツにとって一つ大きな出来事が起きる。#55谷口大智が、日本代表「AKATSUKI FIVE」の候補選手に選ばれ、その後正式に日本代表選手の仲間入りを果たしたのだ。ロボッツの所属選手が日本代表となるのは、クラブ創設以来初めてのことであった。201cmの身長を活かした打点の高いロングシュートという、彼の最大の武器を活かし、この招集期間に行われた2試合ともに出場を果たした谷口は、オンコートでもオフコートでも彼らしさを見せ続け、初戦の台湾戦の勝利にも貢献した。

代表活動から復帰した谷口は、3月6日の京都ハンナリーズ戦で10得点を挙げて勝利の原動力となる。この時、彼は代表活動での収穫をこのように語っている。

「代表活動で吸収できたのは、『自分のシュートに自信を持って良い』ということを、しっかり身に付けて帰ってくることができましたし、ポジティブな言葉がどれだけチームにとって大事なのかも、トム・ホーバスヘッドコーチから学んできました。それをしっかり、チームに還元しようと思いました。」

彼がベンチやコートで常に盛り立て役を務めることで生まれた循環があったことはもはやロボッツに関わる人たちならば疑わない出来事だろう。彼の一挙一動はファンを楽しませ、これまで以上にベンチのムードという部分にクローズアップさせるきっかけとなった。この1シーズン繰り広げられた「DT Show Time」が、今後どのような描かれ方をするのか、注目を続けていきたい。

そして、この頃に力を取り戻したのが、先日現役からの引退を決めた、#0遥天翼である。難しい場面をつなぎきるディフェンスと、攻撃の起点となるプレーの完成度でチームに流れを与え続けた。しかし、今シーズンはそこに至るまでローテーション起用の中に割って入れない日々を送っていたことも、忘れてはならない。その間も絶えず準備を重ねたことが終盤になって生きてきたのだが、シーズンを終えた段階で、彼はその当時のことをこう語る。

「移籍をせず、ロボッツでの2年目を迎えられたことで体作りに集中して、シーズンを迎えました。新しいトレーニングを取り入れたり、食生活から改めてシーズンを迎えて…。そこからずっとストレングスコーチの(大塚)健吾さんと、栄養面やコンディション作りを打ち合わせて、プレータイムが少ないときの調整から、試合に出られるようになったところまで相談をしながらやってきました。2プレーしか出ない試合もあれば30分以上試合に出ることもあって、激しい流れの中でもコンディションを維持できたのは、日頃から想定した上で準備ができたことが要因だったのかな、と思います。」

試合に出れば、その時々の全力を欠かさなかった遥。この日々を過ごしきったことが、後に窮地のチームを救うことになるのだが、そこに触れるのはまた別の機会としたい。

試されたチームが掴んだ勝利

3月に入ると、次第にチーム状態に暗雲が垂れ込めていく。まずは#15マーク・トラソリーニが戦線を離脱し、一時復帰したものの再び欠場が続き、3月31日で契約解除・退団となってしまう。ビッグマンの1人が試合に出られない中、3月6日の京都戦で勝利。しかし、ここでチームは新型コロナウイルス感染症に見舞われ、3月9日のシーホース三河戦が試合直前で中止となり、その後の名古屋ダイヤモンドドルフィンズも中止・消滅となってしまった。

チーム活動が再開し、迎えた3月16日のサンロッカーズ渋谷戦。前半で最大20点という大きなビハインドを作られたロボッツだったが、徐々に巻き返しを図り、第3クォーターで一時同点に追いつく。第4クォーターには平尾と#2福澤晃平のタフショットが炸裂し、流れはロボッツへ。シーズン初対戦の際、第4クォーター残り10秒で逆転されての敗戦を喫したチームが、鮮やかな逆襲を決めてみせた。

しかし、この試合の最終盤に#13中村功平が相手選手と交錯して負傷退場。右の鎖骨や肋骨などを骨折した中村は、手術を受けなくてはならず、戦線離脱を余儀なくされた。今季、得意のシュートが決まらずに、厳しい日々も過ごした中村。徐々に輝きを取り戻し、シューターの選択肢が多いロボッツにおいて、見せ場を再び得ようとしていた。シーズンを終えて、中村はB1再挑戦となったシーズンをこう振り返る。

「シーズンの初めごろは、B1のスタイルに慣れていなくて、結構引き気味になっていた部分もありました。そこから中盤以降は自信を持ってコートに立つこともできていました。メンタルがこの1年で鍛えられた気がするんです。」

この試合でもベンチから攻守に渡ってしぶとい活躍を続けていた。さあ、これを収穫にして…という矢先のアクシデントだった。中村は、当時のことをしっかりと覚えている。

「あの試合、ジェイコブセン選手がファウルアウトしてしまったことで、インサイドの選手に体を当てに行ったわけですが、交錯して倒れた瞬間に『鎖骨が折れた』って感じましたし。息もしづらくて、『これは大きなケガになった』というのが、すぐに分かりましたね。」

ケガ人が相次ぐ中、チームは大きく結束していく。この直後に行われたホームでの新潟戦や、つくばカピオアリーナ開催となったSR渋谷戦では、離脱中の中村のユニフォームをベンチに置き、「親友」と自ら言い切る#29鶴巻啓太や、共にシューターとしてチームを支える福澤などが、入場の際に自らのウェアの上に「背番号13」を着て登場した。

新潟戦を、アウェーでの借りを返す2連勝で乗り越えると、そしてその後に行われた敵地でのレバンガ北海道との試合にも勝利し、ロボッツはついに5連勝を果たす。ジェットコースターのようなシーズンが続く中、チームは創設の地・つくばへと乗り込んだ。

SR渋谷とのGAME1に敗れ、連勝がストップしたロボッツだったが、GAME2では再び三度、粘り合いの勝負となる。1点ビハインドで入った第4クォーター、点の取り合いになるかという場面からロボッツのディフェンス強度が大きく上がり、シュート精度がバラつき始めたSR渋谷の得点がピタリと止まる。その間、相手の隙を突き続けたロボッツが、次第に重苦しい点差をつけていく。最終盤、リバウンドからの速攻でパスを受けた#11チェハーレス・タプスコットがとどめの一撃とばかりにダンクシュートを叩き込み、会場のボルテージは最高潮に達した。

この試合に至るまでの流れを振り返ったのは、試合後の記者会見に登場した多嶋だった。今シーズンのロボッツが、プレースタイル・戦術・エナジーなどなど、全ての面から「B1で戦って勝つ」という目標に向けて積み重ねを続けていった。改めて、多嶋はその様子について、次のような言葉で綴ってくれた。

「どんな流れであろうとも、自分たちのやるべき事をやり続ける。遂行度やインテンシティの部分など、チームとしての確認ごとをみんなでやり続けた結果、それが最後に自分たちの流れへと持って行けたのだと思います。勝っていることで、チームのみんなが良い雰囲気になっているのは事実だと思います。ただ、勝った負けたで一喜一憂するのではなく、やるべきことを、どれだけゲームの中でできたのかを改善して、修正して、積み重ねた結果が今のチーム状態だと感じています。シーズン前の時期の練習や、シーズン中の苦しい状況も乗り越えたこと、準備し続けたことが結果につながっていると思うので、それは勝ち負けに限らず、自分たちの積み重ねの証拠なのかなと思います。」

満員のつくばカピオアリーナが生む熱さの中で掴んだ勝利。後になって振り返れば、ここからチームにはさらなる逆境が訪れる。それでも、ロボッツは最終戦のゲームセットを告げるブザーが鳴るまで、より一層戦いのギアを上げて、走り続けていくこととなる。

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