VICTORY FACTORYを創る

写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKIROBOTS

2019年4月6日。茨城ロボッツのホームアリーナである「アダストリアみとアリーナ」がオープン。群馬クレインサンダーズとのオープニングゲームには当時のB2最多入場者数記録となる5041名がこけら落としにつめかけた。あれから4年以上の月日が経過。B1昇格の道のり、B1での戦いの日々と様々なゲームがこの「アダストリアみとアリーナ」で行われ、2023-24シーズンには平均来場者数3480名と過去最大の動員を記録した。毎年進化を遂げ、洗練されてきているこのアリーナ。そんな中でも今回は、興行担当の渡邊大輔と野沢菜月、演出担当の山村竜太にアリーナの魅力やホームゲームでの演出について迫る。

渡邊大輔
2015年入社後、試合運営に関わりつつチケットオペレーション、イベントオペレーションも経験し、現在は茨城ロボッツ興行担当ディレクターを務める。

野沢菜月

茨城ロボッツ興行担当。昨季より入社し、現在は茨城ロボッツボランティアスタッフ組織「RO-VOLTS」のまとめや入場口でのオペレーションなどに携わる。

山村竜太
試合演出ディレクター。前職は番組制作会社でテレビ番組制作に携わる。2020年より茨城ロボッツに入社し、ホームゲーム演出を担当。

徹底した「わかりやすさ」と「他人目線」

わかりやすさ・見やすさをブースターさん目線に移して設計していく

渡邊・野沢談

興行担当として、毎試合ホームゲームでの運営に携わる渡邊と野沢。試合日は朝8:00ごろに会場入りし、打ち合わせや会場の点検。さらに、全体の確認事項を整理し、スタッフへの指示。様々な業務を並行しながら試合日はブースターの皆さまを迎え入れている。

さらに前日の設営でも様々な部分に二人は目を配る。

野沢「設営のときは、会場の床が見えないようにシートを敷いてるのですが、シートとシートの間に足が挟まりつまずく人が多くなってしまうので、テープを貼ったり、コート周りの青いシールが少し剥がれてる部分も選手が靴に引っかかってしまうとプレーに影響が出るので、それの補修には気を遣っています」

渡邊「大きな言い方をすると、自分たちのためにやってることはないと思います。ブースターさんがつまずくからそこを補修する、選手が怪我をしないようにするために補修してシールを貼る。『他の人がアリーナを使う上でどうだろう』という目線でいないといけないです」

”当たり前”となる基準を”当たり前”にしていかなくては演出も試合も楽しめない。会場にあるゴミを拾う。会場に何があるかをわかりやすくしていく。スムーズな試合運営を目指す。そういった部分の徹底が垣間見える。

渡邊「そういった部分をやるのは大前提です。やったほうが良いよねということではないと思っています。ゴミがあるかの確認もそうですが、良いアリーナで何でもできてしまうということに悪い意味で慣れないようにするためでもあります。だからこそ、他の人の目線に立って見ていかなくてはいけません」

来場した人がストレスなく過ごすことを目的に、会場づくりや試合運営を意識している。

また、昨季で言えば、「体育館らしさを無くす」といったコンセプトの元、入場口の近未来的なオブジェ、会場内の装飾、バックヤードを感じさせないなど様々な部分でアリーナが変化した。

そんな中、二人が今季目指したのは「わかりやすさ」。具体的に言えば会場内の案内の一新だ。

野沢「まず会場内のポップに統一感を出していこうと考えました。装飾などをこだわっている中で昨季は色々な人達が作った掲示物が貼られていて、ロボッツのものなのか、施設のものなのか、外部の方のものなのかが一目で判別しづらい印象がありました。誰に向けての案内なのか分かりづらい掲示物もあったので私が巻き取ってポップのデザインを一新しました」

どこの管轄の掲示物であってもお客さん向けに表示するものは統一する。それもまた、自分とは違う目線に立つからこそ生まれる気づきなのだろう。さらに今季からは案内表示についても数を増やした。新規で来場される方にも、どこに何があるかをわかりやすくストレスなく過ごしていただくための工夫を施している。

渡邊「自分たちの仕事はホームゲームの運営もありますが、他のスタッフたちがやりたいことをしっかりと実現させて、集中してもらうこともあります。さらに、企画や演出をブースターの方に楽しんでもらうためにそれ以外で気になることを出さず、集中して見ることができる環境を作っていきたいです」

試合を通して二人の細かなこだわりは気づかない方も多いかもしれない。しかし、二人の影をあまり感じないというところで二人の業務は大成功しているとも捉えられるのかもしれない。

想像を超えた幻想的な非日常空間

自分でやっておきながら自分でびっくりしてしまったのが本音です

山村竜太談

茨城ロボッツの会場を彩る様々な演出。昨季反響を呼んだ「光と音の演出」や迫力満点の大型ビジョンを駆使した会場演出などは、スポーツ観戦とは別に非日常空間に包まれる。そんなロボッツの演出をディレクターとして指揮するのが山村だ。

「基本的なコンセプトや軸となるものは私が決定し、映像制作や音楽はグループ会社の制作会社さんと相談しながら、ライティングに関しては水戸市で演出照明などを営む会社にサポートしていただいています」

試合日は朝9:00頃より会場入りし、ミーティングや当日の使用する機材の確認。朝10:00頃よりリハーサルで流れを確認する。

「ロボッツの演出、ハーフタイムゲストのリハーサルは全てここで行っています。先行入場が始まる12:30からはブースターさんを迎える体制を整えて、演出がスタート。基本的には、TO(テーブルオフィシャル)裏で試合が終わるまでずっと座って指示を出す形になります」

ディレクターとしてホームゲームの流れを創り出す山村。そんな中、会場の空間づくりや試合以外でのエンタメ空間を創る上で山村は音・光にもこだわりを入れる。

音楽に関しては前述の通りグループ会社の担当者と山村が演出を担当してから2シーズン目の2021-22シーズンより、ロボッツのコンセプトをずらさず、近未来感のある音楽を次々と取り入れていった。

ここからさらに1シーズンが経過し、2022-23シーズンロボッツの演出は大きく変わった。その一つが「光と音の演出」だ。光の柱、音連動ペンライトを駆使した幻想的な空間は多くのブースターが心を奪われたことだろう。

「シーズンを通した演出を考えたときに様々なLIVEなどを見てロボッツの世界観に落とし込みたいライティングを見つけこの演出に至りました。シャープな強い光が柱となりこれをシンボルにしていきたいと。さらに、グッズ担当から音連動ペンライトの業者を紹介してもらい開幕戦から非日常空間を演出することができたと思っています」

目に映ったときのインパクト、記憶に残る演出、さらに音連動ペンライトに関しても連動の数や色、タイミングなどこだわる部分は多かった。

そんなこだわりを見せる山村に周りの人たちも感化された結果、作り出されたのがこのオープニングショーだったのだ。

「光をどう当てれば想像していた景色に近づくのか知識や経験が全くなかったので、アイデアを出す事自体が難しく、かなり悩みました。映像や写真を見せつつ、ふんわりした言い方を重ねながら聞いてもらったのでああいった形で具体的に落とし込んでくれた照明さんのご協力もあってこそです」

しかし、結果的に大成功を収めた「光と音の演出」だが、山村含め演出チームも実際に会場で試したのは一日前のリハーサルが初めて。プログラム上でしか確認ができていないことも多く、さらに言えばブースターの方々がいて初めて成り立つ音連動ペンライトに関してはぶっつけ本番で臨まざるを得なかった。

「音連動ペンライトが、リハーサルでは再現できない部分だったので、ブースターさんがどれだけ入るか、しっかりと点けてくれるのか、客席が埋まった状態であれが点いたらどうなるかというのは全く想像ができませんでした。ただ、実際に見ると想像をはるかに超えましたね。正直なところ自分でやっておきながら、自分でびっくりしました」

「実際にその景色を見たことがなかったので、 感動したというか、鳥肌が立った瞬間でした」と山村が話す通り、今でも記憶に残る光景だったことは言うまでもないだろう。会場が一体となって初めて完成した演出はロボッツホームゲーム観戦の醍醐味の一つとなった。TIPOFFの約40分前。アダストリアみとアリーナはテーマパークにも負けず劣らないエンタメ空間に様変わりする。

「ライティングがあって、音楽があって、音連動ペンライトがあって。足し算ではなく掛け算となり、効果が3倍にも4倍にも膨れ上がった気がします。感動や驚きを表現し、それを感じ取ってもらって帰っていただき、特別な1日になったねと思っていただけるようにしていきたいです」

今季の演出も昨季よりパワーアップしていると聞く。去年から今年、今年から来年とブースターとともに作り上げるあの景色を文化として根付かせていく。

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