2020-21シーズン開幕特集・#25 平尾充庸編

#25 平尾充庸
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取材・文:荒 大 text by Masaru Ara
撮影:豊崎 彰英 photo by Akihide Toyosaki
取材日:2020年8月29日

Bリーグ5年目となる2020-21シーズン。新型コロナウイルスによる脅威は未だ去っておらず、異様な雰囲気を持ったまま開幕を迎えようとしている。今、競技としてのバスケットボール以上に、プロとして、ファンや地域を元気づける力が求められている。今季、ロボッツの新キャプテンの座に就いた平尾充庸。キャプテンとして、どのような姿でチームを引っ張ろうとしているのか。彼は繰り返し「覚悟」という言葉を使い、今シーズンに懸ける想いをにじませた。

目次

志半ばでのシーズン終了。先が見通せないオフを乗り越えて

2019-20シーズン、ロボッツは初のプレーオフ進出に向けて、ワイルドカード圏内で戦いを進めていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大でシーズンは突然、終止符が打たれた。

「自分たちの目標であるB2優勝、B1昇格という目標が志半ばで終わってしまったというところで悔しい思いもしました。次のシーズンが始まるかも分からない状況の中で、自分たちの準備を進めていていいのか分からないですし、体育館を使えるのか、そこすらも分からない状況だったので、本当に不安というのがありました。」

オフシーズンの間、感染症対策のため、選手ごとに時間差でのトレーニングが行われるなど、チームメイトで集まることさえもままならなかった。その中でも、状況は刻々と変化し、いよいよシーズン開始というところまでこぎつけられた。

一方で、平尾には「3児の父」という顔もある。家族がウイルスが感染してしまわないか、心配もあると明かす。

「手洗いうがい、アルコール消毒、外出時にはマスクを着けるだとか、細かいところにより意識をするようになりました。また、育ち盛りの子供たちなので、外に出て遊ばせてあげたい、どこか連れて行ってあげたいというのもあったんですけども、状況が状況なので、家でどう遊べば子どもが楽しんでくれるかとかも考えるようになりました。」

しかし、平尾は父親であると同時に「プロバスケットボール選手」である。競技に向かう姿勢は「大きく変わらない」とした上で、平尾はこうも語った。

「(プロバスケットの現場は)『バスケットボール選手・平尾充庸』の『夢のコート』なので、そこは分けて考えています。正直なことを言ってしまえば、『やることをやって感染してしまうのだったら、しょうがないな』って思っています。例えば何も対策をせずに、感染してしまったのであれば自業自得かもしれないですけど、やることをしっかりやって、徹底的にやって、僕はすべてやりました。ってなって感染してしまったのだったら、家族にごめんなさいって言うしかないです。」

一家の長たる父としては、神経質な部分を隠さない。しかし、いざコートに立てば一転して割り切り、ひたすら競技へと打ち込む。平尾は、「まだまだコロナウイルスには気を許せない」としながらも、新たなシーズンに向けた準備を、着実に進めている。

失敗を乗り越え、「厳しさ」を携えて

今季、平尾はロボッツの新キャプテンに就任した。平尾はかつて、2014年からの2シーズンにわたって、当時のNBLに参入した、広島ドラゴンフライズの初代キャプテンを務めていて、それ以来の大役となる。25歳という若さでの経験を、彼は「失敗」と評する。

「広島時代に関しては、プロの中で初めてキャプテンをさせていただいて、キャプテンという像がフワッとした感じでしかなかったんです。『キャプテンはどうしなきゃいけない』とか、よく分からない状態でやっていたというのが正直なところで。だからやっぱり、個人としては『失敗した』と思っています。」
「正直、背負いすぎました。若い分『やらなきゃいけない、やらなきゃいけない』って。その当時は、広島も(参入)初年度だったので、若い選手たちがいっぱいいて。選手たちの模範にならなければいけないとか。そういったことをずっと考えちゃって、パンクしてしまいました。」

その後、キャリアを重ね、ロボッツで立場も築いた今、「みんなが求めるキャプテン」になろうと、平尾はキャプテン像を再び追求している。一口にキャプテン像と言っても、なかなかつかみ所の無い感覚ではあるが、彼はそのあり方をこう捉える。

「正直に言えば、やっぱり厳しさです。このチームに関しては、いい意味でも悪い意味でも、仲がよすぎます。練習の中でも、ちょっとしたときに浮ついてしまう。僕が今ロボッツに来て4シーズン目になるんですけど、1年目からずっと気になっていました。今まで在籍してきたチームの中で、こんなに気持ちの面でゆるい練習って、正直無かったんです。(以前のチームでは)日々の練習で本当に気疲れするぐらい取り組んでいて、ロボッツに来たときに一つ最初に『ん?』と思いました。今シーズン自分自身がキャプテンになったことがいいきっかけになるかと思うんですけど、そういった厳しさの面でも、少しずつ変えていかなければいけないと思いますし、厳しさを出すためには、自分自身が行動で示さなければいけないし、言葉でも示さなければいけない。今シーズンに関しては、覚悟をもって取り組んでいます。」

覚悟。平尾はこの言葉を重ねて口にした。それは、チームの変革を訴えるまっすぐな思いからだった。

「今までもそうなんですけど、ベテランの選手たちがフワッとした雰囲気を作ってしまっていました。そういった空気感を練習から無くさなければいけないと思っていますし。その上で、自分自身はベテランの選手に要求していくと言うのもそうですし、年長の人がやっていないんだったら、それはしっかり言わないといけません。若手の選手ができていないんだったら、しっかり言いますし。その中で自分自身もちゃんとしないといけないです。」

己を律した上で、チームの中でも決して楽ではない役回りを請け負う平尾。その中で、昇格に向けた鍵を問うと、平尾は胸を張ってこう答える。

「他のチームの要素も昇格にはあると思うんですけど、一番の敵が何かと言えばロボッツの中身だと思っていて。僕たち自身が成長すれば、自ずとチーム全体の力が上がってくると思います。例を挙げるなら、群馬(クレインサンダーズ)さんなんてすごくいい補強はしていますけど、他のチームじゃなくて、ロボッツの厳しさだったり、一人一人の覚悟だったり。そういうことがコートの中で表現できるのであれば、必ず勝てると思います。」

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この記事を書いた人

福島県内での報道記者、大手自動車メーカーのモータースポーツ部門ライターを務めた後、独立。
茨城ロボッツを中心にB2の試合現場に足を運び、ファン目線から取材を重ねる。Twitter @MasaruARA

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