2020-21シーズン開幕特集・AC岩下桂太編

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取材・文:荒 大 text by Masaru Ara
取材日:2020年9月5日

Bリーグ5年目となる2020-21シーズン。新型コロナウイルスによる脅威は未だ去っておらず、異様な雰囲気を持ったまま開幕を迎えようとしている。今、競技としてのバスケットボール以上に、プロとして、ファンや地域を元気づける力が求められている。長きにわたって、指導者としてロボッツを支えるのが、アシスタントコーチである岩下桂太だ。ロボッツの浮き沈みのほとんどを現場で見てきた彼に、コロナ禍でのシーズンを戦い抜く意気込みを尋ねた。

目次

アシスタントコーチ2年目。今季はコミュニケーション重視

かつてはヘッドコーチ(HC)としてチームの指揮を執った岩下。2016-17シーズンの途中から、ヘッドコーチの肩書きは変わらないものの、岡村憲司スーパーバイジングコーチ(当時)を支える立場に。アンソニー・ガーベロット氏がHCに就任した昨シーズンからは、正式にアシスタントコーチとなった。

これまで、岩下は指揮官の戦術を伝えることやかみ砕くことに尽力したと言うが、今シーズンはそこに加えて、別の課題を重視している。

「昨シーズンの反省として、もっと選手に寄り添って、コミュニケーションを密に取るべきだったなと思います。今シーズンはシーズンが始まるかなり前、5月ぐらいから積極的に改善しようと、日々試みています。バスケットボール以外の面でのコミュニケーションが、すごく大事かなと思って。選手のプライベートなところ、もちろん、踏み込みすぎてもいけないとは思うんですけども、家族や兄弟の話など、選手のいち人間としてのストーリーというのを聞いていくと言うのが一つ大事かと思ってます。『今日、何を食べた?』という話もしますが(笑)。話しかけやすい、話しかけられやすい。そう言った関係性を作っていく。新しく来た選手には、特に細かくアプローチしています。」

選手や指導者など、新たな仲間を迎えたロボッツ。今季HCを務めるリチャード・グレスマン氏もその1人だ。改めて、グレスマンHCの哲学をどう伝えるかを尋ねた。

「リッチ(グレスマン)HCの哲学というのは、非常にシンプルでありながらも、核心を突いています。あまりたくさん言葉を並べるのではなく、たった2つ、『unselfish(無欲)であり、toughであれ』というものです。たった2つのメンタリティーを中心に置いているので、そもそも選手にも伝わりやすいんです。ただ、実際にそれをコートに表現するとなると難しい。ボールは1つしかないからです。1つのボールをオフェンス面でどうシェアするか、どう攻めるか、どう打つかを伝え続けていくことが大事です。実際に起きたシーンで伝えると言うのが大事です。」

また、指導者として選手に求めるプレーが、選手たちが実際に選択したプレーと異なることもある。岩下は、チームに対する自身の指導の前提として、選手たちが行ったプレーにどのような考えがあったのか、まずは自らが読み解かなければならないと言う。

「選手が何を感じて、何を見て、どう思ってどう行動したかっていうところを、まずはコーチは見つけなきゃいけません。ただ自分が見えたことを、ただ伝えるのではダメだと思います。選手が何を見て、何を迷って、何を判断して遂行しているのか、そこが見えないと、コーチングが成り立ちません。コーチングに当たって、選手の視点になって指導することを最も大事にしています。」

気持ちが下がったときこそ、ブレない

ロボッツの前身球団である、「デイトリックつくば」に在籍した時代を含めれば、実に10年にわたってチームに携わる岩下。長きにわたるB2での戦いから、ロボッツがもう一段上のステップに進むために、彼はメンタル面の重要性を説く。

「一番感じるのは、体力が落ちてきたり、流れが悪くなったりしたときに、気持ちを上げきれないことです。個人の気持ちが上がりきらないので、チーム全体の気持ちが上がらない。また、誰かが上げようとしているのに、それにチームが乗りきれない。そこが、これまでのシーズンを見ていて、すごく苦しいところです。身体的や精神的に疲れていたり、痛かったり、点差など外的な要因によって、心が下がったときに上げるというのは、人間としてそもそも難しいことですが、逆境にあるときに、いかに奮い立たせられるかが大事です。やはり、強いチームというのは、どんな状況でも自分たちのスタイルだったり、自分たちのやってきたこと、バスケットボールの哲学というところがブレません。そこがロボッツの歴史の中で、もう一歩二歩、成長していかなければならないところかなと思います。」

逆境に弱い。強い相手に勝てない。それは、ロボッツの昨年の成績にも如実に表れる部分とも言える。ホームでこそ18勝5敗(勝率.782)と、力強い戦いを見せたが、アウェーとなると8勝16敗(勝率.333)と大きく負け越した。それだけではなく、昨シーズン、B2で地区優勝を果たした仙台89ERS、信州ブレイブウォリアーズ、広島ドラゴンフライズには1勝もできていない。こうした「弱点」を潰していくことが、昇格への近道となるはずだ。また、そのキーマンとして、岩下は、今季ロボッツに加わった、ある選手の名を挙げる。

「遥天翼選手は、ロボッツにいい影響をもたらしてくれているなと言う風に感じています。彼は、経験豊かですし、非常にリーダーシップのあるタイプの人間。チームがダメなときに引っ張り上げようとする、そういったメンタリティーのある人間なので、そこは、今までなかった存在かなという風に思います。」

一方で、組織としての「茨城ロボッツ」が成長していくためにも、今年は、チームとしてより「勝利」にこだわる姿勢も強調する。

「チームの勝利が昇格につながって、スポンサーさまにプラスの影響をもたらして、ファンに活気を与える。そして、スタッフたちのやる気も高まる。チームの勝利っていうところが、何よりもプラスに働くことだと信じて、やっていかなければいけない。そこが、我々が唯一関われるところなので。」

勝利という目標を達成しようとする中、岩下は、チームの中の変化を感じ取っている。その中心となっているのが、新キャプテン・平尾充庸のリーダーシップだ。平尾が積極的に声を出す姿勢を、岩下は高く買っている。

「平尾のいいところは、自分から積極的にオンオフ問わず発言できるところです。練習中も、練習以外でもしっかり発揮されるし、HCもそれが非常に重要だと見ている。さらにはHCとのコミュニケーションのとりやすさ。そう言ったところで、平尾の発言頻度の高さは、非常に評価しています。彼によって、練習が効果的に、かつ活性化されていい雰囲気で進んでいるという実感もあります。」

これまでよりも活性化されたチームへと生まれ変わり、シーズンに突入しようとしているロボッツ。一方で、今シーズンの戦いには「withコロナ」という大きなハードルが待ち構えている。進化したロボッツの姿をファンに見せようとしても、興行の運営や、ファンとの交流などの面でも、大きな制約がついて回ることになる。

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この記事を書いた人

福島県内での報道記者、大手自動車メーカーのモータースポーツ部門ライターを務めた後、独立。
茨城ロボッツを中心にB2の試合現場に足を運び、ファン目線から取材を重ねる。Twitter @MasaruARA

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