興奮と共に、B1へ~B1昇格祝賀パレード&B1昇格報告会レポート~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI

2021年5月29日(土)、水戸の街中に集った1600人の観衆。その目当ては、1シーズンの激闘を経て「B1昇格」という快挙を成し遂げた、茨城ロボッツの戦士たちだった。沿道や、時には道沿いの建物からも祝福が送られる中、選手・コーチ・スタッフが練り歩いていく様は、幸福感に満ちあふれていた。その後にアダストリアみとアリーナで行われた、「B1昇格報告会」。シーズンの緊張感とは打って変わって、終始和やかな雰囲気だったことが印象的だった。この日、ROBOTS TIMESでは、イベントの前後に#25平尾充庸と#27眞庭城聖にインタビューを実施。ロボッツの顔として長きにわたってキャリアを積み重ねてきた2人から、この日を迎えたこと、また将来のロボッツに対する思いなどを尋ねた。

興奮のパレード。「最幸」の景色が待っていた

パレードが始まる前、平尾にインタビューを試みた。彼はロボッツに加入してからの4シーズンの激闘を噛みしめつつ、パレードへの思いをこう口にした。

「僕がロボッツに来た当初は、水戸にロボッツが根付き始めたころで、企業さんやお店にポスターが増え始めていたころでした。そこから目に見えるように盛り上がりを感じていたので、うれしいところですし、パレードに関しては、『人生でやることあるのかな』と思っていたので、ワクワクはしているんですけども、どんな感じなのかな。正直、本心としては優勝を決めてやりたかったんですけど、皆さんに祝っていただく中、水戸の街を歩けたらと思います。」

パレード開始の30分ほど前、ユニフォームに身を包んだ選手たちはロボッツカラーのバスに乗ってスタート地点へとやってきた。ただ、この時点ではまだ人出もまばら。道行く人も、パレードを知らないかのように通り過ぎていく。この後にやってくる興奮の光景は、まだ想像も付かない状況だった。

しかし。一度待避した選手たちが再びスタート地点へ姿を現した瞬間、そこには別世界が広がっていた。見渡す限り、選手たちを祝福しようという人が押し寄せていたのである。すれ違う車から手を振る人、沿道のマンションに住む人もバルコニーから身を乗り出すようにして選手たちを出迎える。確実に、水戸の中心街がロボッツに染まっていた瞬間だった。

ここから、パレードがスタートするのだが、実はここで興味深い話がある。当初の予定では眞庭は他の選手たちに交じって、歩きながらのパレードとなる予定だったという。ある意味サプライズ的にオープンカーに乗り込んだわけだが、その景色はどう見えていたのだろうか。

「直前に、西村さん(西村大介副社長)と車に乗るって決まって…。めちゃくちゃうれしかったです。本当に、今後の人生でこんな経験することないと思いましたし、はっちゃけないと損するって思いました。楽しかったですね。選手の中でも『沿道に人が集まるのかな』とか、そんな話が出ていて、ちょっと実感が湧いていなかったんですけど、でも実際に通りに出てみればあれだけの人がいて。マンションから手を振ってる人も見かけたときには、本当にいい意味で予想を裏切られたなと思いました。」

選手たちは、思い思いに手を振り返したり、スマートフォンを片手に沿道の様子を撮影したり、SNSで生配信をしたり。シーズンの激闘の際に醸し出していた張り詰めた空気とは真逆の、にこやかな様子で街を歩いていった。パレードのゴールとなるM-SPOへと到着した選手たち。そこにもファンが集まり、拍手で祝福を送る。眞庭はイベント終了後、ロボッツの過去と照らし合わせて、改めて実感を語った。

「ファンの皆さんが幸せそうでしたよね。楽しそうで、みんな笑顔で…。その光景を見て、改めてバスケをやってきて良かったなとか、ロボッツに来て良かったなって、ひしひしと感じさせてくれましたよね。」

Tシャツなどのグッズを身に着けた人、お手製のボードでメッセージを掲げた人…。コロナ禍である都合上、「歓声を上げる」「声をかける」ことこそできなかったが、選手との交流がなかなかできなかった今シーズンにおいて、ファンとしてもまたとない機会だった。通り行く人たちの表情が、皆一様に明るかった。茨城を背負って戦った選手たちに、街を挙げて賛辞を送る。改めて、今シーズン、否、長きにわたるB2での戦いぶりが報われた瞬間であった。

今シーズン最後のロボッツクラップ

その後に行われたB1昇格報告会は、ともかく穏やかな雰囲気だった。ビッグプレーにまつわる裏話や、ロボッツにとって初めてとなったB2プレーオフを迎えた当時の心境など、和やかなトークが展開される一方で、選手考案によって行われた「B2卒業式」も、集まったファンを沸かせた。また、今シーズン限りでの引退を表明した#31アブドゥーラ・クウソーの引退セレモニーや、リチャード・グレスマンヘッドコーチのトークセッションも行われるなど、盛りだくさんの内容だった。長丁場のイベントとなったが、ロボッツのYouTubeチャンネルに配信アーカイブが残っているため、ぜひご覧頂きたい。

そして、イベントの締めくくりはなんといっても、今シーズンのホームアリーナを一つにし続けてきた、眞庭が主導する「ロボッツクラップ」だった。集まった約800人以上のファンらとともに、どこかしばしの別れを惜しむ、一方では1年間の激闘をねぎらうかのような、暖かなクラップが送られた。イベント後、眞庭にその場面を尋ねると、彼の率直な感想が返ってきた。

「昇格を決めた仙台戦でやったクラップも、人がたくさんいる中だったので気持ちよかったですけど、今日は皆さんのクラップに気合いが入っていましたよね。コアなファンの方が多かったからかもしれないですけど、めちゃくちゃ『音』とか、心の底から楽しんでいただいているようなところを、クラップから感じ取れました。シーズン中、クラップをずっとやってきて、それから今日が一つ集大成みたいなところがありましたし、今後も、ロボッツの名物として残したいですよね。」

眞庭に限らず、選手、時にはスタッフも参加することで、試合前後の恒例行事となりつつあったロボッツクラップ。アリーナが一つになって手を打ち鳴らす光景は、これからもロボッツの一部であり続けてほしいものである。

2人は改めて、戦いを支えてきたファンへの感謝を口にした。まずは平尾から。

「コロナ禍の中で、僕たちのことを会場で応援してくれたファンの皆さん、ブースターの皆さんには感謝しています。今年に関しては、感謝の気持ちを形にできた、いいシーズンだったと思います。僕たちだけではこのような舞台には立てません。皆さんのおかげで、このステージに立てたわけです。感謝の気持ちを持って、それを忘れずに戦わないといけないと思います。茨城ロボッツはB1での経験もない未熟なチームですけど、共に、スタッフや選手、ファミリー一丸となって茨城を盛り上げていきましょう。」

眞庭も、改めて『応援の力』を感じたシーズンだったという。

「声が出せない中でも、応援の力というのは感じられました。メガホンを叩く音だとか、相手がフリースローを打つときの地団駄のノイズだとかものすごいパワーを感じました。B1で新たに当たる相手チームのファンにも『ロボッツってすごいな、一体感があるな』って思わせてほしいです。これからも、選手に力を分けていってほしいなと思います。」

いつか、この2人がチームを去るような時が来たとしても。ロボッツがこれまでファンと共に醸成してきた「音」のカルチャーは、ぜひとも残してほしいものだ。『これがロボッツ』という名刺代わりの応援で、ロボッツファンの皆さんもB1に殴り込んでほしいものである。

「茨城を好きにさせてくれたことに感謝したい」

名実ともにロボッツの「顔」として、ファンを愛し、ファンに愛されながらプレーを続けてきた、平尾と眞庭。ロボッツがB1という「第二幕」に挑むに当たって、2人にこれまでの日々を振り返ってもらった。

「(平尾)今までのチームよりいろいろなところで、応援して下さる方との接点があったり、いろいろなことにチャレンジさせてくれるロボッツに感謝しています。僕が茨城に来る理由を決めた理由の一つが、堀さん(堀義人オーナー)と山谷さん(山谷拓志社長)のB1への思いなんですね。堀さんは、目標のために何が必要かというのを逆算して、全部計算されている方です。だからこそ『その通りになったな』と思います。ロボッツに来られたことには、堀さんや山谷さん、このチームに誘っていただいた上原さん(上原和人GM)だったりと、たくさんの人に感謝しないといけません。今の僕があるのは、特にそのお三方、僕を必要としてくれて、僕に水戸を、茨城を好きにさせてくれた人だと思っています。感謝の気持ちでいっぱいですね。」

一方眞庭は、アメリカ・NBAのレジェンドプレイヤーになぞらえて、ロボッツへの思い入れを語る。

「コービー・ブライアントがその昔、『俺の血の色は紫(所属していたロサンゼルス・レイカーズのチームカラー)だ』って言ったんです。コービーと比べたらおこがましいですけど、5年間、ずっとこの『いばらきブルー』と『つくばオレンジ』のユニフォームを着て戦ってきたので、このユニフォームに対する思い出も人一倍ありますよね。」

ただ、B1の舞台には、夢ばかりがあるわけではない。チャレンジャーたるロボッツにとっては、当然苦しい戦いも予想される。その中で、眞庭はある思いを口にする。

「ロボッツに来てから思ったことがあるんですけど、良くも悪くも、ロボッツのファンの皆さんって優しくて、ファンの皆さんから『何やってるんだ!』って怒られたような経験って、ほとんど無いんです。一度だけ覚えているのが、Bリーグ1年目(2016-17シーズン)に、福澤がいたFE名古屋にコテンパンにやられたときでした。僕らがB1に行ってからしばらくは、苦労をする段階は間違いなくあるでしょうし、どん底を見るように負けが込むこともあるはずです。そういうときに、厳しいことを言う方も今後のロボッツにおいては必要になってくるような気がしています。」

今まで、暖かく見守ることで選手たちの背中を押してきたファンの方もいらっしゃることだろう。もし、選手が逆境に下を向いていたり、勝負から目を背けていると思えるような場面に出くわしたら、時には厳しい言葉で、選手たちに檄を飛ばしてほしい。それもまた、「ロボッツ愛」の一つの形になり、新たなエナジーにつながっていくはずだ。

この1年のROBOTS TIMESへのご愛顧に際し、ひとまず、読者のロボッツファンの皆さん、あるいは時折この記事に目を通し、取材に協力していただいた選手・スタッフの皆さんにも感謝を申し上げたい。取材の最後に、平尾と眞庭の両名からそれぞれメッセージを頂戴したので、ここで紹介したい。

「ROBOTS TIMESとして、たくさんの情報が出ることを、皆さん楽しみにしていたと思います。たくさんの方々の協力ですばらしいものができていると思っていますし、これからもどんどん楽しい記事を出してくれると思います。これからもロボッツが進んでいく様というのを、文章という形で目に焼き付けていってほしいなと思います。(平尾)」

「実はパレード前にも他の選手と話したんですけど、取材時間をたっぷり取って、深くまで掘り下げて聞かれたのはなかなか無い経験でした。僕も『結構コアだな』とか思わされていたんですけど、ファンやブースターの皆さんは選手の考えの奥底にあるものとか、言葉にして伝わったことでギャップを感じられたこともあったでしょうし。ROBOTS TIMESは選手の内面までしっかり出してくれたので、僕も楽しみに読んできましたし、ブースターさんとしても今後も、選手のいろいろな面を知っていただけたらと思います。(眞庭)」

筆者としても、この一年、非常に『濃い』時間の中でロボッツと共に過ごすという、とてつもない経験をさせていただいた。そして、難しい質問にも答え続けてくれた選手やスタッフの皆さんには、改めて感謝を申し上げたい。ROBOTS TIMESはまだまだ発展途上のオウンドメディアかもしれないが、B1という次なるステージでも、「共に闘う」「共に成長する」メディアとなることを目指し、今シーズンのコラムの締めくくりとさせていただく。

B1昇格報告会配信動画

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