ゲームメイカーの「気づき」とは~2021-22 開幕前特集 多嶋朝飛〜

華やかなるプレーで会場を沸かせるゲームメイカーとして、レバンガ北海道を長きにわたって牽引してきた#8多嶋朝飛。彼がロボッツの一員となることは、オフシーズンの一大ニュースとして受け止められた。B1の最前線を生き抜いてきた男に、チームが向かうべき道筋を問うと、彼の経験則に照らし合わせた答えがいくつも返ってきた。迷いながらも、チームのためになる行動を少しずつこなそうとする多嶋。彼なりの責任感や哲学が、少しだけ垣間見えてくるのであった。

「気づき」を伝える

本来なら、公開・非公開の練習試合やプレシーズンゲームを重ねて、チームの現在地を測りに行く時期。ただ、コロナ禍の影響は色濃く残り、ロボッツはなかなか対外試合をこなせていない。多嶋にチームとしての調整状況を尋ねると、それも踏まえた率直な答えが返ってくる。

「プレシーズンがなかなかできない状況でもあって、チーム状態を他のチームと比べられる状況じゃありません。自分たちが何をどれくらいできているのかというのは、正直測りづらい部分です。ただ、チームとして一日一日の練習を積み上げて、状態を落とさずに行こうという話はリッチ(リチャード・グレスマンHC)からも口酸っぱく言われていますし、チームとしても毎日ハードに、互いに競争し合いながらやれているなという感覚はあるので、まずはこれを続けて、チームをどんどんレベルアップさせながら、1シーズンを戦い抜くことをやって行けたらと考えています。」

実は昨シーズンの終盤、指の腱を痛めた状態でプレーを続けていた多嶋。オフシーズンは、その治療が優先事項だった。手術をするにしても、保存療法で対処するにしても、回復にはある程度の時間がかかる。多嶋はある種の割り切りと共にオフを過ごすことを決断した。

「実は、2ヶ月ぐらいボールを扱えませんでした。体作りの部分では北海道でも一緒にやっていた健吾さん(大塚健吾ストレングス&コンディショニングコーチ)とずっとコミュニケーションを取りながら、筋力系のトレーニングは続けていました。指の治療やリハビリに当たる一方で、戦う中での体のダメージもケアをしてという、そんな状況でした。」

そうして迎えたチームの始動。練習の段階から、多嶋はしっかりと自分のカラーを出してチームに相対している。そんな中、練習で多嶋と同じ組になった若手選手の一人が、「多嶋さんは視野が広い」と話した。その若手選手は対人プレーの中でミスを犯してしまうのだが、多嶋はその原因まで汲み取った上でアドバイスを送ったという。その場面を改めて問うと、彼は少し謙遜も込めながらこう答えた。

「視野が広い、と言うところにつながるかは分からないですけども、僕もいろいろなコーチや選手とシーズンを送って、経験を積んだと言われるような年齢になって、『気づき』という部分では、いろいろな物を持っているのかな、自分の中に蓄積された物はあるのかなとは感じています。バスケットは、一瞬一瞬でいろいろな動きが決まってしまいますし、対応したり仕掛けたりという、判断や読み合いのスポーツだと思っています。経験を積んだ分の実績はあるはずで、それを受けて自分にできることとして、気づいたことはしっかりと伝えて、みんながよりよくプレーできるような環境を少しでも手助けできればなとは思います。」

チーム全体が同じ方向を向いて進んでいくために。場面を問わず、多嶋の気づきや一声はチームをしっかりと下支えしていくことだろう。

「軸」を作るシーズンに

長くB1を戦ってきた多嶋だからこそ分かることもあるはず。B1で生き残っていく、さらに上を目指していくため、ロボッツに求められていることも尋ねた。

「まずはチームとしての雰囲気や強度を落とさないこと。積み上げていくというのをどれだけ根気強くやれるかというのがポイントになるのかなと思います。チームとして、いい時期悪い時期というのは必ずあります。悪い時期でもいかに落とさずに『ロボッツはこういうスタイルで戦うよ』『こういう準備をしていくよ』ということができるかによって、間違いなくシーズンを通して成長できると思いますし、より成長した姿を皆さんに見てもらえるような試合が増えると思いますので、そういった部分は辛い中でもブレずにやっていければと思います。」

B1で上位を張り続けるようなチームは、得てして軸となる選手やコーチが変わらずに居続け、連綿とした歴史を作り上げている。昨シーズンの覇者、千葉ジェッツであれば富樫勇樹、宇都宮ブレックスであれば田臥勇太やヘッドコーチの安齋竜三、川崎ブレイブサンダースであれば篠山竜青やニック・ファジーカス、指揮官の佐藤賢次…。多嶋はBリーグの現状と重ね合わせながら、こんな持論を述べる。

「今のBリーグはチーム作りが二極化されつつあると考えています。主要メンバー、軸のメンバーやヘッドコーチを変えずに『このチームはこういうスタイル』というのを長期的に作り上げているチームがあります。Bリーグで誰が見ても強いと思うようなチームは、そういったチームだと思うんです。一方では、適材適所に選手を入れて、外国籍選手も含めて強力なラインナップを揃えて、短期的に強くなろうとしているチームもあります。ロボッツは今まで積み上げてきた物に対してプラスアルファを加えようとしていると感じています。」

ただ、確実に言えるのは、今シーズンにおいて順風満帆とも言うべき展開が約束されているわけではないことだ。多嶋は先ほどの言葉に続けてこのような表現をする。

「ロボッツは誰か一人に任せきったりとか、スーパーエースが解決したりするようなチームではありません。その日その日のヒーローが生まれるはずですし、ロボッツは成長して底上げされていくと思います。どれだけブレることなく、『ロボッツらしさ』を出すか。ロボッツやリッチコーチが求めるバスケットを追求していって、今のロボッツの土台をどれだけ大きくしていけるかというのがとても大事になってくると思います。どんなときでも積み上げることができるか、今シーズンは大事になってくると思います。」

長いシーズンの中では、どん底を見るように負けが込むことだってあるはず。しかし、それさえも上を目指すための糧にする。特定のプレーやメンタルだけではなく、コート内外の全てが組み合わさって「ロボッツらしさ」が生まれる。今シーズンが、その大きな芽吹きとなれるか、見る側としても期待しながらシーズンを過ごしたいところだ。

みんなが責任を持って戦う

今シーズンのロボッツは少々チームが若返り、多嶋と#0遥天翼が最年長(1988年生まれ)となった。ベテランとも言える年齢になった中で、チームに何を還元していくか。改めて質問をぶつけると、また一つ彼の哲学に触れることになった。

「ベテランだから引っ張らなくては、というようなことは何も考えていません。若かろうが、試合に出ていようが出ていまいが、みんなが責任を持って、みんながチームのことを考えて行動できて、みんなが声を発信すればいいと思っているんです。声を出して人をまとめる選手もいれば、僕のようにいろいろな部分を俯瞰的に見ながら伝えていく選手もいるでしょう。キャプテンなどの役割があるからとか、ベテランだからとかは何も関係なくて、チームに必要なことをしっかり考えて、そこに必要なことはどんどんコミュニケーションを取っていくことが必要です。」

そこに続けて、若手選手との風通しの部分についても言及する。加入して間もない多嶋ではあるが、こうした部分も俯瞰的に見えていたようだ。

「一方では若手の選手が何かを物申すということは非常にタフなことです。それをわざわざ無理してやる必要はないんです。例えばツル(#29鶴巻啓太)やコーへー(#13中村功平)の持っている能力をコート上で出すべくしっかり準備するのが彼らにとっての仕事です。そして、それを手助けするのは僕らやコーチ陣の仕事です。もちろん、何かを我慢して言わないことは良くないです。そこは誰かが気づいたときに、聞いてあげて解消できればと思います。ロボッツにはいろいろな所に気を使える選手たちがいます。若手もベテランも、全員がため込みすぎないようにしながら、長いシーズンを切らさずにやっていくことが必要です。」

インタビューの終盤、今シーズンのロボッツバスケの見どころも尋ねた。多嶋はロボッツの雰囲気の良さに期待を寄せつつ、こんな答えを返してくれた。

「今まで作り上げてきたロボッツをさらに超えていけるような、より築き上げたチームに成長していく姿を見てもらえればいいのかなと思いますし、僕らはひたむきに準備して、戦い抜く姿を見せ続ける。それが勝ち負けにつながって、それをどれだけ積み上げられるかだと思います。本当に、やりきることが一番だと思っています。プレーしているところは全部見てほしいです。人によって見るべきポイントはさまざまあっていいと思いますし、バスケットは色々なところで楽しめるスポーツだと思います。展開の早さや得点シーンの多さなどで、雰囲気がいい、楽しいねと思ってもらえる方も多いはずですし、逆にバスケットに詳しい方なりの見方もあるはずです。アダストリアみとアリーナで試合をすることはとても楽しみにしていますし、雰囲気や一体感がどれくらいあって、どれくらい盛り上がれる環境なのかはすごく楽しみだと思っています。いろいろな選手のいろいろな部分。そういった物を見つけながら応援してもらえれば、うれしいかなと思います。」

変幻自在とも言うべきプレーで、アリーナを温め続けてきた多嶋。今シーズンのロボッツのバスケット、あるいは茨城ロボッツという組織に対して、彼がどんな魔法をかけてくれるか、今から目が離せない。

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