ロボッツ「第2幕」の舵取り役を託された男、西村大介。クラブの社長、そしてゼネラルマネジャーとの二足の草鞋で、今シーズンを戦うことになる。経営者として、チームの強化を司る者として。どちらの視点からの意見やビジョンも気になるというもの。聞きづらいことも事細かに語った、1時間のロングインタビューを、可能な限り紹介する。
日本一へのファーストステップ
まずはゼネラルマネジャー・西村大介としての大仕事となった、今シーズンの編成に対して質問をぶつけた。結果的には多くの選手・スタッフがロボッツに残った形になったが(計8人が契約継続)、どのようなチーム作りを念頭に置いていたのだろうか。
「ロボッツというクラブがB1で日本一になる、そのファーストステップとして編成をしました。どこのチームも優勝はしたいはずで、日本一になりたいと思って戦っています。ただ、昨シーズン王者になった千葉(ジェッツ)さんでさえ、10年かけてやっとというぐらいです。この視点が本当に大事で、10年後への一歩目を踏めるかどうか。そのためには、『今年1つでも勝ったら良い』ということではなく、勝つチームになるファーストステップにする。みんなが真剣に勝つことに対して何のてらいも無く気持ちをぶつけて取り組んでいく。そこを大事にしました。」
一方で気になるのが、チーム作りに着手した時期である。特にB1に在籍するクラブともなれば、シーズン中から他クラブに移籍の打診をするケースもあるという。しかし、このオフのロボッツはそうではなかったという。その理由は、とても明確な物だった。
「チーム作りは、B2プレーオフが終わってから始めました。2020-21シーズンのロボッツはB1に上がることが至上命題でした。そんな中でシーズン中に動いてしまうと、情報はどうしてもいろいろな所に回っていって、噂には尾ひれも付いてしまいます。そんなことで選手たちのモチベーションを削いでしまってはいけませんし、その結果昇格も果たせないとなるのは正直嫌でした。なので、プレーオフを終えるまでは何も動かない、そんな状況でした。」
西村が大切にした「空気作り」。未来のロボッツがB1の上位に定着していくためにも、西村はここを重視する。彼はB1の強豪とされるクラブを引き合いに出した一方で、それが容易でないことも重々承知していた。
「宇都宮(ブレックス)さん、アルバルク(東京)さん…。みんなが自分のパフォーマンスに対して責任を持っていますし、『俺たちがNo.1だ』というぐらいのプライドも持っています。やっぱり、B1昇格を目指してきたこれまでのロボッツの取り組み方から、もう1ランク、2ランク上げたい。プロフェッショナルさを作っていければ、もっとこのチームは良くなるという感覚がありました。ただ、それは一朝一夕には作ることはできません。今までも積み上げてきたものはあるはずで、それがB1への原動力になったとは思いますが、そのマインドを今度は『日本一』というところにしていく。新たなステップであり、チャレンジではないかなと思います。」
プライド。そして責任感。それこそが、西村がたびたび口にする「ウィニングカルチャー」の根幹であり、チームとしてのロボッツが「BUILD UP」していくものなのだろう。そのために、まだまだ必要なことは多いはず。西村の言葉は、さらにディープな部分へと進んでいくのだった。
チームの深化を急ぐ
GMとして、練習の現場にもたびたび顔を出している西村。コロナ禍で練習試合をなかなかできていない時期ではあったが(取材時期:9月上旬)、チームの雰囲気には総じて好感触を得ていた。
「競争という意味ではチーム状態は非常に良く、『負けないぞ』という気の強さみたいな部分はよく感じます。ロースター13人の中でのサバイバル意識や、B1への生き残りのようなものもあって、危機感もひしひしと感じます。」
その上で、ロボッツが本当に「勝てる集団」になるとするならば、組織的にレベルアップを果たさなくてはならないと、率直な想いも明かす。
「組織の成長段階というものがあって、まずは組織への帰属意識を持たせる。その次が相手を賞賛すること、良いことを褒め合うことです。この次が非常に難しくて、教育というステップになります。先輩であろうと後輩であろうとダメなことをダメと言い切れるか。それを経て、勝つために全てを尽くす『勝負』の段階になって、常勝軍団という雰囲気作りにつながるわけです。B1の上位クラブであれば、勝負のステップにはほぼいるでしょう。」
これまで、アットホームな雰囲気の良さという部分を一種のチームカラーとしてきたロボッツ。B1で戦い抜くためには、そうしたカラーを引き継ぎつつも、勝利のために嫌なところがあっても腹を割って話せるかという部分も必要になる。常にチームのため、勝利のためを思い続け、行動につなげられるか。#25平尾充庸が昨シーズンのキャプテン就任以来述べ続けてきた、「覚悟と責任」という言葉、あるいは「一日一日を無駄にしない」という言葉が重なってくる。より早く、チームが深化しなくてはならない。その共通理解は、加速度的に進んでいくことだろう。
一方で、今シーズンのロボッツは、ある種興味深いことが起きている。キャプテンの平尾とバイスキャプテンの#2福澤晃平が今シーズンもその役を担う一方で、新加入の#55谷口大智がバイスキャプテンに就任し、オフコートキャプテンには#0遥天翼が名を連ねた。ロボッツがバイスキャプテンを導入してから3シーズン目。バイスキャプテンが2人体制になること、そして新加入選手がその役に就くことはどちらも初めてのことだ。西村は、谷口のキャプテンシーをこう評する。
「谷口のリーダーシップはとても良いと感じています。『みんな必死にやろう』というメッセージを出してくれるので、組織作りには欠かせないところはあると思います。練習のうちからみんなを巻き込んでやってくれることもありますし、英語力にも長けていますので、外国籍選手とも融合できる。性格的にも根っからのリーダーだと思いますし、フォロワーのトップとしての素質もある。ラオ(平尾)を1人にせず、ちゃんと後ろから援護してくれる。それが大きなポイントでした。」
続投となったメンバーに対しても理由が明かされる。平尾に対しては、コーチ陣・フロント陣での会話の中で「満場一致でキャプテンに決まった」と言う。福澤の続投については、このような事情を話す。
「まず、昨シーズンに自分から立候補してバイスキャプテンに就いたという姿勢がありました。そして、オフには結婚もして、さらにロボッツに残ってくれた。今シーズンに懸ける想いに対して、我々も託そうと考えました。」
また、遥に対しても大きな期待を寄せる。オンオフを問わず、あらゆる場面で遥の人間性に触れたことがポイントだったと西村は話す。
「遥選手は素晴らしいですよね。熱さもそうですけども、ボランティア活動も率先してやってくれますし、U15の練習に顔を出そうとしてくれたり。人間としての素晴らしさを感じて、みんなの手本になってほしいというのがありました。」
それぞれがチームのためを思って行動できる。そんなメンバーが揃ったことで、ロボッツはまた一つ、チームとしての成長を果たすだろう。苦しいシーズンを経てなお、未来につながる一年になっていくことを祈りたい。
全てのレベルを上げなくてはならない
ここまでの部分を「GM・西村大介」へのインタビューとするならば、ここからは「社長・西村大介」が見据えるビジョンの話になる。B1を戦うのはチームだけではない。アリーナを作り出す、あるいはチームを下支えするスタッフたちにとっても、新たな戦いとなる。西村は、「会社として全部のレベルを上げなくては」と話し、続けてその理由を話す。
「新B1(2026年開幕予定)への参入を目指すためにも、スポンサー様との関係も強化しなくてはなりませんし、来場者数も増やさなくてはなりません。B2の中ではお客さんの数もバスケットLIVEの視聴者数も多かったかもしれませんが、B1を基準に考えればまだまだです。しょうがないことではありますが、全てにおいて変えていかなければなりません。特に強化すべきは、街への浸透度です。街中で、もっと『いばらきブルー』と『つくばオレンジ』をみんなに見てもらいたいんです。」
ここで西村がお手本として掲げるのが、プロ野球・広島東洋カープ、そしてJリーグのV・ファーレン長崎だ。カープを例に出せば、地域と密接に関わり合い、街を真っ赤に染め上げる。本拠地球場の近くでは、青がコーポレートカラーであるコンビニでさえも、看板を赤くしている。一方で長崎を挙げたことには、現地での体験談がベースにあった。
「長崎にいた頃、V・ファーレンの話題が街中で普通に出てくる。タクシーに乗ったら、運転手さんが、一言目に『昨日負けたね』って話すところからスタートするんです。メディアも含めて、とにかく浸透している。みんなが関心を持っていて、夢中になっている。茨城の人たちにもそうなってほしい。そのためにも、まずは露出を増やしていきたいとは考えています。」
新B1に向けては、入場者数の増加は喫緊の課題だ。ロボッツに限らず、多くのクラブが直面する課題ではあるが、西村は露出戦略を徹底しようとする。
「ロボッツを知らない人は、間違いなくアリーナに来てくれません。そう言った意味ではファンデベロップメントの考え方を進めなくてはならないと思います。入場者数を増やすということもありますが、ファンを大切にする。そして、周知をする。ここは大事になると思います。」
露出を増やすに当たっては、茨城ならではの苦労も存在する。民間放送局によるテレビの県域放送が全都道府県で唯一存在せず、ラジオもLuckyFM茨城放送のみという状況だ。西村もその状況は重々分かった上で、攻めの姿勢を崩そうとはしない。
「地元メディアがないからダメ、という話にはなりません。その上で大きな方向性は2つあると考えていて、一つはどれだけ街に露出を増やせるかという地上戦です。ポスターやロードサイドの看板を増やして、車社会で目に付かせる。これはもっともっとやれるはずではと感じています。街に人が出ていないとは言う物の、泥臭くやっていく。もう一つは、クラブがしっかりメディア化する。SNSをちゃんと発信することもそうですし、パブリックアートさんや茨城放送さんとの関係もあります。スポーツクラブそのものがメディア化して発信をしていくことにもっと力を入れないといけないと思います。」
かねてからクラブのメディア化を目指していたロボッツ。コンテンツのプラットフォームは、様々な形で存在する。ロボッツがチームに限らず、多種多様な情報を発信していくことが、ひいては茨城という地域の発信力増強につながると、西村は言う。
「例えば、関西の人間でもバスケットを知っていれば、ブレックスさんの存在を通じて宇都宮という街に大きなリスペクトを置いています。茨城や水戸と比べれば、それは明らかなはずです。ならば、我々としても頑張って、全国に向けて『茨城とは』ということを発信していく。『茨城と言えばロボッツだよね』となればうれしいですし、言っていただける段階でリスペクトがあるわけですから。」
ある種の空中戦でもあるが、スポーツの発信力の強さは、これまで様々な事例で見られてきたこと。「茨城」と県名を冠するロボッツが、茨城県を代表する存在に上り詰めていくことにも期待をしていきたいところだ。
非日常と一体感を目指して
先に行われたイベント「BOOT UP!ROBOTS!!」にて、ホームアリーナであるアダストリアみとアリーナのリニューアルの方針が示された。導入予定の巨大センタービジョンのほか、ブルーを基調とした装飾を増やし、これまで以上にエンターテインメント性を強めた空間作りを目指す。そのコンセプトや、向かう先についても話が及んだ。
「一貫しているのは『非日常と一体感』です。テーマパークのように、家族で来た人たちが、その時間を夢中になって過ごせる場所になってほしいんです。夢の世界に没頭できたり、アリーナに近づく段階から盛り上がりを作る。『アリーナに来た』という高揚感の中で試合を見てもらう。それを実現するには、競技だけでなくて、演出やお客さんの盛り上がりも含めた空間作りが必要です。」
昨シーズンの終盤からロボッツを見つめてきた西村は、「ロボッツのファンには、すでにアリーナ作りに向けた素地がある」と話す。これまでで作り上げてきたスタイルを、しっかり活かしていこうという狙いがあった。
「曲に合わせてタオルを掲げたり、ゲームデープログラムを振ってくれたり…。みんなが一緒にパフォーマンスをする一体感という点では、他ではなかなか見ません。単純な熱量で言えば、他のクラブのファンが上回っていることもあるかもしれませんが、我々は日本一一体感のあるアリーナを目指していく。『一緒に戦うんだ』ということが、茨城ではできるんじゃないかなと感じているんです。最後には、相手チームのファンさえも巻き込んで、ロボッツのアリーナに行ってみたいと思わせたい。」
実現のためには「もちろん一朝一夕には行かない」と、正直な部分も話す西村。ただ、アダストリアみとアリーナでロボッツファンの温かさに触れるにつれ、それがいずれ実現していくという考えに行き着いたという。
「ハーフタイムもじっくり席にいらっしゃったり、試合後に選手たちがコートを一周するまで席を立たずにいていただいたり。ロボッツに来て初めての試合、試合後に出口に立ってお客さんの表情を見ようと思ったんですが、ビックリするぐらい人が出てこないんです。ロボッツファンの方でアリーナに来て下さっている方にとっては当たり前なのかもしれませんが、そうではありません。」
最終的に目指すのは、超満員であることが当たり前のアリーナ。ただ、先の見通せないコロナ禍においては、どうしても様々な制約が発生してしまう。西村は、「影響はないと言えば嘘になる」とは話すが、同時にこれをポジティブにも捉えていた。
「100%、お客さんを迎えられるようになったときの準備だと思っています。ファンの皆さんの熱さ、暖かさは伝播していくことだとは思うんですが、人が多いほどに、伝播しづらいこともあります。例えば4000人のお客さんに来ていただいている中で、2000人の方がパフォーマンスに参加していただいたとしても、一体感につながるかと言われればそうではありません。ならば、今の状況の中で2000人の方全員に『これがロボッツの応援ですよ』というのをしっかり伝えていただいて、それを徐々に広げていく。と言う意味では、今を活用しない手はないなと思っています。」
最終的には、BOOT UP!ROBOTS!!で掲げた目標である「10回以上の来場者を800人にする」という部分にもつながると言う。「コアなファン、伝道者を増やしたい」という、新たな願いが達成されるか。暖かなファンの熱で、茨城全体を暖めていく。目指す姿のため、試行錯誤は続くと言えそうだ。
どこまで行っても挑戦者
チームだけでなく、茨城ロボッツという組織が「BUILD UP」することを目指す今シーズン。「より熱いファンを増やし、常に満員感もある。ファンの方、スポンサーの方に、ロボッツのこれからを見てみたいと思わせたい」と、西村は青写真を描く。
「期待と不安で言えば、不安や危機感80%、期待が20%ですけどね。でも、その危機感を持つからこそ面白いこともあるはずです。アメフトを指導していたときに言ったことがあるんですけど、『絶対に成功することをやるとしても、それは挑戦ではない』と思っています。我々は、どこまで行っても今シーズンは挑戦者なわけですから、危機感も不安もありますし、それを選手が思うこともあれば、私やファンの皆さんが思うこともあります。ただ、それはとても健全なことです。それを楽しみたいなと思います。」
これまで経験したことのないような1年を過ごすであろうロボッツ。チームに関わる全ての人にとって、大きな意味のある戦いとも言えるシーズンが幕を開けた。成し遂げるのは簡単ではないが、だからこそその実りは大きいはず。ロボッツに関わる人に一つ願うことがあるとすれば、果てない道のりを時に励まし、時に叱咤しながら、ロボッツの姿を見つめ続けてほしい。それが、未来のロボッツの礎になる。10年先の歓喜に向けた一歩を、共に踏み出していきたい。