ユース世代が見た、「プロ」の景色

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取材:文:荒 大 text by Masaru ARA、写真:IBARAKIROBOTS photo by IBARAKIROBOTS

2022-23シーズンから、Bリーグが導入した新たな制度である、「ユース育成特別枠」。各クラブのユースチームに所属する、若く才能のある選手たちを、プロと同じ舞台に立たせることを可能にしたものだ。通常の選手契約枠や特別指定選手に加えて、2人を登録できるとされるこの制度を用い、ロボッツはU18所属の荻沼隼佑(おぎぬま・しゅんすけ)、U15男子所属の山口哲平(やまぐち・てっぺい)の2人をトップチームの一員として登録した。まだあどけなさを多く残す2人が、プロと同じ目線に立つ。彼らが見ようとしていたもの、そして実際に見えたものはなんだったのだろうか。その舞台裏を追った。

目次

「頭と心」も買われて

まず彼らがメンバー入りした理由は、同年代の選手の中でも卓越したスキルがあること。ただ、決め手はそれだけか、と言えば少し違う。勝利のために、コート内外でリーダーシップを発揮する様子、さらには状況判断力の高さなど、「頭と心」のレベルの高さも重視された。

かつて、トップチームでキャプテンを務める#25平尾充庸が、「体の成長が止まる以上、プロになったら頭を使うこと」と説いたように、体や技術以外の重要性は、プロの舞台では大きなウエイトを持ちうる。2人の登録発表に際しての記者会見に同席したマーク貝島ゼネラルマネージャーも、「練習の取り組み方や姿勢も、プロと変わらない部分を持っている」と話す。

写真(左) U15男子所属・山口哲平、写真(右)U18所属・荻沼隼佑

そんな中で臨んだ記者会見。やや緊張気味の荻沼は「よろしくお願いします」とはにかみつつ、「試合中にエナジーを出して走っていく、これが自分の長所だと思っています」と、自らのアピールポイントを語る。

一方、「堂々たる」と言っても良いような様子を見せていたのが山口だ。同じようにアピールポイントを尋ねると、落ち着き払って言葉を並べていく。

「ポジション的に、前からプレッシャーを掛けていく場面が多いので、相手の嫌がるディフェンスを心がけています。また、ルーズボールに対して飛び込みに行くなど、一つのプレーでチームを引っ張っていけるようにすることを意識しています」

その一方、トップチームへの登録を伝えられた瞬間のことを尋ねると、2人とも大人びたところと年齢相応なところが混じったようなエピソードを話す。

「もちろん嬉しかったですし、とても驚きましたね。トップチームに入ると決まったときは、責任感も伴ってくると思いました。最初は驚きましたけど、登録されるからには責任を持ってやらないといけない、という風に切り替えました。登録を伝えられたときは、両親も一緒だったのですが、両親も驚いていましたし、『大丈夫かな』という不安な部分もあったようです(荻沼)」

U15男子所属・山口哲平

「自分は、落さん(落慶久スクールユース事業部長)から登録について話されたんですけど、その時は自分が目指していた場所に行ける、と思えて嬉しかったですし、それと同時に自分は中学生で15歳…と考えた時に、プロとの体格の差もありますし、メンタル面でもまだ未熟だと感じています。そういった部分からもっとがんばらないと、と思いました。僕は登録について落さんや天翼さん(遥天翼U15男子HC)小瀬さん(小瀬真弘コーチ)もいる場所で伝えられたんですけど、『選ばれたからにはU15の代表として行くことになる。うぬぼれたりせず、謙虚な気持ちで行くように』と言われました。選ばれたことは嬉しかったんですけど、だからと言って調子に乗るとかではなく、謙虚さを持って行きたいなと思います(山口)」

もっと踏み込んだことを言えば、トップチームでの経験は、彼らにとっても大きな成長材料になるはず。この経験をどう生かしたいか、ということにも質問が及んだ。

U18所属・荻沼隼佑

「トップ選手たちの姿勢、あるいはメンタリティーの部分をしっかりと学んで、自分のこれからの成長につなげていければ、と思います(荻沼)」

「自分も、貴重な経験をいただけたと思っていて、何年後かに『その舞台に立ちたい』と思っていました。そこでこういうチャンスをいただいたので、練習前の取り組み方や気持ちの作り方などをしっかり自分の目で確かめて、バスケット生活に生かしていきたいと思います(山口)」

会見の中で、何度も「プロ志向」を覗かせたのは山口だった。バスケットボールにおいては必須条件とされる英会話についても、勉強を重ねているという。将来、トップチームの選手としてその名を呼ばれる、あるいはその活躍の場が日本に留まらない可能性だってある。その第一歩がロボッツでの経験だったとしたら…。将来の可能性は無限大に秘められているし、それが実現することを願ってやまない。

2人を推す意味

2人の登録は、Bリーグを戦うトップチーム、そしてU15、U18を含めたユースカテゴリーとが一体的に戦う「オールロボッツ」としての体制として目指す方向性の現れでもある。自らもプロチームでの指導・指揮の経験も持つ、スクールユース事業部長の落慶久(おち・よしひさ)は、今回の登録の意図をこう話す。

「中長期的に考えた中で、クラブとそこに所属する選手の成長や育成を考えた上で、この特別枠を使いながら、今後に向けた育成システムにつなげていきたい、という考えがあります。ユースを強化していきたいし、トップチームが新B1に残っていくためにも、ユースの育成は欠かせないものだと思っています。そのために、この2人を登録することで、ロボッツとしての姿勢を示したいし、ユースの選手たちに夢を与えたい。今後『ロボッツでプレーしたい』と思わせる、アンダーカテゴリーのシンボルになってもらいたいという思いを込めています」

落はさらに「個人的には、非常にワクワクしている」とも付け加える。ロボッツとしてもユースカテゴリーの強化を図りたいところ。だが、まだU18チームは結成から日が浅く、さらに同年代である高校バスケに目を向ければ、茨城県内には全国的に名門とされる高校もある。地域的な事情にも目を向けつつ、ユースカテゴリーの道筋を立てるのは、Bリーグ全体の課題でもある。落は、2人を登録したことで生まれる将来への可能性について、さらにこう話す。

「茨城という場所は、我々のユースチームを含めて、クラブチームそのものがまだ浸透していないところがありますので、『これから』という部分があると思います。とは言え、ロボッツのユースチームにいること、さらに今回のようにトップチームに登録されることは『こういったことができる』という特性になると思っています。部活動には、部活動の良さもありますし、クラブチームやユースに行くことでの良さもあるというところで、それぞれに特色があるはずです。今回の制度を活用すること、この2人が経験してさらに成長していく姿を、モデルケースとして見せることができれば、今後もユースのクラブチームは発展していくでしょうし、定着していくはずです。まだ道のりは長い、と思っていますが、2人が所属するU18やU15男子だけでなく、U15女子も含めたアンダーカテゴリー全体が、他のクラブと比べた特色や強みを持って、それを発揮して、世の中の人たちに知ってもらえれば良いのかな、と思っています」

トップチームとユースカテゴリーの連携性については、マークGMも同意するところだ。

「『茨城のバスケットを盛り上げる』という部分は、間違いなくロボッツのトップチームが背負っている部分です。そんな中、茨城でプレーする若い選手たちには、ユースチーム、あるいは高校と、いろいろなカテゴリー、いろいろなチームという選択肢があるわけです。そうしたチームと連携を図ることで盛り上げにつなげたいですし、『ロボッツのユースに所属するからこそ、こういったチャンスにつながる』ということは強みになるかと思っています」

将来、プロを目指す選手たちにとって、この制度はある種の「近道」にもなりうるし、将来他の進路を選んだとしても意味のある「寄り道」にもなる。この2人が踏み出そうとする一歩は、彼らに限らず、多くの人々の可能性がこもった一歩になっていくだろう。

3000人の前に現れて

彼らがベンチ入り登録されたのは、10月26日のレバンガ北海道戦。ロスター入場では他のトップチームの選手たちと同じく、スポットライトを浴びながらコートへと駆け込んできた。そして、この日詰めかけたのは3179人の観衆。ロボッツの水曜開催ホームゲームでは過去最多となる人々に見守られながら、コートの片隅に陣取った。

ウォーミングアップでは、リバウンダーとしてチームを手伝いながら、空いた時間にはプロと同じ場所でシュート練習を行った2人。残念ながら、試合は2人を起用できる状況にならないまま時間が過ぎ、チームも敗れてしまった。

もし、このコートに立つことになっていたら。2人には予めどんなプレーを見せたいか、質問を投げかけていた。

「自分の長所は泥臭いプレー、ディフェンスのところだと思うので、まずは得意なプレーで会場を沸かせられたら良いなと思います(荻沼)」

「自分も前から付く、粘り強いディフェンスが持ち味だと思っています。オフェンスだと体格の違いでブロックされてしまうこともあるかと思うんですが、ディフェンスはその日の調子に左右されるものではなくて、気持ち次第で変わるものだと思っています。自分の気持ちを強く持って、ディフェンスからがんばっていきたいと思います(山口)」

そんなプレーを見せることは叶わなかったが、改めて、2人に試合を目にした感想を尋ねた。

「リンさん(#33林翔太郎)が積極的に声をかけ続けていて、ずっとベンチにいる人たちもポジティブに声を出していました。やっぱり、ベンチにいるだけかもしれないけど、自分でも勇気づけるというか、エナジーも出せるし、そこにプロの凄さを感じました。Jr.ウインターカップ(U15年代の全国選手権)の茨城県予選の決勝が控えていて、相手もエナジーがあるチームなんです。プロの人たちで、試合のプレータイムが少ない人でも、ずっと声をかけていた。そうすると、自然にチームも活気づくと思うので、そこを決勝でもやっていきたいと思います(山口)」

「1試合を通して高いレベルにエナジーを保って戦っていることがとても印象的でした。まずは今日まで体験して感じたトップチームのエナジーの高さを、ユースチームの練習で自分が発信して、伝えていく。もちろん、自分のバスケットの技術を見て盗めたところもあるので、そこはしっかりと次のステップにつなげられるように取り入れていきたいなと思います(荻沼)」

端から見れば一瞬だったかもしれないが、彼らの人生の中では一生ものの経験となるに違いない。3年後、4年後、あるいはもっと早い時期になるかもしれないが、彼らが、あるいは彼らの先輩や後輩たちが、トップチームの一員としてユニフォームをまとい、コートに立つはず。その瞬間が訪れるとするならば、荻沼と山口がその第一歩となったからこそだ。短いながら多くの関係者のサポートも経て過ごした期間は、これからの茨城ロボッツ全体に対しても大きな歩みとして残っていくことだろう。

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この記事を書いた人

福島県内での報道記者、大手自動車メーカーのモータースポーツ部門ライターを務めた後、独立。
茨城ロボッツを中心にB2の試合現場に足を運び、ファン目線から取材を重ねる。Twitter @MasaruARA

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