取材:文:佐藤 拓也 text by Takuya SATO
写真:B.LEAGUE、茨城ロボッツ photo by B.LEAGUE, IBARAKI ROBOTS
さらなる進化へ、そして、新B1へ、新たに動き出した茨城ロボッツ。
2020-21シーズンから指揮を執ってきたリチャード・グレスマン ヘッドコーチが退任し、昨シーズンまでサンロッカーズ渋谷でアシスタントコーチを務めていたジェームズ・アンドリセヴィッチのスーパーバイジングヘッドコーチ(SVHC)就任が決まった。
果たしてどんなチームへ生まれ変わるのか。
そして、どんなビジョンを持って、突き進んでいくのか。
アンドリセヴィッチSVHCとマーク貝島ゼネラルマネージャー(GM)に話を伺った。
すべてにおいて考えが合致した
ーマークGMに質問です。ジェームズ・アンドリセヴィッチさんをSVHCとして選んだ理由は?
マークGM「ヘッドコーチを探す時、たくさんの候補者がいました。最終的に候補者と面談を行って決めるわけですけど、その前に候補者だけでなく、候補以外の方とも電話で色々な話をしました。その中でジェームズと電話で話す機会があったんです。もちろん、彼のことは知っていましたが、面識があったわけではありません。その電話がはじめての会話だったにも関わらず、2時間半ぐらい話し込んでしまったのです。その時、私の考えと彼の考えにまったくズレがなかったんです。それは私とって非常に重要なことでした。私のやりたいバスケを、指揮官にやらせるのではなく、同じ考えの方と一緒に作っていきたいと思っていたので、彼を選ぶことにしました」
ー具体的に合致した部分とは?
マークGM「全てです。やりたいバスケのスタイルも選手に対する評価も一緒でした。戦術も長期的なビジョンも合致しました。そして、私はNBAのゴールデンステイト・ウォーリーアーズの組織を手本にしたいと思っているのですが、ジェームズがその下部組織出身ということも選んだ理由の一つです」
ーアンドリセヴィッチSVHCに質問ですが、今回のオファーを引き受けた理由は?
アンドリセヴィッチSVHC「GMと考えが合致したからです。はじめて話をした時からディフェンスもオフェンスも考え方が合っていた。それが一番の理由です。私は日本が好きですし、Bリーグも素晴らしいので、日本で活動したいという思いを持っていました。日本はこれからさらに成長できると思っています。そう考えていた時に自分のやりたいことをやろうとしているクラブからオファーが届いたことを私は幸運だと感じています」
ーマークGMに昨シーズンを振り返っていただきたいのですが、良かった点と今季に向けて改善したい点をどのように捉えていますか?
マークGM「良かった点については、最後まで諦めない姿勢を貫いたこと。しっかり戦い続けることをシーズン通して続けることができていました。たとえば、三遠戦の大逆転劇(2022年10月16日第3節GAME2)はまさにそれを体現した試合でした。負けた試合でも、最後まで諦めることはありませんでした。それは大事なことだと思っています。試合途中で大差がついてしまうと、気持ちが落ちてしまうことがあります。でも、ロボッツの選手たちは最後までハードにプレーし続けていた。そのカルチャーを作ることができたので、今後につなげたいと思います。改善というか、さらに良くしていきたいのは、スピードですね。いかに組織的にスピードを上げていくかがすごく大事になります。とはいえ、走るスピードとはまったく関係ありません。走るタイミングやいつどこに走るかの判断といったことを突き詰めて、パスを探さずに出せるようにしていくことによって、スピードアップすることができるのです。それはジェームズがすでに練習に取り組んでいるので、ワクワクしています」
ーすでにチームが始動し、チーム作りがスタートしていますが、チームの印象は?
アンドリセヴィッチSVHC「チームに合流してそこまで日が経っていないのですが、良いキャラクターの選手が多いという印象です。全体的にハードワークを厭わないですし、協力的にプレーすることができる。さらに最も大切なのが『うまくなりたい』という意欲の強い選手が多いこと。それはすごく大切なことで、その意欲があれば最終的にレベルアップできます。非常に伸びしろがあるチームだと感じています」
目指すのはNBAで主流のスタイル
ー「スピード」をテーマの一つとして掲げています。NBAを見ても、スピードがかなり求められています。ロボッツとしても、追求していきたいという意志なのでしょうか?
アンドリセヴィッチSVHC「NBAは非常にアナリティクスが進んでいて、マサチューセッツ工科大学を卒業した数学のスペシャリストがバスケのアナリティストとして活躍しているほどです。その高度な分析の中で出てきたのが、スピーディーに攻撃を仕掛けることの重要性です。攻撃時間の24秒を8秒ずつ3つに分けると、最初の8秒で攻め切ることが最も得点率が高いんです。つまり、速く攻めるとたくさん点を取れるということなんです。だからこそ、最初の8秒でシュートを狙うというのが私の考えです。そこでいかに点を取れるかがポイントとなります。そのために速くフロントコートまでボールを運べるようにならないといけない。そういった考えです」
ー速攻を仕掛けるために必要なことは?
アンドリセヴィッチSVHC「まずは練習でルールを作ります。相手のシュートの後、3秒でハーフラインを越えることの意識づけを行っています。そして、パスはドリブルより速いので、前にパスを出すことも徹底します」
ー昨シーズン、Bリーグの中でもロボッツのスピードは際立っていました。そこをさらに磨くことによって、独自性を打ち出そうとしているのでしょうか?
マークGM「それはあります。ジェームズのやり方で進めていけば、できるようになると思っています。リーグの中で一番速いチームにしたい。ポゼッション数1位を目指します。相手がゆっくりしていても、ロボッツは速いバスケを仕掛けていく。それが世界の潮流ですし、そのスタイルが一番強いと思っていますし、正解だと思っています。それは好みの問題ではありません。なぜなら、NBAの多くのチームがそのスタイルだからです。世界最高峰のリーグで行っていることを採り入れないわけにはいきません。ただ、まったく同じことをやるというわけにはいきませんから、ロボッツのスタイルを築いていきたいと思っています」
毎日1%成長していく
ーもう一つ、今季のロボッツのテーマとして「IMPROVEMENT(進歩)」という言葉があると思います。そして、就任会見でジェームズSVHCは何度も「成長」という言葉を口にしていました。選手を「成長」させるために必要なことは何でしょうか?
アンドリセヴィッチSVHC「コーチの世界には『毎日1%だけ成長しよう』という言葉があります。それは結構奥深くて、毎日1%ずつ成長したら、1年で365%成長することとなります。それが積み上げです。ただし、1日も手を抜いてはいけません。毎日成長しないといけないのです。今日は緩めようとか、今週は緩めようということがあったら、成長を止めてしまうこととなります。毎日集中力高く取り組まないといけないですし、上手くなりたいという意欲を持って毎日努力し続けることが大事なんです。言うは易しですが、それができれば、選手は大きく成長します。そして、それができれば、どんな結果でも胸を張ることができます」
ー選手を成長させるために意識していることは何でしょうか?
アンドリセヴィッチSVHC「これは私のポリシーなのですが、説明できない練習は行わないようにしています。つまり、他のチームがやっていたからとか、現役時代に教わっていたコーチが行っていたとか、バスケ界でよくある練習をするとか、そういう理由は適切ではないと思っています。たとえば、GMから『この練習は何のために行っているの?』と質問された時、ちゃんと答えられるようにします。選手たちに対しても同じです。そうしないと選手たちは納得しないと思いますし、受け入れてもらえないと思っています」
ーロボッツが目指すチーム像の一つに「Bリーグで一番成長するチーム」を掲げましたが、どういう意図があるのでしょうか?
マークGM「正直に言うと、今はまだ、日本代表のトップクラスの選手が『ロボッツに行きたい!』と言ってくれるような状況ではありません。それは資金的な問題もありますし、これまでの実績の問題もあります。ならば、そういう選手を自分たちで育てていこうという狙いです。そうすることによって、若くて有望な選手がロボッツに来てくれるようになると思いますし、トップレベルの選手も来てくれるようになると思います。そういった意図があります」
ー選手を成長させながら、チームとクラブの価値を高めていくという考えでしょうか?
マークGM「そういうことです。その点に関しても、ジェームズと考えが合致しました」
ー選手を成長させるためにクラブとしてどのようなサポートを考えていますか?
マークGM「できるだけ対話をすることです。僕自身としては正直であることを意識しています。パフォーマンスが良くない時には率直に伝えるようにします。選手が受け入れたいことだけを伝えるようでは選手たちの成長につながりません。一方、良いパフォーマンスを見せた時にはとことん褒める。コミュニケーションを密に取ることは、選手を成長させるために自分の立場としてやらないといけないことだと思っています」
「成長」と「結果」は相関している
ー先日行われた就任会見においてアンドリセヴィッチSVHCは期待している選手として#13中村功平選手と#17山口颯斗選手を挙げていました。2人に対して、どのような期待を抱いていますか?
アンドリセヴィッチSVHC「すごく期待しています。そして、彼らには、もうワンステップ上に上がってほしいという思いがあります。でも、それは簡単ではないと思っています。一番の理由は相手チームからの警戒です。今シーズン、ロボッツと対戦する際、相手はその2人を止めようとしてくると思います。警戒されていなかった昨シーズンと警戒される今シーズンでは同じパフォーマンスをすることですら難しいです。ただ、2人に共通して言えることはともに練習からハードに取り組んでいるということ。その姿を見ると、現状を乗り越えてくれるだろうと期待せずにはいられません。非常にワクワクしています」
ー若い選手が多いチームにおいて、ベテランの#25平尾充庸選手はチームにとってどんな存在でしょうか?
アンドリセヴィッチSVHC「本当に素晴らしい選手だと思っています。とにかくコミュニケーション能力が高くリーダーシップのある選手です。昨シーズンまでのことは分かりませんが、チーム始動時から非常にコンディションを準備をしてくれています。平尾選手のようなキャリアを他の選手も送りたいと思っているはずです。みんなが平尾選手を目指すことがチームにとって良い刺激になると思いますし、平尾選手の存在が良い相乗効果を生み出しているように感じています。若い選手が多いチームなだけに、難しい状況もあるかもしれませんが、そういう時にも彼は大きな存在になると思っているので、非常に頼りにしています」
マークGM「平尾選手はプレーも勿論ですが、素晴らしいキャプテンシーやリーダーシップを発揮してくれています。チームにとって一番大事な存在と言っても過言ではないです」
ー「成長」と「結果」の両方をつかむことは決して簡単ではないと思いますが、どのようなチーム作りを行っていきますか?
アンドリセヴィッチSVHC「むしろ、その2つは相関していると思っています。ロボッツは決して資金的に潤沢なクラブではありません。その状況で勝つためには選手たちを成長させるしかありません。リーグを戦うにおいて、色々な要素があります。けがもありますし、コンディション不良もありますし、スケジュールの問題もあったりします。それは自分ではコントロールできないことです。ただ、一つだけコントロールできるのは、選手たちを成長させること。それを絶対に失わないようにすれば、最終的な結果につながると思っています。どちらかというと、成長=勝利という考えを持っています」
ー今シーズンの目標について聞かせてください。
アンドリセヴィッチSVHC「毎日1%ずつ成長していきたい。それを実現できたら、成功したシーズンと言えると思っています」
ーロボッツブースターにメッセージをお願いします。
アンドリセヴィッチSVHC「見ていて楽しいバスケをします。だからこそ、見に来てもらいたいと思いますし、チームを後押ししてもらいたいと思っています。スピードを重視するバスケは運動量が求められます。走るのはきついです。毎試合走り続けるためにも、ブースターの皆さまの力が必要です。皆さまの声援は選手たちを勇気づけます。だからこそ、会場に来ていただきたいと思います」
マークGM「シーズンのどこかで一気に点を取れるようになると思います。120点ぐらい取る試合が絶対にあるでしょう。サッカーでは1対0の試合でも面白い試合はありますが、バスケのロースコアの試合は面白くありません。得点場面が多い試合こそ、バスケの醍醐味です。そういう意味で今シーズンのロボッツには期待してください」