#2 モサクダミロラ~楽しさの中で、がむしゃらに戦う(後編)~

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:B.LEAGUE、茨城ロボッツ photo by B.LEAGUE, IBARAKI ROBOTS

「とにかく、バスケットボールの世界を突き詰めたい」という想いに突き動かされ、Bリーグの世界へとたどり着いた#2モサクダミロラ。晴れてプロバスケットボール選手としての扉を開く…という矢先に襲われたアクシデントから、より逞しい姿へと変わり、今シーズンのコートに立つことを目指している。前編ではこれまでのバスケット遍歴を尋ねてきたが、今回の記事では、プレーでバスケットボールを目一杯楽しもうとする姿だけでなく、コート外で彼が重ねている努力についても切り込んでいく。

2度の負傷を乗り越えて

プロとしてのデビュー直前の昨年9月、モサクは左肩の脱臼に見舞われる。初めてだったというケガから状況が一転し、リハビリの日々を過ごした。「できることをやろうと、純粋に考えた」というモサクは、戦線に戻ると徐々に成長を見せ、昨シーズンの終盤戦ではついにスターターとして起用される。「自分の中でも、どんどん自信が付いた」と振り返るが、シーズンの最終盤に再び肩を脱臼し、復帰することは叶わなかった。ロボッツへの加入直後はリハビリも含めたトレーニングを行う日もあったが、状態を見ながら強度の高い練習への参加もみられる。現状での左肩の状態について、モサクは次のように話す。

「他の人が見れば、『普通にできる』と思ってもらえるレベルだと思います。プレーしながら『もっと強く体を当てられた』と振り返るときもあるほどで、せっかくならば、もっと体を強くしてコートに立ちたいです。バスケットをする上で『体が強さ』を考えたときに有利なのは勿論強い方ですし、今までフィジカルが強くなかったからこそ、今後の自分の強みにしたいんです」

トレーニングを指導する、大塚健吾ストレングス&コンディショニングコーチに対して、モサクはシンプルに「体を強くしたい」と教えを請うた。その過程で増量に励み、ルーキーイヤーと比べて8kgほどの増量を果たした。増量については「一度にたくさん食べるとお腹が弱くなる」という自らの体質も鑑み、少量の食事を多くの回数摂る…というスタイルを探り当てたのも功を奏しているという。

「学生の時は、どうしても1食で大量に食べることを繰り返してしまって、栄養を十分に取れていませんでした。プロになったことで自分自身の体質も知ることができましたし、体作りのための食事にも、時間を割くことができています」

モサクは、トレーナー陣や大塚コーチに対して「メニューに間違いはない」と信頼し、バスケットボール選手として生まれ変わるための体作りに余念がない。もちろん、スタッフ陣への感謝も忘れずに口にする。より強靱な体に生まれ変わり、コートを駆け回る日は、すぐそこまで来ている。

「バスケができるなら」と飛び回る

新潟への加入を目前にしていた時期、モサクは「いろいろなところでバスケットをやりたい、バスケの世界の人たちともっと交流をしていきたい」と思い立った。とは言えBリーグはオフシーズン、シーズンでの所属先も決まっている。モサクは縁あって、ストリートボールの舞台に立つことになった。

昨年の夏、東京・代々木公園で行われた「ALLDAY」と呼ばれるストリートボールのトーナメントに、モサクは参加した。ALLDAYでは「D」という呼び名で暴れ回ると、所属チームの「UNDERDOG」を大会優勝に導き、MVPもさらっていった。UNDERDOGというチームそのものは、古くからのロボッツファンであれば眞庭城聖(現:滋賀レイクス)のルーツにあるチームとして知る人も多いだろうし、現在も長谷川智也や落合知也(共に越谷アルファーズ)などのBリーガーが大会に参戦している。では、そもそもなぜこの大会に、それもUNDERDOGからモサクが出場したのだろうか。

「ALLDAYという大会自体は知っていたし、日本にいるならば出てみたかったけど、チームに伝手がなかったので、出場はできないものだと思っていました。ただ、大学に行く前、(UNDERDOGの選手が多く在籍する)越谷アルファーズの選手たちと1ヶ月ほど練習をしていたことがあり、そこからUNDERDOGの選手たちとも繋がりができていました。大会の1週間ほど前になって『UNDERDOGでALLDAYに出てみないか?』と誘われ、大会直前の連絡に対しても『ぜひ、やりたいです』と返事をして、参加することになりました。(よほど乗り気だったからか)『出られて良かったね』と言われるほどでした」

モサクはこの時期、ストリートボールリーグの「SOMECITY」にも参戦するなど、5人制との勝手の違いをいくつも経験する。体育館で見られる木材のコートではなく、樹脂パネルを敷き詰めたコートだったり、そもそもコートが5人制バスケットのハーフコートよりも狭かったり。さらにプレーをする中ではストリート的な煽り、煽られ…という文化も経験した。それでも、モサクにとっては充実した日々だったようだ。

「みんながプレーを見て、喜んで…という良い雰囲気を、その場にいる全員が味わえる。みんなが楽しんでくれているし、自分にとっても楽しい経験でした」

さらには、21歳以下の3x3日本代表に選出されたことで、モンゴルで行われた「FIBA 3x3 ネーションズリーグ 2022」へと出場する。余談にはなるが、当時の代表にはロボッツの特別指定選手として活動歴がある脇真大(白鷗大学)も加わっていた。初めての日本代表としての日々は、どのようなものだったのだろうか。

「日本代表に選ばれるために、多くの選手がチャンスを狙っている中で選ばれて良かったです。日本代表になったのも、これまで過ごした国以外の場所でバスケをすることも初めてでした。対戦の中で、相手の高さや体格に苦しんだとは思いませんでしたが、戦術面で、3x3での経験の差を感じましたね」

同世代の選手たちと日本代表として戦ったモサク。そこで感じたことも、バスケットマンとしての刺激だったようだ。

「代表になったことで『日本のトップ選手たちに出会えた』と思えました。これまでバスケットの世界で出会ってきた人たちは、みんな『バスケが大好きで頑張っている』と感じますし、日本代表の中で出会った人たちも、そこは変わらなかったです」

改めて、シーズンに向けた意気込みを問う。そこでも「バスケを楽しむ」という、彼の掲げた想いが見え隠れしていた。

「僕自身、バスケが大好きなので、ファンの皆さんにも同じ目線で楽しんでほしいと思います。シンプルに、バスケをして楽しんでいる姿を見てほしいんです」

話を聞けば聞くほど、「バスケファースト」を掲げる青年であると感じさせられるモサク。「VICTORY FACTORY」において誰よりも目を引くプレーを見せ続け、一度気になってしまえば、その魅力はどこまで見ていても飽きないものになっていく。彼が今季のロボッツのスタイルにおける「アイコン」と目される日も近いだろう。

インタビューが苦手なんです

今回、インタビューが終わるとモサクから意外な本音が飛び出した。

「インタビュー苦手だったんですけど大丈夫でしたか?」

アメリカでの武者修行の話や自分が大切にしていることなど事細かに話してくれた姿からは想像できない心配が返ってきた。「なんでそう思うんですか?」と聞くと、

「今までインタビューを受けてて自分の中でしっくりこないことが多かったので。特に、申し訳ないのですが、試合後にブースターの方の前で話すインタビューがすごく苦手なんです。試合に対して人によって色々な考えがあると思うので、『全員が納得するように話さなくちゃ』と考えると詰まってしまったりしてしまいます」

何事にも全力で取り組むストイックなモサクらしい悩みだ。

聞けば高校や大学での授業で行われるスピーチやプレゼンテーションでも同じような悩みを抱えていたらしく、

「たくさんの人の前でわかりやすく説明しようとすると、頭の回転も速い方ではないので詰まってしまうんです。数学のようにはっきりと正解が出るものならいいのですが、自分の発言が正解かどうか分からず答えるのに躊躇してしまいます」

と本人としてはかなり大きな悩みのようだ。

そんなモサクに「インタビューが上手だなと思う人はいますか?」と聞くと、

「河村勇輝選手(現:横浜ビー・コルセアーズ)や川村卓也選手(昨シーズン新潟でチームメイト)は凄く答え方が上手いなと感じます。河村選手はインタビュー慣れしていて、どんどん言葉が出てくる。話し方が綺麗だし、皆んなが好きになりそうな返し方をしている印象があります。川村選手はとにかく話上手でどうやったらこのレベルにまで行けるんだろうと思います」

と答える。

では、二人を目指して努力をするのか。これに関してもモサクは煮えきらない気持ちがある。

「練習して二人のレベルに到達できるならやってみたい気持ちはあるのですが…。そもそも練習の仕方があるのか、どれくらいまで努力をしたら二人のレベルになれるのか。色々と考えてしまいます」

とまだ結論は出せない様子だった。

話すことでプレーを補完し自分を知ってもらうか、プレーで魅せてブースターの熱を上げるのか。難しい選択で揺れ動くモサクの姿が垣間見えた。

しかし、モサクはまだ21歳。プロバスケットボール選手でもあるが、これからも様々なことを経験する若者だ。

「話すこと自体は嫌いではないんです。ただ、自分の中でどれが正解なのか、何が良いのかはわかっていません。バスケが第一優先であることは変わらないし、自分の中でスッキリする部分を見つけていきたいなと思っています」

今回の取材を受ける姿勢もとても真摯で、一生懸命にわかりやすく伝えてくれているのがとても印象的だった。

昨季の活躍を見れば、今季もアダストリアみとアリーナでMVPインタビューをすることは間違いないだろう。少しずつ自分なりの型を見つけ出し、人として成長していくモサクをロボッツファミリー全員で見守っていただきたい。

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