OUTSIDE AKATSUKI ~熱狂を見つめて~

写真:B.LEAGUE、茨城ロボッツ photo by B.LEAGUE, IBARAKI ROBOTS

ドイツの優勝で終わった「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」。フィリピン、インドネシア、日本(沖縄)にて開催され、沖縄アリーナでは連日連夜世界中のバスケットボールファンが熱を発していた。男子日本代表、通称「AKATSUKI JAPAN」の躍進も凄まじく、最終成績を3勝2敗の19位。アジア勢で最上位となり、1976年のモントリオール五輪以来48年ぶりの五輪への自力出場を決めた。

男子日本代表には多くのBリーガーも選出。普段は敵同士ではあるものの、同じプレーヤーとして日の丸を背負い戦う姿に心を打たれた選手も多いだろう。今回は、茨城ロボッツの選手4名、コーチ1名から見た「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」について迫っていく。

日本開催でのBリーガーの躍進

今回のワールドカップはフィリピン、インドネシア、日本での開催。”夢のアリーナ”としても名高い「沖縄アリーナ」でグループ予選、順位決定戦が行われた。日本での開催は2006年以来。バスケ人気の高い沖縄の地で連日連夜バスケットボールファンが盛り上がりを見せた。

茨城ロボッツ#12 松本礼太も昨季まで沖縄アリーナを本拠地に置く琉球ゴールデンキングスでプレーしていた選手。彼も、プロ一年目から"夢のアリーナ"、沖縄でのバスケ熱をヒシヒシと感じていた。

「第一印象は『すごいな』の一言です。自分が初出場で初得点することができた時、その瞬間に沖縄アリーナに来てた皆さんがもう大歓声で、沸いていただいたことが印象的です。毎試合満席になるので、そういった意味では、琉球のブースターさん、沖縄県の皆さんはバスケ熱が高いと思います」

プロ一年目を琉球で過ごした松本。ちょうどその頃はワールドカップ開催に向け、沖縄県が熱を高めようとしていた時期と重なる。街中にワールドカップの掲示物が溢れ、沖縄都市モノレール線ゆいレールが「FIBAバスケットボールワールドカップ号」の運行を開始するなど、開催を祝う様子が見られた。

「沖縄市体育館にワールドカップ開催と書かれた掲示物が貼ってあったり、沖縄市全体でワールドカップ開催を宣伝していた印象です。 スロベニアとかドイツ代表のNBAスタープレーヤーが日本に来て試合することは、この先そうそうないことだと思うので、大きく取り扱ってた様子でした」

そんなバスケの聖地とも呼べる沖縄で日本代表は躍進。特に、フィンランド戦で25得点、9アシストと日本代表の逆転勝利に貢献した河村勇輝選手の活躍は多くのバスケットボールファンの脳裏に刻まれたことだろう。松本は河村選手の高校、大学での2学年先輩に当たる。

「スピードが彼の持ち味だと思いますし、本人も五輪を目指してやっていたと思うので、その中で、アグレッシブにアタックするところや、ホーバスHCに求められてることをやりつつ、 自分のプレースタイルを崩さないっていうのは、本当は彼のすごいところだと思います」

2月に行われた天皇杯準決勝では河村選手擁する横浜ビー・コルセアーズと琉球ゴールデンキングスが対戦。河村は沖縄アリーナでその試合45得点を記録した。対戦相手として試合を見た松本は、

「河村本人も言ってるように、パスファーストになっていた彼が代表活動を経て、オフェンスにも力が入るようになり、天皇杯の準決勝で、彼に45点取られて。本当にすごい活躍でした」

他にも#17 山口颯斗、浅井修伍の筑波大学の先輩・馬場雄大選手、#25 平尾充庸の同郷の後輩・川真田紘也選手、西田優大選手の活躍が見られた。

山口「馬場さんとは少し入れ違いになって被っていたのは短期間なのですが、良い意味で学生時代と変わらないなと思いました。身体能力を生かしたプレーが凄くて、ディフェンスも良かったと思います」

平尾「西田選手は中学生の時から徳島県内を騒がせていた選手でした。その当時に一度だけ試合を見ましたが、一目でわかりました。今回は限られたプレータイムだったかもしれませんが、しっかりやるべきことを自分で理解して、コートで表現できていたと思うので、すごい良かったなと思って見ていました。川真田選手は同じ徳島県からの天理大学の繋がりということもあり、注目していました。献身的なプレーや誰かのコース作ってあげる。リバウンドでのハッスル、誰かのためにスクリーンかけてあげるというのは、多分彼しかできないと思って見ていました。今回の代表のラインナップで彼の生きる道だったと思います」

普段はレギュラーシーズンで火花を散らす相手でも、同じバスケットボールを愛する者として、ロボッツの選手たちも様々な角度から代表戦を見ていた。日本の躍進を全員が願い、期待に答えた日本代表はファンだけでなく、プレーヤーにも感動を与えただろう。

必ずNBA選手になると思っていた

今回、日本代表の大黒柱としてコート内外でチームを支えた渡邊雄太選手(現・NBA フェニックスサンズ)。大会前に行われた国際強化試合・SoftbankCUP2023(東京大会)。スロベニア戦後の壮行会では代表引退を示唆するなど、今大会にかける熱量をバスケットボールファンに伝えた場面も記憶に新しい。

今ではNBA選手として日本人最長の6シーズン目を迎える渡邊選手。そんな彼の大学時代をよく知るのが茨城ロボッツのクリス・ホルムHCだ。

「初めて会ったときから雄太は常に笑っていて、本当に良い印象しかないですね」

ホルムHCは2015年9月に現役を引退。引退後に当時渡邊選手が所属していたジョージ・ワシントン大学のアシスタントコーチに就任。ホルムHCは日本での生活が長かったこともあり、渡邊選手と打ち解けるのに時間はかからなかった。

「もちろんバスケットの話もしましたが、彼も留学生として渡米し、日本が恋しかったと思うので、日本の食事や文化などについて話しました。私も雄太に日本語で話しかけるなど、日本という共通点があったので良い関係を築くことができたと思います」

日本から遠く離れたバスケットの本場・アメリカで、武者修行を積む一人の青年としての素顔が垣間見える。

当時から200cmを超える高身長でSGを務めていた渡邊選手。現在も彼の代名詞となっている3Pシュートとディフェンスでこの頃からアメリカでも活躍を収めていた。

「あの時からディフェンスは本当にすごかったです。私のコーチキャリアの中でも一番です。彼がマッチアップする選手は毎回エース級の選手。止めなければいけない場面でしっかりと守り抜いてくれるイメージでした。ディフェンスに誇りを持ってやっているように見えましたね」

今回のワールドカップでも、各国のエース級の選手、またポジションに関係なく幾度となく日本の窮地を守り抜いてみせた。そんなディフェンスは大学時代から一切変わっていない。それは結果にも表れ、ナショナル・インビテーション・トーナメント(NCAAトーナメント出場を逃した32チームが招待されて争われる大会)での優勝、アトランティック10カンファレンスの最優秀ディフェンス選手賞も受賞。NBAでも屈強な選手たちに一切怯まず、立ち向かう姿を何度も目にする。

しかし、当時は田臥勇太選手(現:宇都宮ブレックス)以来、何年も日本人がNBAの門をたたくことはできず、かなり難しい挑戦だったことだろう。しかし、ホルムHCは渡邊選手のNBA入りについて、

「もちろん(NBA選手に)なると思っていました。高身長で手足が長く、3&D(3Pシュートとディフェンスに特化した選手)でハッスルができる。人間性も素晴らしいですし、NBAで今活躍する姿も見ても驚きはありません」

チームメイトに大スターが連ねる中、渡邊選手が流れを作り出す場面も多かった。今回の日本代表での活躍も全て”続けてきたこと”の結果なのだろう。

「今回のワールドカップでもリーダーとして日本代表を引っ張っていました。国際強化試合のスピーチでも言っていましたが、アジア勢1位になると宣言し、実際にやってのけました。大学の時からああいったリーダーシップがあったので彼らしいコメントだなと思いました」

今回のアジア勢1位という結果は彼なしでは語れないだろう。 48年ぶりの五輪への自力出場の原動力の中心にいた渡邊選手にホルムHCは最後にこうメッセージを残す。

「雄太の成功が、私自身とても嬉しいです。彼自身もずっとNBA選手になりたいと言ってたので、やってきたことを継続して、NBA選手として、活躍してほしいなと思ってます」

次はBリーグだ

日本代表の躍進から一ヶ月が経過するも、未だにあの感動を耳にすることは多い。それほどまでに日本中が感動し、長い日本バスケの暗闇が開いた、暁の瞬間だった。今回の日本代表の活躍でB.LEAGUEも大きく注目を浴びている。B.LEAGUEが発表した数字で見る「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」効果でも、B.LEAGUE ID登録者数、チケット購入枚数が昨対比で大幅に増加。日本中が”バスケットボール”に熱視線を送っている。

日本で今までにないバスケ熱を見て、

平尾「日本代表の試合は、非常に楽しかったと思います。ただ、そこには選ばれたくても選ばれない人がたくさんいる。 そういった人たちも一生懸命戦ってるのが、B.LEAGUEです。代表に選ばれなくても、すごいプレーヤーがたくさんいるので一度見に来てほしいです。きっかけは本当なんでもいいと思ってて、代表選手を見に行った時に、他の頑張っているプレーヤーを見て、ぜひファンになってくれたらなと思います」

タプスコット「代表戦を見て、バスケへの情熱、負けた場面や勝った場面での選手たちの表情など、感動的な場面も多かったと思います。これはロボッツでも見せたい部分でもありますし、B.LEAGUE全体でも見せられる部分でもあると思います。バスケットファンの方々も、今回始めて見た方も、 私たちの情熱的なプレーを見ていただきたいなと思ってます」

今回、茨城ロボッツから日本代表は選出されなかった。しかし、3x3(3人制バスケットボール)日本代表の#1 トーマス・ケネディ、昨季フリースロー成功率1位の平尾、195cmの身長ながら類稀なスキルで得点を量産する山口など、他にもロボッツには素晴らしい選手が集う。日本代表のように大逆転劇で勝利を飾った試合も昨季多くのブースターの感動を呼んだ。日本代表にも負けず劣らない"諦めの悪いチーム"を今季も見れるだろう。

B.LEAGUEが誕生してから今季で8シーズン目。ワールドカップでの熱をさらに高め、リーグが掲げる「世界で2番目のリーグ」を目指すためにも今季どのチームもチーム・フロントが一体となり、シーズンに臨むだろう。

10月7日。B.LEAGUE2023-24シーズンが開幕する。

男子日本代表が開いた暁をここで途絶えさせてはいけない。さあ、次はB.LEAGUEだ。

提供:B.LEAGUE
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