取材・文:佐藤 拓也 text by Takuya SATO
写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKI ROBOTS
2月8日、茨城ロボッツは茨城県立医療大学と連係して、同大学体育館にて、「車いすバスケで熱くなろう 車いすバスケットボール体験会」を開催しました。
今回のイベントは地方創生への貢献を目指すB.LEAGUEと、全国各地にネットワークを有する日本生命とが協力し、地域社会の活性化に向けた活動を各地域で展開・サポートしていく共同事業「B.LEAGUE Hope x 日本生命 地域を元気に!バスケACTION」プロジェクトの一環として行われました。
「心のバリアフリー化」を目指す
「車いすは決して障がいのある方だけが乗るものではありません。怪我をしたり、年齢を重ねるうちに誰でも利用する可能性があるにもかかわらず、車いすユーザーに対してのバリアは日常生活の中でさえもなかなか減っていないのが現状です。障がいの有無を超えた『交流』や『体験』を提供し、社会側にある障がいを取り除く『心のバリアフリー化』を目指して活動を行います」
イベント開催の目的について、茨城ロボッツは公式WEBサイト内でこう説明しています。
車いすに乗れば、「誰もが同じ条件で楽しめるスポーツ」だということを一人でも多くの方に知ってもらおうと、連携協定を結んでいる茨城県立医療大学の車いすバスケットボールチーム「ROOTs」のメンバーとともに体験会が企画されました。

ちなみに、同体育館は「スラムダンク」の作者で知られる井上雄彦さん原作の車いすバスケを題材としたマンガ「リアル」の舞台となった場所です。観覧席には主人公の戸川清春の絵が飾られており、いわば、「車いすバスケの聖地」とも言える場所で、車いすバスケの理解を広げるための新たな取り組みが行われました。
車いすの操作に四苦八苦
会場には小学生から大人まで約40人が集まり、9時半にイベントはスタートしました。「ROOTs」の橘香織コーチの指導のもと、まずは車いすの操作方法を学ぶところからはじまりました。タイヤを自分の手で動かす操作方法に慣れず、意志とは逆の方向に進んでしまったり、思うように止められなかったり、操作に四苦八苦していました。徐々に感覚をつかみだし、多くの参加者がスムーズに動かせるようになっていくと、「シャーク」と呼ばれる鬼ごっこのようなレクレーションを通して、さらに操作に慣れていきました。


その後、ドリブルやパス、シュートといった基礎的な技術のトレーニングへ。やはり、一つひとつの動作が難しく、ドリブルは車いすのスピードとタイミングに合わせてボールをバウンドさせなくてはならず、シュートは車いすに乗った状態で下半身の力を使わずに通常の高さのゴールに決めなくてはならないなど、“バスケットボール”とは求められる技術が異なり、なかなか思い通りのプレーができない参加者が多く見られました。それでも、「ROOTs」のメンバーが丁寧に指導を続けたことによって、回数を重ねるごとにプレーを成功させる場面が増えていきました。今までできなかったことができるようになる喜びを感じた参加者たちからたくさんの笑顔が見られるようになりました。


そして、5つのグループに分かれて、試合を実施することとなりました。それまで、車いすの操作やプレーの習得に苦労してきましたが、試合がはじまると、熱戦が繰り広げられました。通常のゴールだけでなく、ゴール前に設置された小ゴールに決めることで得点になる特別ルールを設けられ、子供や女性がゴールを決める場面が目立ちました。もちろん、通常のゴールへの得点もあり、中には3ポイントシュートを決める参加者もいました。




白熱した試合が続き、大いに盛り上がりを見せ、12時にイベントは終了しました。
「オリンピックで車いすバスケを見て興味があったので参加してみました」とイベント参加動機について語る渡辺浩直さん(58)は「思ったより車いすの扱いが難しくて、大変でした。シュートが普段のバスケと全然違うので、すごく戸惑いましたけど、同じチームの人たちとプレーして、すごく楽しかったです」と充実した表情で感想を語ってくれました。
また、ミニバスチームに所属している息子さんと参加した内田幸恵さん(43)は「車いすバスケは障がいの有無や大人と子供といった壁がなくて楽しかったです。今後も機会があれば、参加したいと思います」と車いすバスケの魅力を堪能してくれたそうで、「次回があれば、また参加してみたいです」と今後の参加に向けて意欲を示してくれました。
「お母さんに勧められて、興味があったので参加してみました」という北條咲稀さん(11)も「大変だったけど、楽しくプレーすることができました」と満面の笑みを見せてくれました。





イベントを運営して感じたこと
イベント終了後、今回企画・運営をしてくれた「ROOTs」のメンバー、渡辺健佑さん(20)、安東和香さん(20)、原秀羽さん(20)にもお話を伺いました。

Q.今回のイベントが終了しました。振り返って、いかがでしたか?
渡辺「計画を立てる時に学業が忙しくて、うまく計画が進んでいなかったんですけど、橘先生やROOTsのみんなの協力もあって、自分が思っていた以上にうまくいって、満足しています」
安東「運営に参加する経験がはじめてだったので、不安な気持ちしかなかったんですけど、実際やってみると、みんながニコニコで楽しそうに車いすバスケをやってくれたから、運営に携われてよかったと思っています」
原「準備の段階から不安なことがたくさんあって、今日の朝になっても何回も考えても不安だったんですけど、いざはじまったら、スムーズに進行することができました。多少のトラブルはありましたが、みんなが柔軟に対応してくれて、参加者も楽しそうにしてくれて、大満足です」
Q.今回のイベントのテーマは?
渡辺「できるだけみんなに楽しんでもらうことがメインでした。このイベントを通して車いすバスケを知ってもらって、参加者の方に1回で終わらず、これからもやってもらいたいと思ってもらえるような活動にしたいと考えていました」
Q.車いすバスケのどういうところを伝えていきたいですか?
渡辺「車いす乗っていても、ルールやゴールの高さは健常者のバスケと変わらない。差別がないところが面白いところだと思っています」
安東「車いすバスケは障がい者が行うスポーツだという概念があると思うんですが、そういうわけではなく、健常者も障がいを持っている方も一緒にできるところが魅力だと思うので、そういうことを伝えられれば、嬉しいです」
原「親や親せきに『車いすバスケをやっている』と話すと、『なんで、健常者なのに?』という言葉が返ってくるんですよ。でも、僕としては車いすバスケが楽しくてやっているんです。車いすバスケは障がい者がやるスポーツというのではなく、一つのスポーツとして認識してもらいたいと思います」
車いすバスケ体験会終了後、大講義室に会場を移して13時から茨城ロボッツ対島根スサノオマジックのパブリックビューイングを実施。残念ながら試合は負けてしまいましたが、接戦が続く試合展開に会場は最後まで熱気に包まれました。そして、試合後は参加者から奮闘した選手たちに大きな拍手が送られていました。
