昨シーズンロボッツに加入した、#15マーク・トラソリーニ。豪快なダンクや、隙あらば放っていく3ポイントシュート、ここぞという場面でのブロックショットなど、攻守にわたって扇の要とも言うべき活躍を見せた。B1昇格を果たして迎えた今シーズンもロボッツに残り、レバンガ北海道在籍時以来、自身2シーズンぶりとなるB1の舞台に臨む。チームに合流したばかりの8月23日に、トラソリーニへインタビューを試みた。新たな戦いに向けて、どのような準備を重ねているのか。そして、新戦力として加わった選手たちとどのようにして力を合わせようとしているのか。彼の言葉から探ることとした。
体作りは順調に
レギュラーシーズンに加えて、プレーオフも戦ったことで、トラソリーニにはやや疲労が残っていた。母国・カナダへ帰国した後、しばらく休養してから自主トレーニングを再開したという。心肺機能を高めたり、ウェイトリフティングに取り組んだり…。大きなケガもなくオフを乗り切ったトラソリーニだが、日本に戻って待ち受けていたのは、コロナ禍にともなう2週間の行動制限だった。
「行動制限を経てすぐという状況なので、まだ全開というコンディションではありません。ただ、元気ではあるので、コートに戻ったときにどれくらいのパフォーマンスが出せるか見てみたいと思います。」
世界中でコロナウイルスが猛威を振るっていた昨年のオフは、国の往来だけでなく、外国籍選手は帰国中のトレーニングさえも制限されることもあった。それを踏まえて、コロナ禍での体作りは大変だったのかと尋ねたところ、コロナ禍に対する日本とカナダの状況の違いもあり、一概にそうとは言えない状況だったのだという。トラソリーニが自ら説明してくれた。
「母国のカナダは、ワクチン接種率が70%を超えていることもあり、かなりコロナウイルスの拡大は抑えられつつありました。僕も帰国したタイミングでワクチンを打っていますし、ホッとした部分もあります。とは言え、まだまだ注意して生活しなくてはなりません。日本は今、感染拡大の状況にあるので、今の状況がピークになることを祈りたいですね。」
聞けば、家族もまもなく来日する予定だという。初来日から今年で5シーズン目。既に彼はしっかりと戦う準備のフェーズへと入っている。
一段上の舞台。必要なのはカルチャー
B1を知る者として、これまで戦ってきたB2とは、どういった部分が違うのか。ロボッツにとってはまだまだ経験の無い分野だけに、気になるところだ。トラソリーニは、昨シーズン、ロボッツがカラーとして打ち出した、「アップテンポで攻撃的なバスケット」のレベルを向上させていきたいと語った上で、こう話す。
「B1の選手たちは、フィジカルがより強く、またディフェンスのプレッシャーも激しくなっています。全てが去年より良い状態で臨まなくてはなりません。より激しくなったディフェンスをどう攻略するかは、非常に重要になってきます。よりタフなプレーをすることも必要ですし、メンタル面を強化していくことも重要だと思います。プレー面としては、ディフェンスのエクスキューションを高めていくこと、リバウンドを取っていくこと、そうした面を強化していく必要があると思います。」
社長兼ゼネラルマネジャーの西村大介が、重ねて「ウィニングカルチャーを作る」と公言し、昨年の戦術を知る選手たちも、その多くが残った。それはロボッツにとっては良い作用をもたらすだろうと、トラソリーニは話す。
「ロボッツはカルチャーを築き上げることや、アイデンティティーを積み上げていくことができるチームだと思っています。エキサイトするようなバスケットボールを展開するということこそ、ロボッツが続けていくべき事なのだと思います。B1でもそうしたプレースタイルを展開できればいいですね。」
今シーズンの目標を尋ねると、トラソリーニはチーム目標を引き合いに出して話してくれた。
「B1に昇格したからと言って、そこで満足するのことは、チームとしてはするべきではありませんし、またしたくないことだという共有をしています。グレスマンHCからも言われているのですが、『昇格組としてベストな成績を収める』という目標を、ぜひ達成できればと思います。」
この取材と前後して、2021-22シーズンのスタートアップイベントである「BOOT UP!ROBOTS!!」が行われた際に、今シーズンの勝ち数目標がファンにも示された。目指すは、シーズン20勝。決して道のりは平坦ではないが、勝利をどん欲に意識し続けることでその実現性は高まっていくだろう。
ロボッツ在籍2年目、新加入の選手たちを俯瞰的に見ることもできている。小寺ハミルトンゲイリーやアブドゥーラ・クウソーが去った今シーズン、ビッグマンの一角にはB1の切符を懸けて死闘を演じた仙台89ERSから#21エリック・ジェイコブセンが加わった。トラソリーニは、献身的なプレーでチームを支える姿から、ジェイコブセンがチームの戦略に当てはまった選手だと考えている。
「クウソー選手や小寺選手とはまたタイプの違った選手でしょうけど、恐らくチームにフィットすると思います。得点力にも長けた選手ですので、僕やタプスコット選手がガツガツ行かなくても大丈夫という状況にもなってくれるはずですし、お互いにうまくやっていけるはずだと考えています。」
フロントコート陣に限らず、各ポジションにおける顔ぶれとそのバランスは非常に重要だ。互いに役割を分担しきれるだけのキャラクターや実績を持ち、それぞれのパフォーマンスも申し分ない。昨年以上にパワフルとも言えるフロントコート陣は、B1での戦いに向けて明るい材料となってくることだろう。
また、トラソリーニにとってはもう一つ朗報があった。レバンガ北海道時代に3年間チームメイトであった、#8多嶋朝飛のロボッツへの移籍加入だ。多嶋とトラソリーニが形成したホットラインは、北海道の得点源として恐れられ、B1でも確かな爪痕を残した。「再結成」とも言える多嶋の加入を、どう捉えているのだろうか。
「多嶋選手は、力のある、素晴らしい選手だと感じています。ディフェンスも、オフェンスも能力が高く、ボールをしっかりプッシュして得点につなげられる選手です。引き立て役として、味方に的確なアシストを送ることもできますし、時には2番(シューティングガード)もできるような柔軟性も持ち合わせています。」
その上で、チームの大黒柱である、#25平尾充庸と同時にコートに立つ瞬間があるかもしれない、とも付け加えた。2人のボールハンドラーが輝く瞬間があれば、よりその攻撃スピードにも磨きがかかる。相手を振り切って得点を量産するようなシーンが多く見られることを期待したい。
楽しい時間を過ごしてもらえたら
同じB1・東地区に所属する関係で、古巣・レバンガ北海道との対決も用意されているが、B1の舞台には数々の強敵が待ち構えている。2年ぶりのB1に向けて、戦ってみたい、あるいは勝ってみたいチームがあるかと問うと、こんな答えが返ってきた。
「北海道に行くこと、古巣のレバンガを相手にプレーできることはもちろん楽しみです。トップリーグに昇格した今、思い出に残るような試合が次々にあることでしょう。例えば、千葉ジェッツ、宇都宮ブレックス、アルバルク東京、川崎ブレイブサンダース…。強いチーム、より良いチームと対戦できることも、非常に楽しみにしています。」
そうしたチームを相手に取って、トラソリーニが躍動する姿は楽しみそのもの。得点力という何よりもの武器で、アダストリアみとアリーナを沸かせて欲しいところだ。本人も、そこには大きな期待を寄せている。
「3ポイントやダンクでファンをどんどん魅了できたらと思いますし、そうした瞬間が特に楽しいです。アダストリアみとアリーナでプレーするのは本当に楽しいですし、観客の皆さんにエナジーを与えるようなプレーが好きなんです。ダンクの瞬間、ファンの皆さんはいつも喜んでくれますし、ショットクロックが迫っている中で3ポイントを決めるとボルテージが上がるのも楽しい瞬間です。そうしたプレーが飛び出すことに、ぜひ注目してほしいです。」
最後に、ファンへのメッセージを語ってもらった。
「今シーズンもファンの皆さんには様々な制限がされてしまうかもしれませんが、皆さんに楽しい時間を過ごしてもらえたらと思います。僕らも、そこでいいバスケットボールをお見せできるようにしていきたいと思います。」
インタビューの終わり際、「アリーナでお会いしましょう」と伝えると、「オレモ!」と日本語で返してくれたトラソリーニ。彼が今年も縦横無尽にコートを駆け、数々の名場面を作り出すことで、我々を沸かせてくれることだろう。