一貫性を保ち続けて~2021-22 開幕前特集 谷口大智〜

持ち前のコミュニケーション能力やリーダーシップを発揮して、チームに率先して溶け込もうとする、#55谷口大智。今シーズンの新加入選手ながらバイスキャプテンに就任したことからも、コーチ陣や周囲からの期待の高さがうかがえる。B1昇格の歓喜も、その後のチームの苦悩も知る彼だからこそ、今のロボッツが成すべきことも把握しているはず。限られた時間の中でできることとは?今の率直な思いを聞いた。

メリハリを付けて、チームに溶け込む

練習初日から、谷口の存在感は大きかった。練習の苦しい局面でチームメイトに発破をかけ、外国籍選手との会話も欠かさない。まずは、彼のコミュニケーション術から尋ねることにした。

「初めて会う選手もいて、後輩も多いという状況なので、プレーの中でどう動いてほしいか、どうすればやりやすくプレーできるか。素直に聞くことをかなり意識しています。」

7月に行われた加入時の記者会見では、「チームとして戦うこと」の重要性を説いた谷口。より細かな所まで聞くと、彼の経験則が見え隠れする。

「大事なのは日頃のコミュニケーションだと思います。そこは試合になって急にできることではないです。オフコートの段階から選手同士で話していくこと。それが試合に活かされるでしょうし、組織としても上手く回っていくカギだと思います。新加入選手だからとか、そういったことは関係なく、積極的に後輩にも、あるいは外国籍選手にも話しに行くようにしていますね。」

「スラムダンク奨学生」としてアメリカへ留学した経験を持つ谷口に限らず、今シーズンはコーチやスタッフを含め、英語での意思疎通に長けたメンバーが多く揃う。外国籍選手と日本人選手の間の壁は、無い方が当然チームとしても望ましい。今シーズンのロボッツのチーム事情も鑑みて、谷口はこう話す。

「英語ができる人が多いので、誰が通訳しても大丈夫という部分は大きいです。外国籍選手とのコミュニケーションを、どう日常から取っていくか。ここ次第で本音で話せるようにもなると思います。他のチームでの話ですけども、通訳さんを探さないとコミュニケーションが取れないような所もあります。ただ、ロボッツはそういう状態ではないです。わりかし、手応えは感じていますね。」

今シーズンのロボッツは、来日8シーズン目となる#11チェハーレス・タプスコットを筆頭に、来日5シーズン目の#15マーク・トラソリーニ、#21エリック・ジェイコブセンと、日本を熟知した選手たちが揃う。谷口にとっては、これも好材料だと感じているようだ。そうしたコミュニケーションの積み重ねが、チームビルディングの上でも大きな役に立つと、谷口は話す。

「それぞれが思っているチームへの貢献のしかたと、チームメイトから思われている部分が食い違ってしまうと、なかなか難しい。丁寧にすり合わせ、『僕はこうやりたい、でもチームはこうやってほしい、ならばこうしよう』という所まで行くには、たくさん会話をすることが大切ですし、経験を積んでいくしかないですよね。」

どのようにすればチームのために動けるか。模索することは大事だが、その見え方、見られ方が行き違ってしまっては、HCが掲げる「Unselfish(アンセルフィッシュ)」の実現は難しい。理解を深めるためにも、コミュニケーションをはかることが重要だ。

明かされる、バイスキャプテン秘話

加入初年度にして、バイスキャプテンに就任した谷口。秋田ノーザンハピネッツ時代には、当時のキャプテンだった俊野達彦(現・愛媛オレンジバイキングス所属)がシーズン中に移籍したことに伴ってキャプテンを経験。昨シーズンまで所属した広島ドラゴンフライズでもオフコートキャプテンを務めていた。リーダーシップは既にロボッツでも大いに発揮されている。就任に当たっては、共にバイスキャプテンとなった#2福澤晃平と共に、リチャード・グレスマンHCから呼び出され伝えられたのだという。

「『コート内外で、常にポジティブなことを意識して声かけをしているところがチームの支えになるのでは』とコーチ陣が考えていたみたいなんです。役に就いたからと言って、特別に何かをやるというわけではないですけども、シーズン中にアップダウンがある中で、落ちかけたときにポジティブなことをしっかり伝えられるようにしたいです。そうすれば、自信を持ってB1のコートでのびのびプレーできるはずです。アツ(#25平尾充庸)もバスケットに対してとても真面目な人なので、僕はポジティブさでフォローする。そう言う位置に付くべきなのかなと考えています。」

秋田、そして広島でB1昇格を経験した谷口。ただ、秋田時代の思い出が、今のロボッツに重なる部分もあるという。当時、圧倒的な勝率でB2東地区を制し、B1昇格を果たした秋田。しかし、プレーオフのファイナルで小林大祐やジェイコブセンを擁するライジングゼファー福岡に敗れたことでB2優勝を逃している。そこに絡めて、谷口はこんな言葉を残す。

「群馬(クレインサンダーズ)さんには負けたくないんです。ロボッツもB2の2位で、昇格は決まったけども、ファイナルで敗れたということで、少なからず意識してしまう部分はあると思うんです。一緒に作り上げたバスケットを、群馬さんよりも良い出来にして、パフォーマンスとして発揮したいです。」

チームとしてまとまる必要性をたびたび説く谷口。コーチ陣も重要視する、「一貫性」の部分についても持論を展開した。

「チームで物事を決めて、統一してやっていく中で、負けが込んでくると不満が溜まってくる部分もあるはずです。ただ、そこは自分たちが練習してきたことを信じ通して、コーチ陣が試行錯誤して考えたことに対して、僕らが一生懸命遂行する。そこを貫かなくてはいけません。戦う前の段階でその前提が崩れてしまうと、勝負にもなりません。」

一貫性という部分においては、谷口曰く、苦しむチームには特有の「症状」が出るという。それは、今シーズンのロボッツが大いに試されている部分でもあった。

「勝てないときに、何かを変えようとしてしまいます。チームに限らず、ファンの方や、あるいは会社としてのクラブもそうです。変えようとして、変えてしまったことが結果として裏目に出てしまう。経験をして、積み重ねていった結果もあるはずなんです。ある程度の経験をする覚悟を持って戦っていかなくてはいけません。」

西村大介社長兼ゼネラルマネジャーや堀義人オーナーとも会話を重ねる中で、クラブが考える将来への一貫性に関して、共感する部分が多くあるという谷口。まずは基盤をしっかりと固める。その上で、これから先の未来のために「BUILD UP」する。苦しい時期になるかもしれないが、それが未来のロボッツの糧に間違いなくなっていくはずだ。

応援してもらえるためのチームとは

インタビュー中、B1におけるチーム作りにも話が発展した。ロボッツは、軸となる戦力をキープして、プラスアルファの補強を行い、今シーズンに臨む。しかし、他を見渡してみれば、活発すぎるぐらいの補強によってロースターが様変わりしたクラブもいくつか存在する。今後の礎となるようなクラブ作りの面にも、谷口は言及した。

「何が正解、ということも無いのですが、勝つために補強をするチームは当然あります。ただ、ファンの皆さんの気持ちを汲み取って考えるならば、元々いた選手たちが残って、かつその選手たちが活躍して勝てること。みてくれる方々に根付いたチームが強豪と渡り合っていく様は、僕はかっこいいとも思いますし、それが応援してもらえる一つの要素なのではと思うんです。」

ファン、そして支える人があってのプロスポーツであること。これは忘れてはならないポイントだ。ホームゲームを開催する、水戸やつくば、日立や神栖だけではない。「茨城」という県名を冠するクラブとして、この根付きという部分は決してブレてはいけないはずだ。

今シーズンの注目ポイントを尋ねると、谷口はこんな場面を挙げた。

「今シーズンのロボッツは、ベンチに注目してほしいです。お客さんが声を出せない中、それでも会場に来た人たちが楽しめるのは『これだけ楽しいバスケットをやっているんだぞ』というのを、ベンチから感じてもらえるかも大きいと思うんです。チームを盛り上げて、全員で鼓舞し合ってというところをどうしても見せたいと思っています。」

良いプレーを喜び、苦しい場面を励ます。ファンが声を出せないからこそ、彼らの一挙手一投足は、より注目の的となる。2021-22シーズンのロボッツが、ベンチで、コートでどれだけファンを楽しませることができるのか。注目の戦いは、まもなく幕を開ける。

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