仕事人のチーム論~2021-22 開幕前特集 西川貴之〜

B1の世界を渡り歩き、今シーズンからロボッツへと加入した#7西川貴之。茨城にやってきてすぐに行われた記者会見やイベントでは、寡黙な仕事人…という第一印象を見せた彼だが、いざ今回のインタビューが始まると、彼が秘めていた「哲学」が続々と飛び出してくる。プレーやコート上で繰り広げられる出来事だけでなく、組織としてのロボッツにも成長を促そうとする、西川流の「チーム論」が透けて見えたのだった。

新たな挑戦は「楽しみが9割以上」

このオフの西川の動きは、忙しくなかった。自由交渉選手リストに載ったことで、新天地を求めて活動しなくてはならない。その一方で、2020-21シーズンの半ばに負傷し、手術に至った左肩のリハビリも同時並行で進めなくてはならなかった。そんな折、ロボッツの社長兼ゼネラルマネジャーである西村大介からオファーが届いた。

「肩の具合がどれくらい回復しているかということも話し合いながらという形でした。ロボッツ加入の決め手となったのは、チームとして、しっかりとサポートを受けながら開幕に向けた調整ができることでした。」

手術の担当医ともコミュニケーションを取りながら、戦線復帰に向けた練習を重ねる西川。術後半年が経過し、経過は順調と彼は話す。対人プレーの練習にも参加し、攻撃的なプレーで見せ場を作っている。ただ、コンディション作りの状況を問われると、慎重さとポジティブさが相半ばするような反応も見せる。

「試合から離れている上に、コロナ禍の関係で、なかなか練習試合やプレシーズンゲームもできていない状況になっています。それもあって正確な具合は分からない部分があります。ただ、練習の中で強度を高くプレーすることで試合勘も戻ってくるでしょうし、ケガをしたからパフォーマンスが落ちるだとか、そういう心配はしていないですね。」

ホームでのプレシーズンゲームは残念ながら中止となってしまったが、9月の下旬にはアウェーで越谷アルファーズとの対戦が予定されている。こうした数少ない機会を経て、来たる開幕に万全の準備をと臨んでいる。

「今は、シーズンに向けては楽しみという気持ちが9割、ひょっとしたら100%に近いレベルですね。またケガをしてしまうかもしれない、という不安や恐怖心は多少ありましたが、越谷さんとの対戦までには、拭えるんじゃないかとは思っています。個人的には、ケガをする前、もしくはそれ以上のパフォーマンスが出せるように、やっていければと感じています。」

実は西川には、加入直後の段階でも、一度インタビューを試みたのだが、この時は矢継ぎ早に様々なメニューの練習をこなし続ける「グレスマン流」の調整法にやや面食らったとも話していた。新加入組にとっては一種の「洗礼」とも言える出来事だったが、チーム始動から1ヶ月少々、練習メニューにも体は慣れてきたという。

「選手もスタッフも、人柄がいい方が多いと感じていますね。外国籍選手も含めて、みんな気さくに話せる人たちばかりなので、溶け込みやすさを感じましたね。」

インタビューの中で、にこやかな表情も増えてきた西川。どうやら彼の素顔はこちらのようだ。そう思わせるような話が、ここからどんどんと飛び出すことになる。

組織としてタフにあるべし

B1というステージ。ロボッツに関わる多くの人たちが、その姿をイメージしきれていない部分もあるだろう。勝ち抜くために必要なのは、戦術なのか、経験値なのか、それとも個々のスキルやメンタリティなのか。こればかりは経験者に聞くほか無い。西川に思い切って質問をぶつけると、彼の持論が展開された。

「B1に必要なものは、一つだけではないと思います。60試合、いろいろなチームと戦う中で、良いときや悪いときというのはもちろんあります。本当にタフなシーズンになることは間違いないと思います。その中で一つカギになるのは、チームで戦うことです。うまく行かないときでも、チームとしての方向性というのを見失わないで、しっかりと戦うというのを積み重ねていく。そうすれば、自ずと良いチームになれるはずですし、勝ち星も掴めるようになっていくと思うんです。」

悪いときに、個の能力による打開に走ってしまっては、チームとしての戦略が合っていたのか否かを判別することも難しくなる。苦しいときこそ、チームワークを見せつけられるか。言葉の表面的な意味だけでなく、「一丸」になる必要がある。

「チームとしてもろい部分が出てしまうと、勝てない、勝ちづらいというのが正直な印象です。一丸になって戦っても、勝てない試合が出てくることもあると思うのですが、そこで全員が改めて『勝つ』という目標に向かって取り組めるか。選手だけでなく、コーチやスタッフ、あるいは茨城ロボッツという会社組織まで一丸になって戦うというのが、一番重要な気がしています。そこで一つになれないと、表面にまで出なくても、ちぐはぐになってしまったり、チームに関わる人が違和感を抱えてしまったり、歯車が狂ったようなシーズンになってしまいかねません。それは一番良くないことだと思うので、関わる人たち全員が一枚岩になれるか、そこがポイントかなと思います。」

その上で、今シーズンの抱負を尋ねた。個人としては、オフェンスからの得点能力をしっかりと発揮すること、また自らが積極的に攻撃参加をすることで、他の選手の得点機会も演出することを目標とした。ロボッツがチームとして目指すべき姿について改めて問うと、こちらはそれ以上に明確な答えが返ってきた。

「東西を問わず、強豪チームが集まっているのがB1です。一試合一試合が、本当にレベルの高いゲームになると思います。楽しみながら、戦って、それぞれのゲームを充実させていく。そういった形にできたらと思います。たとえ負けても、そこから得られるものもあると思うんです。ただ試合をやって、勝った負けたというのではなく、結果に対して何が良くて、何が悪かったのか、内容にフォーカスしていかないと、シーズンのどこかで行き詰まってしまいます。内容のある試合というのをやっていきたいですね。」

周りを見渡し、声もかける

チームとしての時を過ごしていく中で、西川も徐々にチームメイトの人となりを把握し始めている。その中で感じ取っているのは、コミュニケーションの重要性だ。

「これまで所属してきたクラブでは、意見があったら話すということがある意味当たり前でした。各々が何を考えているかをしっかり共有しないと、いいチームにはならないと思います。時にはぶつかることもあるかもしれませんが、それはとてもいいことだと思います。分からないことがあれば聞く。プレーの中での要望があれば伝える。全員が物事を納得した上でプレーするのが一番だと思うんです。例えば若手のツル(#29鶴巻啓太)やコーへー(#13中村功平)であっても言うべきだと思いますし、彼らも遠慮する必要はないのかなと思います。」

若手もベテランも関係なく、考えをしっかり表明することで、考えのズレは収まっていく。ある意味能動的に解決できる力が、チームをさらに一段上へと押し上げるポイントになりそうだ。中村と鶴巻に対して、西川は一つ背中を押すような言葉も残した。

「2人とも、自分の主張をはっきり言うような性格ではないのかもしれませんが、2人とも良い選手だと思いますし、自信を持つこと、ミスを恐れないこと、自分の思うようなプレーをどんどんとやってほしいなと思います。」

ある種の洞察力も感じさせる発言。こうした人となりを掴む視野の広さは、彼としても若干の意識があるようだった。その上で、彼なりの想いがまたにじむ。

「自分は一旦、チームの全体を見渡して、どういうところで自分を活かせるのか、自分がどういうピースになればチームにフィットしていくのかというのを考えたりするんです。なんとなくではあるんですけど、観察じみたことはしていました。谷口選手なんかは話しかけやすいムードがあって、意見を出し合うときにクッション的な存在になっているんじゃないかと思います。とは言え、そういった役回りを1人でやるのはすごく大変なことです。バスケットのことに限らず、いろいろなことを話しかけてもらえるようなキャラクターになれたらいいですよね。」

チームが壁に当たるたびに、その都度思いの丈をぶつけ合って、難題を乗り越えてきた昨シーズン。メンバーが入れ替わってもなお、その風土は受け継がれているようだ。オンコート、オフコートを問わず、下支えするような選手がいれば、自ずとチームも好転していくことだろう。今シーズン、彼がチームを成長させるためにどう立ち回るか。そして、時にどのようなメッセージを発していくのか。ロボッツに関わる様々な人たちにとって、大事な方向性が示されるかもしれない。キャプテンシーと称されるものとはまた違ったリーダーシップを携えた彼に、ぜひ注目してほしい。

おすすめの記事