イス取りゲームを生き延びろ~2021-22 開幕前特集 中村功平〜

精度の高い3ポイントシュートと、抜群の身体能力を武器に、昨シーズン成長を見せた#13中村功平。一度は苦汁をなめた男が、B1の舞台へカムバックを果たす。だが、彼に待ち受けている道のりは平坦ではなく、今シーズンも激しいバックコート陣のサバイバルが待ち受けている。そこを勝ち抜くこと、さらにはチームに貢献するべく、彼が何を意識して今シーズンに挑んでいるのか。進化を模索する男に迫った。

2年ぶりのB1は「新たな挑戦」

中村は中央大学在学中の2018年、当時の滋賀レイクスターズへ特別指定選手として加入し、プロの世界に飛び込んだ。B1を2シーズンにわたって経験して以来、2シーズンぶりのB1となる。「リベンジ」か「新たなチャレンジ」かという、少々難しい質問からインタビューは幕開けとなった。

「どちらかと言えばチャレンジでしょうか。B1にはいましたけど、試合に出られない時期もあったので、まずは試合に多く出たいという気持ちもあります。」

コロナ禍の影響もあって満足なトレーニングができなかった昨シーズンのオフ。本人も「去年はひどすぎた」と冗談めかしながら前置きした上で、今シーズンに向けた順調な調整ぶりを明かす。

「今のところはウエイト的にも調整が上手くいっていますね。めちゃめちゃ体を動かした、というわけではないんですけども、ジム通いもしていました。状態的には80~90%ぐらいのコンディションなので、すぐシーズンに入れるぐらいのイメージです。」

中村が状態良く練習を積む中、チームではガード陣の競争が日々激化の一途を辿っている。まだ来日を果たせていない#22ハビエル・ゴメス・デ・リアニョが合流すると、ロボッツのロースターは13人。これに対してBリーグのベンチ入りメンバーの枠は「12」。誰か1人は常に試合出場が叶わない、苛烈なイス取りゲームとなっているのだ。中村は、まず何を武器として戦い、チーム内で立場を見出そうとしているのだろうか。

「まずは3ポイントシュートを積極的に狙うことは続けようと思っています。一方では、B1に上がったことでディフェンスではピック&ロールの対策を強めないといけません。そこでしっかりとコンタクトする、負けないディフェンスをする。それができないと試合にも出られないと思っています。3ポイント、スピード、ピック&ロールディフェンス、それはしっかりやらないといけないと思っています。」

昨シーズンのロボッツは、相手のピック&ロールに対して積極的に立ち向かうディフェンスを展開し、その出来が勝敗にも結びつくことが多くあった。今シーズンもその基本が変わることはない。中村は、ある新戦力の名前を挙げて、好感触を示していた。

「エリック(#21エリック・ジェイコブセン)が入ったことで、よりディフェンスがハードになったイメージがあります。彼も『動けるビッグマン』なので、昨シーズンよりも思い切りのいいディフェンスにつなげられるんじゃないかと思っています。」

見習わなくてはならないコミュニケーション

ガード陣の争いが激化する中、チーム内でも5対5の練習が繰り返されている。実際にチームメイトと相対して、中村はコミュニケーションの必要性を感じ取っていた。

「平尾さん(#25平尾充庸)や朝飛さん(#8多嶋朝飛)は特に、コート上で選手たちをまとめて話すというシーンを多く見ます。コミュニケーションというのはやっぱり重要視している部分かもしれません。B1では、もっとやっていかなければならないところじゃないでしょうか。コミュニケーションミスが命取りになる展開もありますし、逆に意思疎通がしっかりできていれば粘りの展開に持ち込むこともできます。はっきり言うことの重要性は感じますよね。」

コーチの求めるバスケット、一方では各選手が最善手と考えたプレーもなされる。時にはハドルを組み、時にはそっと伝え。そのプレーの意図や判断を、その場で舵取りしていくことは、チームとしての一貫性を保つために重要さを増すだろう。

ちなみに、コミュニケーションにまつわる部分は、昨シーズンも一時期選手から課題として挙げられた課題でもある。ディフェンスでのローテーションやスイッチ、あるいはヘルプの有無。一瞬の駆け引きがコミュニケーションミスによってバラついてしまえば、途端に窮地が訪れてしまうだろう。#0遥天翼はかつて、「誰かが思いやりを持って一言話せば、解決できるシーンはたくさんある」と言葉を残している。解決への道は一朝一夕に成し遂げられるわけではない。ただ、現時点でやり続けなければ、試合で急にできることでもない。ロボッツがより高みを目指すためにも、課題は一つ一つ潰していかなくてはならないことだ。

また、B1に戦いの場を移したことで、プレーの強度も上がっていくことは容易に考えられる。昨シーズンよりも個人のプレーの精度や強度も、上げなくてはと躍起だ。

「まずは試合に出ること、そして昨シーズンより3ポイントの確率を上げること。昨シーズンは外で待って、パスが来たらシュートというプレーが多くなったのですが、B1になれば相手のガードもより激しいディフェンスを敷いてきますので、自分でボールをコントロールする、オフェンスをクリエイトしていく。そういった部分の練習にも力を入れています。」

「シューター」という役割から脱却し、自ら決めの意識を持つ。こうした部分に関しては、チーム内にもいい見本がいると中村は話す。

「福さん(#2福澤晃平)もピックを使っていったり、フィニッシュを決めきる力があると思うんです。僕もそこは身に付けなくてはならない部分ですし、ピックからドライブしてコンタクトしながらフィニッシュする。その中でブロックに遭わないようなシュートも練習しています。福さんは真似していかなくてはならない存在ですね。シュートを決めきらなければピック&ロールの意味も無いですし、本当に決めの意識は持たなくては行けないと思います。」

昨シーズン、一時は互いに居残りでのシュート練習を行うなど、共に高め合っていく存在となった中村と福澤。若きシューターが新たな武器を手にすることができれば、ロボッツにとっても心強いというものだろう。

焦りの時期を乗り越えて

滋賀での2シーズン目に当たる、2019-20シーズン。なかなか出番も得られず、コート上でも持ち味を出し切れず。中村にとってはもがくような日々が続いた。ただ、それを経験したからこその面もあると、彼は続ける。

「B1でやることによって、間違いなく経験値がついてくるものがあるはずです。試合で焦ってしまうこともありましたけど、少しだけメンタルに余裕が持てるようにもなってきました。ロボッツという環境に慣れたこともあるんじゃないでしょうか。学生時代も学年が上がるにつれてパフォーマンスを上げていけましたし、1年間チームに慣らしての2年目というのは、アドバンテージになっていくと思います。」

プロとしての落ち着きを、徐々に得ていった中村。その過程で、選手としても役に立つであろう視野の広さも、着々と養われているようだ。一方で、ひたむきさを失ったわけではない。

「特にプロ1年目なんかは、自分が、自分がとなっていた部分もありましたけど、周りの選手の特徴が分かったり、『こうしてあげれば、他の選手が生きる』みたいなことも感じるようになってきました。メンタルも含めて、プロに適応してきたと言いますか、まだまだとは思いますけど、自分の役割をこなしながら周りを見られる。そんな部分を伸ばして行けたらと思っています。」

この男がガードとして一本立ちできるようになる日が来れば、ロボッツの未来も明るいと言えるだろう。これまでパッションのこもったプレーで観客を魅了してきた中村が、理知的なプレーで魅せていく。今シーズン、どこかでそんな場面に出くわすかもしれない。今シーズンの中村は、一味違うと言えそうだ。

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