アシスタントコーチ・福田将吾が語る前半戦

取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI

新型コロナウイルスの影響が急拡大した年末年始。ロボッツの選手からも陽性判定者が出たり、予定されていた試合が中止となったりするなど、改めて感染症の脅威を思い知らされることとなった。チームの活動が一時的に止まり、一足早いシーズンの折り返しを迎えることになったが、ここまでの戦いをロボッツの面々はどのように捉えているのだろうか。そこで今回は、B1クラブでの指導・指揮の経験を豊富に持ち、今シーズンからロボッツの一員となった、アシスタントコーチの福田将吾にインタビューを行った。彼から見た、今のロボッツの姿とは。

シーズン中はほぼ休みなく

まず驚かされたのは、シーズンにおける彼の多忙ぶりだ。「対戦相手のスカウティング(事前調査)については僕の役割」という福田。選手やスタッフ陣こそ、1週間の中ではオフの日も存在するが、彼はそこもチームのための時間に充てるのだという。

「スカウティングを経て、リッチ(リチャード・グレスマンHC)とミーティングをして、試合までの準備やゲームプランに関する打ち合わせをしています。対戦相手のフォーメーションについても『こう守ったら良いのでは』と、しっかりディスカッションをしています。だから、シーズン中はバスケットから離れている時間は少ないんです。オフの日にスカウティングをしなくてはなりませんし、特に水曜日に試合があるときは、(試合の翌日である)月曜日と木曜日をオフにしているんですけど、そこがミーティングの日になったりします。」

昨シーズンのロボッツにおいて、オールスター前までに水曜日に行われた試合は2試合。それが今シーズンはすでに4試合を戦っており、天皇杯の試合も組まれるなど、スケジュールは目まぐるしいといっても過言ではない。「そこはある意味慣れた」という福田だが、改めて彼無しのチームが想像しがたいことが分かるだろう。思わず、こちらも「ご自愛ください」と言ってしまうぐらいであった。

試合中においてもグレスマン、あるいは同じアシスタントコーチの岩下桂太と、こまめに言葉をかわすシーンも目立つ福田。何を話しているのかを尋ねた。

「常々コミュニケーションを取っているのですが、『こんなアジャストをしよう』とか、『この選手を出したら良いのでは』とか、常に話をして試合を進めています。コミュニケーションは一番大事にしていますし、ヘッドコーチとはオフを含めて毎日話をして、時にはオフでも実際に顔を合わせて、物事を進めて行きます。そこでのコミュニケーションが作戦のベースになっていますね。」

コミュニケーション重視の姿勢は、選手に対する指導にも現れているといってもいい。12月29日の川崎ブレイブサンダース戦を終えて記者会見に登壇した#13中村功平が、福田からの指導を着実に活かしている旨を明かした。「福田流コーチング」というと仰々しい気もするが、彼はどのように選手と接しているのだろうか。

「『こうしなさい』ではなくて、『こうした方が良いと思うんだけど、どうかな』というような。そんなアドバイスをしています。なるべく、一方通行にならないようにというか。選手の想いや考えも聞きながら、そこからベスト・ベターな方法を模索する。そこは気をつけていますね。中村選手に限らず、ロボッツの選手たちはコーチングに対しての遂行力が高い。『coachable』であり、『high character(=高潔・立派な性格)』の選手たちが揃っているので、伸びしろが多いんだなと感じています。」

BUILD UPの現在地は

前半戦を総括する中、「今のロボッツを100点満点で表すならば、60点ぐらいでしょうか」と言う福田。もちろん、これはここまでのチームの成長を加味した数字であり、「開幕節の頃は30点ほどでした」とも話す。「アップテンポでオフェンシブ」という、思い描くようなバスケットをなかなか実現できず、勝ち星からも遠ざかったわけだが、徐々に戦績も上向き、勝利という結果も示し始めている。その理由を福田はこう分析する。

「開幕の頃と比べて、チーム全体として良くなっています。B1における、特にディフェンスの強度に、しっかりアジャストしてきているというところは、非常にポジティブに捉えています。B1チームのディフェンスは、フィジカルの部分でかなり強く当たってきます。開幕で当たった秋田(ノーザンハピネッツ)さんなんかは、特にディフェンスを持ち味にしているチームなので、ほとんど自分たちがやりたいバスケットをやれなかったと思うんです。ただ、そこから試合を重ねるにつれて、柔軟に対応できるようになってきたと言いますか、こちらも上手く体を当ててボールを受けたり、どんな風に相手を崩していくのかというところでは、選手自身が合わせていけている面があると思います。」

一方で、課題も明白である。リバウンドを取るという部分がついて回り、チームとしての平均トータルリバウンドは34.5。リーグワースト4位という数字になっている。直前の試合で対戦したアルバルク東京と比べると、1試合平均で5本ほどの差がある。「良いときのロボッツはリバウンドの本数で相手を上回るかイーブンという状態に持って行けているし、そこからしっかり走ることもできている」と話す福田。「ここの改善が後半戦に向けてのカギになってくる」という認識を示している。それだけでなく、チームとして向上させるべき部分について、彼はこう付け加える。

「練習の段階から、ディフェンスの部分でしっかり強度を上げること。簡単にボールを持たせないことを意識させるように僕らも伝えていますし、一方で、チーム状態が良くなっている中でも、我々はもっと上を目指さなくてはいけない。継続して強化しなくてはいけないと感じています。ディフェンスとリバウンド。これがロボッツとしての100点のバスケットをするために足りない部分、あるいは継続して良くしなければならない部分かなと感じています。」

そんな福田は、Bリーグ初年度の仙台89ERSでの指揮を筆頭に、島根スサノオマジック、横浜ビー・コルセアーズ、新潟アルビレックスBBと、B1クラブを数々渡り歩いてきた。時には苦しいシーズンも経験する中で、福田は島根時代の経験を打ち明ける。

「島根で指導をしていた初年度に、慌ててしまった部分がありました。序盤戦こそ5割の星取りができたのですが、そこから連敗をした時に、すぐテコ入れをということで、外国籍選手を入れ替えてしまいました。当時は降格という条件もあったので『勝たなきゃ』となっていたわけですが。」

このシーズン、B1昇格初年度だった島根はなかなか戦力の固定化ができず、特に外国籍選手でシーズンを通して在籍したのはジョシュ・スコット(現・宇都宮ブレックス所属)のみという状態だった。序盤こそ4勝4敗とまずまずの滑り出しを見せながら、最終的に11勝49敗と苦しんだ島根は、同じく昇格組だった西宮ストークスと共に1シーズン限りでB2への降格を味わうことになる。だが、そこからが違ったと、福田は話す。

「結果的に次のシーズンで再昇格を果たすわけですが、降格したときに、大きくメンバーを変えませんでした。『良い部分を残しつつ、必要な選手を補強する』という形にしたことが、再昇格につながったと感じています。僕自身は再昇格のタイミングで横浜へ行くことにしましたが、島根さんはその後も『足りないところを埋める』ということを積み重ねて、昨シーズンのB1で28勝というところまで来ました。」

今季における安藤誓哉や金丸晃輔、ニック・ケイといった、各国を代表する選手の加入、あるいはポール・ヘナレヘッドコーチの就任がフィーチャーされがちだが、そこに至るまでには、着実なチームとしての積み重ねがあったことを見落としてはならない。「チームとしての我慢強さの表れでしょう」と言う福田は、ロボッツに対して、こう見解を示す。

「ロボッツと似ている面は感じますし、『一貫性を持ったBUILD UP』をしっかり果たしているチームだと思います。私がいたところであれば島根さん、リーグ全体を見渡せば秋田さんもそこにあたるはずです。一方でロボッツは『昇格初年度のチームとして最高の成績を残す』として、20勝という数値目標も立てたように、オーナーの堀(義人)さん、社長兼GMの西村(大介)さんも、現実的に達成可能な目標を設定されている。ここは逆に島根時代になかった部分なんです。現在、ロボッツは苦しい状況ではありますが、その中で選手やスタッフが崩れることなく、1試合1試合を我慢して成長するというところにフォーカスできている要因じゃないかと思いますし、なかなか他のチームでは見られない。そこは心強いと思っています。」

前半戦を振り返ると、強豪クラブと競り合いながらも、最後の最後で振り切られる展開も目立った。悔しい思いをしたファンも多かったはずだが、福田はそこに対して、こんな分析を立てる。

「金星を逃す、といったところもあったのですが、そういった試合では後半ほど、時間が進むほどに慌てていました。シーズンを追って、選手たちにも試合の締めくくり方に対して理解が深まっていますし、中村選手や谷口選手、髙橋選手、遥選手と、ベンチから登場するメンバーが場面場面で良い働きをして、流れをつないでくれている。そんな成長もあるので、スターターの選手たちがしっかり体力を残して終盤に向かえるので、彼らもガス欠しなくなった。そこが今のロボッツだと思います。」

前半戦MVPとMIPは

指導者としての彼が、印象に残っている選手は誰なのか。MVPとMIP、MIPに関しては「improved(=成長した)」「impressive(=印象的・感動的)」の双方から尋ねることにした。

「MVP…。強いて挙げるとすれば、福澤選手ですかね。序盤戦こそ、B1のディフェンスや高さに対して苦戦していたと思うんです。ただ、シーズンが進むにつれて、ベンチからでも、スターターに戻ってもコンスタントに得点ができるようになりました。そういった意味での貢献は大きいです。今、平尾選手というメインプレイヤーを欠いた中で、得点力の中心となってオフェンスを回してくれている。今のロボッツとしてはMVPではないでしょうか。」

開幕節の2試合こそB1の壁に直面した#2福澤晃平だが(GAME1:8得点、GAME2:無得点)、その後の彼の活躍はロボッツらしさの象徴とも言える。前半戦の平均得点は1試合平均11.7と、チームの日本人選手でトップを誇る。およそ1ヶ月にわたってキャプテン・#25平尾充庸の欠場が続いてはいるが、その間も福澤や#8多嶋朝飛といったガード陣が、しっかりとプレーを組み立てている。また戦術としてもピックアンドロールからのズレを作るというベースを変えていないことも大きいだろう。一方で、成長を遂げたMIPとしては、この男を選ぶ。

「鶴巻選手ですね。昨シーズンの彼を直接知っているわけではないのですが、今シーズンも相手の主力選手、時には外国籍選手も含めてシャットアウトしているというディフェンスの部分ですね。昨シーズンもできていたとは思うんですが、相手のキープレイヤーをしっかり抑えているというところでは、非常に伸びたと言いますか。B1の経験も無かった中で、これだけやれているというのは…」

ここまで話して、福田ははたと気付いたような表情を見せる。

「そう考えると…、MVPが鶴巻で、MIPが福澤だと思います。スイッチしちゃっても良いですか。話しながら思いましたね。福澤はB1にアジャストした選手ということになりますし、『varuable(=貴重・価値のある)』という点では鶴巻のインパクトが大きいですね。大阪(エヴェッサ)戦で、ディージェイ・ニュービル選手を抑えて勝ちましたし、(サンロッカーズ)渋谷戦でも彼のディフェンスは大きかったわけです。島根戦では、安藤選手やペリン・ビュフォード選手と、マークマンを変えながらも抑えています。」

一方、「impressive」なMIPは、すでに想像が付く方もいるかもしれないが、この2選手だ。

「谷口選手、そして遥選手。僕の中ではこの2人です。この2人がベンチから引っ張る力や、短いながらコートに立った場面で、谷口選手はシュートを決めますし、遥選手は上手くファウルを使ってでも相手を抑えていく。その1プレーというのは非常に大きいんです。それだけでなく、普段の練習においてもチームの雰囲気を良い方に作ってくれます。チームとしてなかなか勝ち星が伸びない中でも、崩れないでいられる、あるいは質の高い練習にできる。試合になれば声を出してチームを引っ張ってくれるし、これだけ苦しい状況でもこの2人が変わらず続けてくれる。チームのためを思って自己犠牲をしてくれるという中では、コーチをしてきた中でもこれほどまでの選手は見たことがありません。」

2人が醸し出す、活気とひたむきさ。チームの中で犠牲を払う選手がいるからこそ、コートに立つメンバーにも責任感が自ずと生まれてくる。また、彼らがしっかりとコート上で存在感を示すことで連帯感も生まれる。チームが決してバラバラにならず形作られていることを、指し示しているかの言葉だった。

迎える後半戦。注目のプレイヤーはいるのかを尋ねると、福田はこの男の奮起に期待をかける。

「ハビエル(ゴメス・デ・リアニョ)選手ですかね。練習にも身が入っていますし、ディフェンスのシステムや、ロボッツとしてのシステムにもだいぶ慣れてきました。そして何しろ若い。日本という環境にも慣れてきたので、これから波に乗ってほしいですね。あとは脇選手(#7脇真大)。彼が加入して以降は、水曜開催の準備やコロナによる活動停止もあって、なかなかチームとしての彼は見られていませんが、彼は大学2年生としては体が強くてディフェンスができる。知識もしっかり持っているので、プロの選手にも負けていない。非常に楽しみな存在ですね。」

最後に、ファンへのメッセージを述べてもらった。

「リッチコーチとも話をするのですが、島根戦のGAME2で勝つことができたのは、選手たちが課題に向き合って遂行したこともありますが、ファンの皆さんがGAME1で大敗した後にも関わらず、多くの方が足を運んで応援してくださったからこそ、選手たちがエナジーや自信を持ってプレーすることができました。コロナの状況もあるので会場に足を運びづらい方もいらっしゃるかとは思いますが、引き続き私たちを応援していただければと思います。また、我々も皆さんの期待に応えられるような試合を、1つでも多く見せられるように精進していきたいと思いますので、変わらずご支援・応援をよろしくお願いします。」

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