【#9 ヤンジェミン】「青き挑戦。“らしさ”取り戻し、攻撃でも輝く」

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取材・文:小沼 克年|text by Katsutoshi Onuma
写真:茨城ロボッツ、B.LEAGUE|photo by IBARAKI ROBOTS, B.LEAGUE

「リーグが意図的に操作したのかなって思いました(笑)」

開幕戦について尋ねると、笑いながら冗談を飛ばした。ロボッツの2025-26シーズンは敵地での2連戦から幕を開けた。相手は仙台89ERS。ヤンジェミンが昨シーズンまでの2年間を過ごした縁のあるチームだった。

「仙台は本当に家族のような温かいチームでした。でも、これからはロボッツが自分のファミリーだと思っているので、新しい家族のためにしっかり勝利を届けられるように頑張りたいです」

韓国出身の26歳は、Bリーグでの6シーズン目を新たな場所で迎えた。

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韓国の若武者、Bリーグへ

様々な巡り合わせが、ヤンを日本へ導いた。

2020年、韓国の若武者はアメリカにいた。NCAAのディビジョン1でプレーすることを志していたからだ。「フレッシュマン(1年生)からプレーできていて、ディビジョン1にトランスファー(編入)する予定でした」。しかし、当時の世の中はコロナウイルス感染症の流行により未曾有の危機に直面。「いろんなことがシャットダウンしてしまって、大学にも行けなくなってしまいました」とヤンは振り返る。

一方、Bリーグは2020-21シーズンから「アジア特別枠」を新設。この制度により各クラブは外国籍3名に加え、アジア特別枠選手か帰化選手のどちらか1名を登録できるようになった。当初は韓国、チャイニーズ・タイペイ、フィリピンといったアジア5ヶ国の国籍を保有する選手が対象で、今シーズンからは14ヶ国にまで拡大した独自の制度だ。

「ちょうどコロナのタイミングで、エージェントの方からBリーグという日本のリーグでアジア人を取るようになったという話を聞きました」。アメリカに残ることも考えたが、ヤンはBリーグ挑戦を決意した。当時21歳。Bリーグ初の韓国籍選手として、信州ブレイブウォリアーズに入団した。

オフェンスでも存在感を示す

信州に2シーズン所属したあとは、宇都宮ブレックスと仙台でプレー。ロボッツは日本で4クラブ目となる。201cm93kgのスモールフォワードは、来日以降、ディフェンスに重きを置くチームで確かな足跡を残してきた。そうした背景もあり、ヤンを語る上でフォーカスされがちなのは、ディフェンスやリバウンドといった献身的なプレーだ。

「チームのために最大限の活躍をするには、やっぱりディフェンスを頑張ることが一番でした。日本の皆さんは僕のことを守備の選手だと思っているかもしれないですし、実際にディフェンスで結果を残すことができたとも思っています」

その評価に間違いはない。だが、今季はロボッツのみならずBリーグのファンに強くアピールしたいことがある。

「オフェンスでも、もっと自分を出せる」

少し時計の針を戻すと、アンダーカテゴリーの代表で中心を担ってきたヤンは、スコアラータイプの選手だった。2016年に行われたU17のワールドカップでは、7試合で平均14.3得点を挙げて韓国の初のベスト8進出に貢献。「アメリカにいた時は、もっとアグレッシブに3Pシュートを打っていました」とも主張する。

ロボッツに合流してからの練習は、オフェンス力をアピールしようと空回りすることもあったという。しかし、クリス・ホルム ヘッドコーチからは「これからジェミンをしっかり活かすプレーを考えていくよ。だから焦らなくていい」と期待を込めた言葉をもらった。無理に積極性を出そうとしていたプレーに余裕が生まれ、高ぶっていた気持ちがスッと和らいだ。

ディフェンスもオフェンスも今まで以上にアグレッシブに、でも常に心は穏やかに。この姿勢を貫き、ヤンは今までのイメージを払拭しようとしている。

アジア特別枠の先駆者は、Bリーグとともに

日本での6シーズン目を迎えたヤンは、急成長を続けるBリーグの変化を肌で体感してきた一人だ。

「信州に来た頃はアジア特別枠ができたばかりで、僕とサーディ・ラベナ(元・三遠ネオフェニックス)くらいしかいませんでした。今はたくさんのアジア特別枠の選手がプレーしていますし、NBAやヨーロッパのチームからもBリーグに来る選手が増えて、どんどんレベルが上がっているなと。そういった環境で戦うことで自分自身のレベルも上げることができていますし、Bリーグでプレーできていることに対して本当に感謝しかないです」

来日当初はバスケットのことで頭がいっぱいだった。けれど、周りの選手やスタッフからの助言により、時にはバスケットを忘れるくらい気分転換することもパフォーマンスの向上につながることに気づいた。

「まだ若かった頃は、練習でうまくいかないことがあると次の日の休みの日まで引きずってしまうくらい考え込んでいました。でも今は友達とご飯を食べに行ったり、一人でドライブに行ったりしてリフレッシュする時間を作るようにしています。そういうメンタルコントロールができるようになったので、昔よりは少し大人になったのかなと思います」

Bリーグの成長曲線に沿って、ヤン自身も成長してきた。活躍の場を移した2025-26シーズンは「ベストなシーズンにしたい」と意気込む。無論、それは自分とチームの両方を指しており、ロボッツを高みへ押し上げることができれば、再び母国を背負って世界と戦うチャンスが巡ってくると信じているからだ。

献身性だけではない。青いユニフォームに袖を通したヤンジェミンは、一段と成長した姿でコートを勢いよく駆ける。

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この記事を書いた人

茨城生まれ茨城育ちのバスケライター。競技歴は小3から10年間。戦績は特に残せず。Bリーグが開幕した2016年よりバスケットの取材活動をスタートさせ、2020年からはフリーランスに転身。2024年に日本のバスケとBリーグを楽しむための必読書『バスケ語辞典』(共著)を上梓。

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