BUILD UPの下地を作る~2021-22 開幕前特集 リチャード・グレスマン×福田将吾×岩下桂太〜

シーズンへの準備を進めるのは、選手たちだけではない。彼らを束ね、支えるコーチたちにとっても同じ事である。昨シーズン、ロボッツを昇格に導いた、リチャード・グレスマンHC、もはやロボッツの「語り部」と読んでも差し支えない岩下桂太ACの首脳陣に、今季はB1での指揮・指導経験を豊富に持った福田将吾ACが加わり、B1初年度を戦う。彼らがそれぞれどんな思いを抱き、今シーズンに臨もうとしているのか。ROBOTS TIMESでは、3人に同時にインタビューを試み、胸の内を尋ねることにした。

基礎・基盤のための1年に

昨シーズン、ロボッツは「Unselfish」「Toughness」そして「Uptempo」という、極めてシンプルなスローガンの下で戦い続けた。結果は承知の通り、ロボッツが悲願としていたB1昇格が果たされるという、大きな実りとなって現れた。今シーズンから先の未来でB1に生き残るために、グレスマンは課題を明確にして、戦いへの準備を進めている。今シーズンを「基礎・基盤を作る1年」と話したグレスマンは、こう続ける。

「オフェンシブレーティング(攻撃ポゼッション100回当たりの平均得点)ではB2の2位になることができましたし、ターンオーバーも非常に少なくできました。すごく良いことだと思うので、オフェンシブな戦いを継続することが一つ大切になってきますし、アップテンポスタイルを続けていくことも大事になってきます。ただ、ディフェンシブレーティング(守備ポゼッション100回当たりの平均失点)ではリーグの5位でした。ディフェンスをより引き締めて、自分たちの軌道に乗せていきたいところです。」

福田も、オフェンス戦略に対しては同じ意見を持っていた。ディフェンスのプレッシャーが上がる事が予想される今シーズン、まずはその中で、アップテンポなオフェンスがどこまで遂行しきれるかというポイントを重要視している。また、それ以上にプレー面で必要なポイントも挙げている。

「またリバウンド、特にオフェンスリバウンドが取れるチームが強いという印象です。秋田(ノーザンハピネッツ)さん、宇都宮(ブレックス)さん、千葉(ジェッツ)さん…。そうしたチームに対して、どれだけ僕たちがディフェンスリバウンドを取っていけるかというところも、アップテンポなバスケットボールにつなげるための、大きな要素となるのではと考えています。」

グレスマンが課題に挙げたディフェンス、福田ACが課題としたリバウンド。昨シーズン、選手たちからも口酸っぱく挙がったポイントだ。一本のディフェンスをやりきって、素早いトランジションにつなげて、オフェンスの選択肢を増やしていく。この基本とも言える部分が底上げされないことには、戦いぶりも厳しくなると言うものだろう。

一方、前身クラブからロボッツを見つめ続け、念願とも言えるB1行きの切符を手にした岩下。昨シーズンを、「一貫性が保たれた結果」だと振り返る。

「シーズンの中で誰かが大きなケガをしたり、あるいは外国籍選手の入れ替えが起きてしまったり、コロナ禍という状況もあってそうしたことが得てして起こりうる中で、やはり一貫して選手全員がそれぞれの役割をきちんと理解して戦い抜くことができたからこそのシーズンだったと思います。今シーズンも一貫性という部分は、グレスマンHCが話す『基礎作り』においては非常に重要なポイントです。ブレてしまえば、基礎は築けないでしょう。」

#22ハビエルゴメス・デ・リアニョを除く外国籍選手3人が合流し、チームは対人プレーやチーム戦略を習熟する段階へと駒を進めた。ケガ人や離脱者も出ていないことから、グレスマンや岩下は「順調で計画通りに調整が進んでいる」と話す。その裏で、特に外国籍選手たちのコンディショニングには、まだまだ注意が必要だと率直な現況を語った。練習試合などもなかなかできないコロナ禍の情勢で、ロボッツのチームとしての現在地を測るのは、もう少し先のことと言えそうだ。

豊富なキャラクターの選手と共に

日本人選手と外国籍選手、合わせて8人の選手が契約継続となったロボッツ。今シーズンのスローガン「BUILD UP」を果たすための「下地作り」において、昨シーズンを戦い抜いた選手たちが多く残る意味は大きい。グレスマンも「継続を選んで戻ってきてくれた選手がいることで、戦術理解は早くなる」と、その手応えを感じている。一方で新加入の選手たちも、各々個性にあふれた選手たちであり、ロボッツにとって「かゆいところに手が届く」存在となってくれるはずだ。それぞれの選手たちがガッチリと噛み合えば、結果も自ずと付いてくるだろう。グレスマンは「特定の選手を注目しているわけではないし、あまりフェアではない」と話し、「全員に期待しているし、個人が個々の役割をしてくれることが必要だ」とした上で、新加入の一選手に着目していた。

「ジェイコブセン選手はキーになるでしょう。B2でベストな選手の一人だったと言えるはずです。ペリメーターで戦えるのはもちろん、B1で戦う上でペイントエリア内でインパクトを残せる選手だと思っています。」

昨シーズン、堅守を誇った仙台89ERSを引っ張ったジェイコブセン。外国籍選手の駒がなかなか揃わなかった仙台において、リバウンドに限らず、そこからの上がりの早さで攻撃の起点にもなっていった。外のシュートもある「ストレッチ5」的に動き回ることも可能な#15マーク・トラソリーニや#55谷口大智、ウイングプレイヤーとして確固たる存在感を見せた#11チェハーレス・タプスコットと、フロントコート陣のキャラクターの豊富さは武器になるだろう。

一方では、今シーズンもキャプテンを務めることになった、#25平尾充庸の働きにも期待をかける。注目の表れと受け取るには十分な答えが返ってきた。

「昨シーズン、B2でも特に優秀なポイントガードだったでしょう。また、キャプテンとしての働きもありましたし、シーズンを通した安定感も持っていました。今年もやってくれるだろうという思いはあります。」

岩下にも同様の質問をぶつけてみた。彼は今シーズンの注目選手として、伸び盛りとも言うべきこの男の名前を挙げる。

「鶴巻選手は楽しみですね。彼のサイズと、動きの良さ、そして自信を持って練習からプレーしています。コーチが思い描くバスケットもすごく理解していて、自分の役割がはまってきているのではと感じていますので、今シーズン、飛躍の年になってほしいなと思います。」

鶴巻のディフェンス面における成長は、ロボッツがB1昇格を果たすための大きなブーストになった。マッチアップする選手も一枚上手になるところだが、さらなる伸びを期待してみたいものだ。

一方で、岩下にとっては今シーズン、ある思い入れのある選手がロボッツに加わった。共に1988年生まれの「同期」、#8多嶋朝飛の加入だ。岩下は一つ、思い出話を交えながら話す。

「一緒に仕事がしたいとずっと思っていた選手でした。彼がどんな爆発力をチームにもたらすか、とても楽しみにしています。僕は筑波大学時代にビデオ係をしていたんですけども、対戦相手として当時東海大学にいた多嶋選手や遥選手をずっと映像に撮っていたんです。そんな人たちが来てくれるのはうれしいですよね、『あの頃、体育館のスタンドからずっと見てたんだよ』って話したら、2人も喜んでいました。」

指導者と選手。道は違えども、こうして混じり合う縁があるところも面白い。コートとベンチ、それぞれからチームを支えようとする「88年組」の活躍にも注目だ。

爆発力は何よりもの武器

今シーズン、クラブが示した勝利数目標は「20」。これまでのシーズンで、B1昇格を果たしたクラブのほとんど全てが、この20勝の壁に跳ね返されてきた。それを考えると、決して簡単でないことが伝わるだろう。戦力だけ、戦略だけでは決して勝ち続けられないところに、改めてB1を戦う難しさが存在する。では、今シーズンの戦いの肝は、どのようなところにあるのだろうか。コーチ陣は、それぞれこう捉えていた。まずはグレスマンの言葉だ。

「B1というトップでの戦いにリスペクトを持ちつつ、しっかりと競っていかなければなりません。B1で勝つこと、そこにしっかりと集中して取り組むことが必要になるでしょう。その一方で、自信を持ちながらプレーすることが非常に大事になってきます。これから起こりうるチャレンジをしっかりと理解した上で、自信を保ちながら戦っていくこと。この2つは重要になってくるでしょう。」

この「自信」という言葉に関連し、福田も持論を展開する。

「リッチコーチがおっしゃるように、個人だけでなくチームとして自信を持たせることが必要です。アシスタントコーチとしては、その部分でいかにサポートができるかが大事になるはずです。シーズン中、時にはうまくいかないことも出てくるはずですが、一貫性を持って、チームの基盤を作り上げていく。僕はその支えになれたらと考えています。」

岩下は、これまでクラブが進んできた道のりと照らし合わせて、こう述べる。クラブが苦しい状況の中でも、その一員であることを選び続け、足跡を見つめ続けてきた彼だからこそ話せる言葉かもしれない。

「とにかく、ブレない気持ちやあり方をチーム全体で持つ。勝っても浮かれず、負けても沈まず。そうしたメンタリティが浸透していけばと思います。個人として、チームとして、それぞれのゲームだけでなくシーズンを通して、それを身に付けられれば、逆境に対しても強く立ち向かえるでしょう。長くクラブを見てきて、これまでのロボッツが見せてきた、チームとしての変化量や成長の幅と言う点は、他のクラブの比ではないと感じていますし、Bリーグが始まった頃と今を比べただけでも、圧倒的なものがあると思います。ロボッツの爆発力のある成長は、とても楽しみですし、今シーズン、来シーズン、またその先に向けて勢いを維持できるような戦いができればいいと思います。」

逆境をバネにする覚悟は、それぞれが胸にしっかりと持っている。今シーズンを戦いきり、ロボッツがさらに上を目指す戦いに対して、1年間で作り上げた物を下地としていけるように。コーチたちの戦いも、まもなく始まる。

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