コートでも、ベンチでも、会見場やインタビューの場でも。#0遥天翼が惜しみなく注ぎ込む「熱」は、1シーズンの間にロボッツに不可欠なものとなった。本音をさらけ出し、ぶつけ合わせることでチームを前進させる。そんなカルチャーをロボッツに根付かせた彼が、今シーズンはオフコートキャプテンに就任し、さらなる推進力となることが期待される。熱き闘将はチームを俯瞰して見ながら、今季の戦いに必要なものを手探りながら感じ取り始めていた。今のロボッツに必要なメンタリティを含めて、彼の言葉で語ってもらうこととした。
新たなチャレンジがスタート
遥にとっては、ライジングゼファー福岡在籍時以来、3シーズンぶりのB1。「3シーズンぶりのカムバック」なのか、あるいは「ロボッツの遥天翼としての新たなチャレンジ」なのか。まずは素朴な疑問から問うことにした。
「どちらかと言えば『新たなチャレンジ』だと思います。古くから知っている選手もいますけど、外国籍選手も入れ替わりましたし、ルーキーの選手もいます。また、福岡や新潟(アルビレックスBB)にいた時代と比べれば、僕の役割も変わっています。なので挑戦と言った意味合いは強い気がしていますね。」
B1経験者として、今シーズンはどんな経験を落とし込んでいくか。彼は、「自分も含めて忘れていた感覚」としながらも、ボールマンプレッシャーやペリメーターでの動きなど、昨シーズンよりもさらにディフェンスの必要性を強調する。
「今シーズン、ずっとB1でプレーしていた朝飛(#8多嶋朝飛)が入ってきましたが、ディフェンスにおけるフィジカルの強さが、これまでのロボッツとは特に違うと感じます。フィジカルで押してくる、それに対してうろたえてしまう。この部分は、チームとして経験しなくてはダメだと思います。開幕を迎えれば、そういった部分にも慣れるはずですし、ロボッツもそういった戦い方になってくるはずです。ただ、現段階で自分たちでしか練習をできていない。そうした中では、B1を経験した人たちが刺激を与えるべきなのかなと思っています。」
ロボッツは昨シーズン、「B1仕様」とも言えるハードショーを基本としたディフェンススタイルを構築。一方では体格に勝る相手がボールを持てば、すかさずヘルプに入っていくことでピンチの芽を摘んでいった。ただ、このシステムについてもB1に向けてはアジャストが必要だと話す。
「ニッシー(#7西川貴之)とも話しますし、僕もそう思うんですけども、特にペリメーターでは自分のマークマンにある程度くっついていないと、逆サイドに向けてアクションを起こされたときに対応ができません。そうでないと、最初の一歩でズレを作られて、相手のスクリーンにかかってしまう。シューターのリズムや精度も段違いです。そこをどう対応するかは模索しているところですが、ひょっとしたら実際に試合で相対しないと変われない部分なのではとも思ってしまいます。」
例えシュートが外れたとしても、その後のリバウンド争いでは、これまでと比にならないほど屈強なセンターともぶつかり合わなくてはならない。チームとしての意識付けのために、練習での個人のリバウンド本数を記録したりするなど、細かなところから変革を始めている。なかなか対外試合ができない現状の中、遥はある新戦力の働きが、チームに好循環を生んでいるのではと話す。
「エリック(#21エリック・ジェイコブセン)が、とにかくゴール下の争いに勝つんです。マーク(#15マーク・トラソリーニ)やシェイ(#11チェハーレス・タプスコット)でも気を抜いた瞬間にポジショニングで負けてリバウンドを取られてしまう。エリックがいるからこそ、マークもシェイもリバウンドへの意識が高まると思うんです。僕らとしても『助けなきゃ』っていう意識付けが進むと思うので、いい影響になると思います。」
昨シーズン、ある意味絶対的な立場を築いていたトラソリーニやタプスコットですら、競争に巻き込まれていく。その意味はとてつもなく大きな物だ。競争なくしてチームは循環しない。開幕までの時間が差し迫った中、この強度を維持し続けてほしいところだ。
皆が発言できるように
遥にとってのもう一つの変化が、オフコートキャプテンへ任命されたことだ。厳しい言葉をチームにかけ続けた遥の就任は、ある意味適任とも言えよう。彼は「意識は変えていない」としながらも、チームのさらなる変化を求めていた。
「ビデオミーティングの時、僕がファウルをもらって倒れ込んだときに、誰も引き起こしてくれる人がいなかったという場面が流されました。それを引き合いに、『チームビルディングがまだまだ』という話になったんです。大介さん(西村大介社長兼ゼネラルマネジャー)からも『仲の良いチームを作りたいわけじゃない。時にはネガティブなことも言わなければ、チームの状態も上がっていかない』という話が出ました。」
「勇気のいることだが、嫌われるようなことも言う」ことは、とても大事だと話す遥。ただ、そのあり方については、まだまだ模索が続く。彼なりに、コミュニケーションへの苦労が覗く。
「最年長だからこそ、一方通行の意見になりかねません。言いたいという自分はいるのですが、年下の選手が『はい、はい』と返すだけになってしまうような気もしています。去年は逆に勝っている波にも乗れていたので、負けたときに喝を入れることはそこまで難しいことではありませんでしたし、いい刺激にもなりました。今シーズン、負けが込むと仮定して、毎回喝を入れていれば『またかよ』ってなりかねません。いろいろな人が、その時々に発言できるようにならないと、チームとしてもバラバラになってしまうというイメージはあります。」
ロボッツのの様々な面々が掲げる「土台作り」のためにも、今シーズンはさらにコミュニケーションを「やらなくてはならない」とも警鐘を鳴らす遥。これまでの雰囲気の良さも大事だが、「戦う集団」としてのレベルアップを果たすためにも、一つ殻を割る局面に来ているとも感じさせられた。
「ただ、やっぱり人ですから嫌われたくないんです。何かを言って嫌な顔をされてしまったら、その場限りかもしれませんが関係も悪くなるかもしれません。言い方も考えなくてはならないですし、自分も言うけど言われたら聞く。そんな関係性も築かなくてはと思いますね。」
難しい役どころを背負っているとも言えるが、それはこの一年における信頼を得たからこそでもある。遥の魂が、どこまでチームを揺さぶるか。そしてそれによってチームがどう生まれ変わっていくのか。ロボッツのチームとしてのバージョンアップは、彼に懸かっているのかもしれない。
戦える体を目指して
このオフ、遥は「肉体改造」に着手していた。体重も絞り、日に焼けた肌の印象も含めて様変わりした。#29鶴巻啓太が「今年の天さんはキレている」と、その印象を語ったほどである。その真意も尋ねることにした。
「根源にあるのは、キレを取り戻したいというのがありました。B1で戦う以上、もっとパフォーマンスを上げないとダメだと思っていましたし。特に昨シーズンはコロナの影響もあって3ヶ月もトレーニングができなかったこともあって、もう1回戦える体にしたいなと思っていました。」
本人曰く、「マスクをしていたとは言え、自重トレーニングだけでも息が上がりきっていた」という昨シーズン。食生活を見直し、トレーニング方法にも手を加え、細かな積み重ねでシーズンに向けた調整は続く。ただ「まだ足りない」という感覚もあるようで、調整度合いはまだ6割ほどなのだという。
「ゲームをやりきる体力がまだついてきていないんです。普段の練習ぐらいならば当然問題はないんですけども、練習で10分ゲームをするのがまだきつい。さらに、きつさ故にパフォーマンスが出てこない。あと一歩の踏み込めれば、というプレーも出ています。練習の後にランニングを入れたりして、なんとかコンディションを上げていこうとしていますね。」
思い起こせば、昨シーズンは外国籍選手の合流がかなり遅れたことから、遥は練習でビッグマン役を務めるなど、本来のスモールフォワードのポジションでの調整ができていなかった。それを考えれば、今シーズンは本職のスモールフォワードでの調整に打ち込めていて、「チーム全体を考えても今年はいい仕上げに向かっている」と話す。
「チーム内の競争の強度が高いこと。それはいいなと感じています。お互いにやり合って勝ち抜いていくという姿勢がありますから。」
来日を待つ#22ハビエルゴメス・デ・リアニョが合流すれば、それぞれのポジション争いだけでなく、ベンチ入りを巡るサバイバルも始まる。明確に「13人目」が決まっていないことも、競争においてはいい作用をもたらしていくだろう。誰が、どんな形でチームに力を与えるか。13人それぞれが、大きな役割を担う。チームの進化は、今後もその都度その都度果たされていくことだろう。
僕の全てを見てほしい
また、遥はチーム目標についても言及する。
「去年はB1昇格っていう明確な目標があったので、具体的な道筋も立てられました。その上で、20勝って言う目標が出たじゃないですか。あれはとてもいいと感じました。具体的に数字を出したことで、シーズン途中で自分たちの現在地が分かると思うんです。もちろん、それを超えられるのであれば、勝てる分だけ勝っていきたいのはあります。」
ただ、成し遂げるためにはまだまだ厳しい道のりが待つ。遥は、アシスタントコーチの岩下桂太との会話をもとに、こんな持論を述べた。
「桂太は『B2だったから、自分たちからクリエイトしていくようなバスケができた』って話をしていたんです。例えばB1だったらシェイですら止められちゃうかもしれない。ならどうするかと言えば、野球で言う『好球必打』の精神。いいシュートチャンスを見つけたら、打っていく。それが一つのカギになるかもしれません。」
「今シーズンも、みんなが3ポイントを打てる力がある」とも話す遥。シュートチャンスをチームで見つけ、逃さずゴールに沈める。その繰り返しで、より良い結果も付いてくる。チームにも徐々にその意識は伝播していくことだろう。
今回の特集では、「自分のここを見てほしい」というポイントを、各選手に尋ねている。プレーなのか、メンタリティーなのか、あるいは…。それを遥に尋ねると、なるほど彼らしい答えが返ってきた。
「全部です。僕の全てを見てほしいんです。これで行きましょう。」
声かけも、アクションも、もちろん一つ一つのプレーも…。全てが遥天翼の構成要素なのだ。彼が何をチームに注ぎ続けるか。ファンにとっても注目の戦いが近づいている。遥の熱いエナジーを、今年も楽しみにしてほしい。