「強く、面白く、楽しく」新GM・マーク貝島に迫る

2月10日、茨城ロボッツは来シーズン以降のチーム編成を担当するゼネラルマネージャー(GM)に、マーク貝島氏の就任を発表した。ロボッツのファン・ブースターのみならず、幅広いバスケットファンや関係者から反応を集め、ある種の驚きを持って迎えられた。
就任発表直後というタイミングで、ROBOTS TIMESはマークGMにインタビューを実施した。「マーク貝島とは」を少しでも解き明かすことをテーマに、様々な質問で本人を直撃した。その模様をお届けする。

ファンとしての愛が高じて

「マーク貝島」とは何者か。Bリーグや茨城ロボッツを中心に見ているバスケットファンからすると、少し馴染みの無い人かもしれない。まずは人となりから尋ねていくことにした。

「アメリカで過ごしていたことはありますが、別に両親を含めてアメリカにルーツがあるということではないんです。日本人としての本名はあるんですが、英語にすると発音が難しいんです。中国や台湾などの方が本名と別に英語呼びでのお名前を持っているのと同じように、それに似た形で『マーク』と名乗るようになりました。」

中学・高校時代をアメリカのユタで過ごし、バスケットをプレーすることで興味を深めていく。とは言ってもプレーは「趣味程度」だったそうだが、日本に帰国した後、彼の持つ「バスケ愛」が、徐々に形を成していくことになる。

「今でこそツイッターでバスケットの情報発信をしている人はかなりいますけど、2010年前後、ツイッターがまだ黎明期という頃から英語を話せることも活かしてNBAの情報発信をしていました。そこからポッドキャストでの活動にも繋がっていきまして。本当に『いちファン』からのスタートです(笑)」

SNSを駆使して、徐々に「NBA通」としての顔を持ち始めたマークは、いわゆるインフルエンサーとして活動の幅を広げ始める。そんな中で出会ったのがインターネット上のラジオとも言うべき「ポッドキャスト」の存在だった。

「ポッドキャストを始めたのは2014年のことです。アメリカではその当時からポッドキャストの文化が盛んだったんですけど、日本ではAMラジオでやってる深夜放送の番組がメジャーだったぐらい。バスケットのものなんて全く無かったんですよ。自分でいろいろ、立ち上げ方から勉強して喋り始めたのがきっかけです。」

そうして始まったのが「Mark Tonight」。このポッドキャストが人気を得たことを足がかりに、マークはバスケット界への関わりを本格的に深めていった。ここからの彼の経歴は「コーチとしてのマーク」、そして「エージェントとしてのマーク」のそれぞれを歩み始めることになる。

「ポッドキャストをやる中で、コーチの方やバスケットの業界関係者とたくさん話す機会が出て、番組に出演していただくようにもなりました。そこから知識を付けていく中で、多方面から『コーチをしてくれ』というお誘いをいただきました。それが、コーチとしての始まりです。」

2018年になると、マークは日本の大学バスケに携わるようになり、明星大学(関東大学バスケットボールリーグ2部所属)のコーチとしてスキル面の指導を行うようになる。積極的なドリブルアタックを武器に「ストリートボール大学」の異名を取る明星大を、2020年に創部初となるインカレの舞台へと導くなど、大学バスケ界で一目置かれる存在へと押し上げるのに一役買ったのだった。

「マークGM」への一押しは「勘」

そして、マークのもう一つの顔が、バスケットボール選手やコーチたちのエージェントである。このきっかけはそもそもどこにあったのだろうか。

「今は無くなってしまいましたが、2017年に『NATIONS』というスマートフォンアプリを作ることになって、インフルエンサーとして出演するほか、アプリの制作におけるディレクションをしてほしい、という話があったんです。そのアプリを運営していた会社がバスケットにいろいろと携わっていたので、当時教えていた選手たちの窓口にできないかと僕が提案をして、エージェント業がスタートしました。」

マークがコーチやエージェントとして関わった「ShoeHurry!」のメンバーには、辻直人(広島ドラゴンフライズ所属)のほか、実業団所属時代からプロ入りまでを後押しした寺園脩斗(レバンガ北海道所属)、さらにはロボッツファンにはなじみ深い眞庭城聖(山形ワイヴァンズ所属)などが名を連ねる。そうしてエージェント活動を続ける中で出会ったのが、茨城ロボッツの社長・西村大介だった。

「今シーズン(2021-22シーズン)が始まってから、西村さんと初めてお会いしたのですが、西村さんは会った当初から『GMを探している』と仰っていました。ただ、その時はまだ『探しているんだな』というぐらいの感覚でした。その後で『GMになりませんか』と、お話をいただいたんです。」

そのままの活動を続けていても、引く手数多であっただろうマーク。現場でチームの結果というダイレクトな成果が問われるGMとしての活動を、なぜ選んだのだろうか。

「なんだか、できる気がしたんです。『勘』と言いますか。実はそれだけなんです。ただ僕が今まで、できる気がしたことはすべて形になっている。逆にできる気がしなかったらGMにはなっていないと思うんです。オファーの中身で判断したというよりは、勘なんです。」

こうして、「GM・マーク」が誕生したのである。時に、選手にとってより良い条件での契約を取りまとめようとするエージェントと、限られた予算の中からチームを作り上げ、やりくりしようとするゼネラルマネージャー。一見すると相反する存在にも見えるが「実は似ている」とマークは話す。

「選手たちに初めて会ったときに話したんですけど、エージェントが何をするかと言えば、選手をサポートすることなんです。僕はそこの領域がすごく広いと思っていて、スキルを始めとしてバスケットのサポートをしています。あとはキャリアも含めてサポートをする。時にはチームの選択を含めて相談に乗っていくわけですが、そう考えるとGMとしての活動は、選手はもちろん、スタッフやコーチとも関係性を作ってバスケットとキャリアの両面でアドバイスをする。接し方そのものは似ているんじゃないかなと思っているんです。」

エージェント、あるいはGMとしてのマークは「表に立たないフィクサー」だと話すマーク。「裏からサポートをして、彼らがコート上でどう輝けるようにするか」に努めるのがポイントなのだそうだ。同時にチームを見始めた中で、ロボッツの形をこう捉えている。

「今までの積み重ねというものがあると思っていて、それが何かというところまでは、正直まだ掴みきっていません。ただ、感覚的な部分やカルチャーの部分は分かる部分もありますし、良い雰囲気、勝ちたいという雰囲気もあります。練習やロッカールームを見ていても、伝わってきますよね。」

観客の一人として、アダストリアみとアリーナを訪れたこともあるというマーク。当時は2019年のこけら落としの直後だったと言うが、B1の舞台となったアリーナを改めて訪れ、「良くなった」と率直な感想を話す。彼もアリーナのポテンシャルには感じる部分があるようだ。

「コロナの関連もあって、観客の皆さんを多くは入れられない状況ですが、『いっぱいになったらものすごい雰囲気になるんだろうな』とは思います。『バスケットのアリーナらしさ』も感じますしね。」

言ってしまえば演じ手でもあるマーク。ゆくゆくは、彼が施す仕掛けもアダストリアみとアリーナやロボッツファン・ブースターに向けて登場するのではないか。本人も「西村さんや堀さん(堀義人オーナー)からは、インフルエンサーとしての活動はむしろ続けてほしいと言われている」と話す。彼がチームに携わる中では、選手たちの新たな面が発掘されることも、注目ポイントになるかもしれない。

「強くて、面白くて、楽しいチームを」

既報の通り、マークが具体的にチーム編成に携わることになるのは、来シーズンに向けた動きからだ。まだ具体像までを話すわけにはいかなかったが、ぼんやりとではあるが像は見えてきた。

「今シーズン積み上げてきたものは、絶対無駄にしてはいけないと思っています。そこをどう継続するのか、あるいは新たに入ってくる人たちによって上積みできるかというのは、考えなくてはならないと思っています。選手、スタッフ、フロントの方々も含めて、チームとして作り上げていかないとならない部分でしょうね。」

インタビューの最後、マークはファンへのメッセージに添えて、キーワードを示してくれた。

「とにかく、強くて、面白くて、楽しいチーム。そしてワクワクするチームを作りたいと思っています。『強い=人気』ということもあるかもしれませんが、楽しくて面白いチーム、これを作って『絶対ロボッツを見に行きたい』と思わせるようなチーム作りをしていきたいと思います。その結果として、たくさんの方にアリーナへと足を運んでいただけたらと思いますので、よろしくお願いします。」

強さと楽しさの共存。思い返せば、これまでのロボッツを彩ってきた部分だろう。コート上では勝利に対して執着し、そこを一歩離れれば、エンターテイナーに徹する。彼が掲げた理想のチーム像は、ひょっとしたら「BUILD UP」の継続を意味しているのかもしれない。彼の手腕が存分に発揮されることを、楽しみにしたいものだ。

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