特別対談・岩下桂太×一色翔太「今、『ロボッツ』を話そう」③

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取材・文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:茨城ロボッツ、B.LEAGUE photo by IBARAKIROBOTS, B.LEAGUE

今季限りでロボッツのアシスタントコーチを退任する岩下桂太と、クラブOBである一色翔太による特別対談の第3回。前回は一色がロボッツを離れる2017-18シーズンまでを取り上げ、今回はアダストリアみとアリーナでの初試合を迎えた20018-19シーズンから、チームとして悲願だった2020-21シーズンのB1昇格の舞台裏、さらには岩下にとってのロボッツラストシーズンとなった2021-22シーズンを主に振り返る。この間、移籍による退団、引退、そして「解説者」として再びロボッツと巡り会った一色と共に、「外と中」の両視点からのロボッツを見ていく。

目次

大舞台の直前、再びの指揮官に

2018-19シーズン最大のトピックと言えば、アダストリアみとアリーナのオープン、そして2019年4月6日に行われた群馬クレインサンダーズとのこけら落としだった。徐々に機運を高めたいシーズンだったが、B2東地区での争いをなかなか抜け出せず、ワイルドカード争いでも徐々に苦境に立たされる。逆転でのワイルドカード獲得に向けて猛チャージをかけていた仙台に連敗を喫した2019年3月、チームはついに決断を下す。指揮を執っていた岡村憲司スーパーバイジングコーチを解任し、残るシーズンを岩下の指揮のもとで戦うことを決めたのである。

この時は当時のクラブ社長だった山谷拓志(現・静岡ブルーレヴズ≪JAPAN RUGBY LEAGUE ONE≫社長)、ゼネラルマネージャーだった上原和人(現・越谷アルファーズ副社長)も減給となるなど、クラブとして責任を取るという結果にもなった。

岩下「戦績が伸びない中でとなると、どうしても上に立つコーチが責任を取るということは付き物になることがありますし、あるいは高いパフォーマンスを要求される外国籍選手の入れ替えも起きてきます。任せてもらった、というよりは『クラブとしてこのシーズンの責任を取った』という結果だったんです。それがあのタイミングでした。アダストリアみとアリーナでの試合直前でそうなったことは残念ではありましたが、クラブとしてもやるべきことをやらなければいけないタイミングだったと思います。」

迎えた試合、ロボッツと群馬、両チームのブースターが客席を埋め尽くし、B2では未だ破られない5041人の観衆が試合を見つめた。

岩下「異次元。全く異次元の感覚でした。さらに当時はコロナ禍の前だったので、人がギュウギュウに座っているし、歓声も上がっている。しかも相手は群馬ということで、すごい世界だったのは覚えています。『ロボッツがとんでもないことになってきているな』と感じましたし、つくばがホームだった頃と比べたら『ここまで来たか』とも思いました。あの場に立てたことはうれしかったし誇りでしたね。」

序盤の劣勢を跳ね返したロボッツは、最終盤に眞庭城聖(現・山形ワイヴァンズ所属)のシュートで追いつき、オーバータイムへと突入する。逆転勝ちなるか、という展開だったがオーバータイムの5分間で一気に11点差を付けられて敗戦となった。この試合に出場した、群馬の外国籍選手たちにフォーカスを当てると後にロボッツの仲間となる選手が2人挙がる。20得点を記録して、インサイドで壁となり続けたが、後にB1昇格のキーマンとなるアブドゥーラ・クウソー(2021年引退)。そして45分間フル出場で24得点を挙げてロボッツの勝利を阻んだのが、来季ロボッツに加入するトーマス・ケネディだった。あの日に立ち塞がった2人がその後仲間になるというのは、今となっては奇妙な巡り合わせに感じられる。

岩下「あの試合、群馬の下馬評がとにかく高かったんです。群馬さんからは、青柳で地区優勝を決められた時もあった。」
一色「Bリーグの初年度、2016-17シーズンだね。目の前では優勝を決められたくない。あれは嫌でしたね。」

一方、このシーズンにB3リーグの東京海上日動ビッグブルーに移籍した一色。プロ選手としてではなく、保険営業を担当するサラリーマンとして働きながらのプレーだった。このため、ロボッツ退団後もサラリーマンとしてロボッツとのつながりは続いていたという。

一色「仕事の兼ね合いでロボッツの人と会う機会もあったので、チームの様子はちょくちょく気にかけていたんです。他のチームでプレーを続けているケースもあったり、ロボッツから距離を置いてしまったりする人もいる中、僕はなんだかんだでクラブと関わらせてもらっています。その中で、年々良くなっているとは感じていました。組織としてもチームとしても、強くなっていっているという印象はありました。ゆっくりだけど、階段を登っているようには見えていました。」
岩下「中にいても、毎年チームが良くなっているとは感じていました。僕はずっと編成の部分に携わっていたので、チームが選手を獲得する上での予算感覚も分かるわけです。そうした部分の規模も年々大きくなっていた、ということはチームが上手く回っている証拠だったと思います。」

ただ、目標としていたB1昇格が果たせないまま、翌2019-20シーズンもコロナ禍が直撃したことでシーズンが終盤戦を迎えようとするタイミングで途中終了してしまう。気付けばB2での5シーズン目を迎えようとしていた。

ベストなシーズン、そして…

B1昇格という悲願を成し遂げるべく、2020-21シーズンは様々な変革とともに幕を開けた。「日本初挑戦」となる外国籍選手を獲得せず、B1・レバンガ北海道で3季プレーしていたマーク・トラソリーニ、そしてbjリーグ時代から日本でのキャリアを重ねていたチェハーレス・タプスコットとクウソーという組み合わせでシーズンに入る。開幕後にはさらに帰化選手の小寺ハミルトンゲイリー(現・琉球ゴールデンキングス所属)を擁し、分厚い戦力を形成していった。

岩下「前のシーズン(2019-20シーズン)の反省もあって、日本経験の長いコーチと、日本を知り尽くした外国籍選手を3人獲得したわけです。」
一色「このシーズンを前に僕も選手を引退して、解説者として試合を見る機会もあったわけですが、分かりやすく点を取るバスケットをしていて、強かった。それが上手くいっていたと思うんです。選手を見ても、鶴巻(啓太)の台頭があったのと、何より平尾(充庸)が変わった。キャプテンとして、自分が引っ張るというのがありましたよね。」

このシーズンを前にロボッツが振るった大鉈が、キャプテンの交代だった。2017-18シーズン以降、3季にわたって務めた眞庭に替わり、平尾に就かせることを決断する。当時の舞台裏の記憶は、当然岩下にも残っていた。

岩下「最終的に平尾のキャプテン就任を決めたのは、リッチ(リチャード・グレスマンHC)なんです。スタッフを含めてとにかくヒアリングを続けて、眞庭か、平尾か、悩みに悩み抜いてのキャプテン選出でした。眞庭はBリーグ参入からの選手ですし、ずっと存在感を見せていて、キャプテンシーを前面に出すというよりは発言の重みがあるタイプ。ただ、彼ではなく平尾で行こうと決めた。本人もキャプテンをやろうと考えていたようですし、事実彼は変わりました。」
一色「あと、若手、中堅、そしてベテランと年齢層のバランスは良かったですよね。」
岩下「コーチも含めてその感じはありましたね。あのシーズン、日本人選手では眞庭以外が全員年下でしたし。そういう意味では、今年初めて、年上の選手がいなかった(2021-22シーズンの最年長は#0遥天翼と#8多嶋朝飛。岩下とは同学年)。」

この流れから、ロボッツが歩んだ9シーズンでベストシーズンはどこにあったか、という話題に移る。

岩下「ベストシーズンは2020-21じゃないかな。」
一色「けど、今年(2021-22シーズン)も良かったよね。」
岩下「確かに。でも、ベストは去年。今年は…言うなれば『スペシャル』なシーズン。一番良いとは言えないけど、特別でした。」
一色「かっこいいな…。」
岩下「序盤20試合で3勝しかできなかったわけですが、選手も入れ替えず、指揮官が交代するでもなくそのままシーズンを戦って、最終的には16勝まで行きました。大抵、誰かが入れ替わるようなことがあり得るわけで。」
一色「我慢が実った、って感じでしたよね。」

ここで「番外編」的な企画として、2人にある協力を願い出る。ロボッツの過去9シーズンにおけるベスト5の選手を2チーム分、1stチーム、2ndチームという形で選出してもらおうと、2人にボードを手渡し、書き込んでもらった。各々が思う選手が書き込まれていく中、選ばれたメンバーにも2人の個性が出た。

2021-22シーズンを戦ったメンバーが1stチームに据わる岩下。「シューターは福澤、3番(スモールフォワード)は鶴巻しかおらん」と、素早く書き込んでいった。一方の2ndチームにはつくば時代に厳しい時期を支えた中川和之、一色のほか、5季在籍の眞庭が名を連ね、インサイドプレイヤーにも「つくば色」が強く出た。「シックスマンに小寺さんが入ったら良いかもね」とも。

誰よりも早く、シューティングガードの枠に自らの名前を書き込んだ一色。一方で注目はスモールフォワード枠。鶴巻が選外となり、2015-16シーズンに在籍した湊谷安玲久司朱(2019年引退)の名前が載った。その真意を尋ねると「眞庭とのマッチアップ優先です。各々が全盛期の力でぶつかったら、面白い試合になるんじゃないかな。」と微笑む。

それぞれが選んだ「ロボッツ・オールタイムベスト5」。読者の皆さんもこれを機に挑戦してみてはどうだろうか。

未来はすごく楽しみ

対談も終盤、ロボッツの未来図に話が及んでいく。

岩下「来季のロボッツがすごく楽しみなんです。『早くロボッツの試合を見たい!』って思うんです。今度は応援する側だから。そう言えば、解説者として見ているとどうなの?」
一色「ラジオは難しいね。聞いている人は映像を見ていないし。実況アナウンサーの人もずっとしゃべっている。」
岩下「確かに。野球のラジオ中継とか聞いていると、とにかく細かいからね。緊張とかするんですか?」
一色「最初の方は、どんなことを話せば良いか分からなかったね…。とりあえず『ネガティブなことは言わない』って決めていた。ネガティブな言葉が多いと、聞いていて嫌になっちゃうからね。」

思えば、彼がコーチングしながら携わった9シーズンで、日本のバスケットボールの形も大きく変わっていった。JBL2、NBL、B2、そしてB1。プロクラブのコーチとして経験を積む中で、身の回りに起こるありとあらゆる進化を肌身で感じていたはずだ。実際に岩下も「Bリーグになってどこのチームにも外国籍選手がいるのが当たり前になったことが、変化を生んだのでは」と、私見を明かす。そうしたことも踏まえた上で、未来のロボッツに求めたい姿を2人に尋ねた。

岩下「認知度が高まっていく中で、『ロボッツって良いな』って思ってくれる人たちも増えてきたと思うんです。2026年に始まる新しいB1に残って、日本一に挑戦してほしいなと思いますね。茨城の人たちの誇りになって、茨城の人みんなが知っている、そんな存在になってほしいですね。成長をやめないクラブであってほしいと思います。」
一色「勝てるチームになるかどうか、というのは時の運が左右する部分もあると思うんです。ただ、茨城の中で象徴的なところになってほしいし、子どもから大人、おじいちゃんおばあちゃんまで、『ロボッツを知ってるよ』ってなってくれると良い。」
岩下「Bリーグが始まった頃は、そういった未来が想像できなかったんです。」
一色「バスケットの試合に2000人が来るってだけでも、すごいことって認識があったもんね。」
岩下「そう。それが今、コロナ禍の中でも琉球さんはシーズン平均で4000人以上の人が訪れたし、B1全体を見渡してもどのチームも平均1000人以上が入ったわけです。コロナが落ち着いた世の中で、エンタメとしてのポテンシャルもあるはずだと思います。」

出会いと別れがあるからこそ、こうして足跡をたどる機会が生まれた。来季、2022-23シーズンは、つくばロボッツがNBLに参戦を始めてから10シーズン目の節目を迎える。次の10年、あるいはさらなる将来の中でロボッツはどのような姿を見せてくれるだろうか。ここまでの9年、岩下桂太はロボッツとともに歩き続けてきた。これから、一人の指導者としてまた新たな歩みを踏み出す。いつかまたさらに力をつけてロボッツに戻ってきてくれることを願いながら、その歩みを笑顔で見送ることにしたい。

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この記事を書いた人

福島県内での報道記者、大手自動車メーカーのモータースポーツ部門ライターを務めた後、独立。
茨城ロボッツを中心にB2の試合現場に足を運び、ファン目線から取材を重ねる。Twitter @MasaruARA

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