#29 鶴巻啓太 茨城でバスケをするということ

写真:茨城ロボッツ、B.LEAGUE photo by IBARAKIROBOTS,B.LEAGUE

現在、B1所属チームに茨城県出身選手は、2人。一番多い神奈川県だと22人と比べると決して多い人数ではない。そんな稀有な存在の一人である#29 鶴巻啓太は地元チームの一員として今季5シーズン目を迎える。小中の県内での活躍、さらなる成長を遂げるために地元から巣立った高校時代。茨城のバスケットボールプレーヤーに夢を与える彼のこれまでを振り返る。

失敗を糧にして力を磨く

小さい頃、教師の父親に連れて行かれ、体育館へ。その時からボールに触れていた鶴巻がバスケットボールを好きになるのに、時間はかからなかった。ミニバス時代は全国大会に出場し、中学でももちろんバスケ部に入部しようとしていた。

「元々入学予定の学区内の中学校には、男子バスケ部がありませんでした。なので、バスケ部があった藤代南中に進学しました」

そんな理由で進学した中学だったが、入学当時から県ベスト4に入る強豪校。鶴巻もその中で徐々に力をつけていく。

「今と変わらず3番ポジションでドライブを中心に得点するプレースタイルでした。オフェンスが好きだったので今とプレーは真逆かもしれません。アウトサイドシュートもなかったのでとにかくドライブで抜き去ってました」

順調にプレーヤーとして成長していった鶴巻だったが、中学2年時の終わり頃、思わぬ出来事が起こる。

「ジュニアオールスターに落選しました。当時、自信はあったのですが選出されず、かなり悔しかったです。ただ、今考えればジュニアオールスターが全てじゃない。現にこうしてプロバスケットボール選手になることもできています」

ジュニアオールスターの落選後も、3年時の県総体を優勝し、関東大会もベスト8まで進んだ。辛い経験があったからこそ、さらに大きくなったのかもしれない。

「今の中学生を見ていると技術的に上手い子がかなり多い印象があります。当時、そういった練習法がそこまでなかったから、中学の時に学んでみたかったし、細かい部分を教わってみたかったです」

向上心もあり、県内では十分に結果を残した。そうして中学バスケを終えた鶴巻はさらなる成長のため茨城を飛び出した。

さらなる成長を求め県外へ

「どうしても県外に挑戦したい」

そんな気持ちを携えての高校進学だった。電車で毎日1時間半かけて通いさらなる成長を求め、千葉県の幕張総合高校で日々練習に励む。

「このときも自分のプレーはオフェンス中心でしたが、高校としてはディフェンスチームでした。毎日、フットワーク・シチュエーションに沿ったディフェンス練習を行い、正直かなりきつかったです。でも、今思えばこの頃にディフェンスの基礎は磨かれたと思います」

当時の千葉県は市立船橋高校をはじめ、市立柏高校・柏日体高校と強豪がひしめいていた。

1、2年のときは苦戦することも多く、鶴巻が全国デビューを果たしたのは高校3年時のインターハイ。千葉県で開催されたこの年の開催地枠での出場だった。

「初の全国で緊張するかと思いましたが、待ちに待った千葉開催。不思議といつも通りの力を出せていたと思います」

2回戦では当時の優勝候補・前年度準優勝校の藤枝明誠と対戦。鶴巻は相手エースの角野亮伍(現・シーホース三河)にマッチアップした。

「ミドルシュートをとにかく落とさず、ジャブステップで揺さぶってくる。圧倒的な個人技で点数を取られてしまいました」

鶴巻の初・全国大会はここで幕を閉じるが、前年度準優勝校に8点差の惜敗と健闘を見せた。

続く、ウインターカップ千葉県予選決勝では、市立船橋高校に敗戦し、鶴巻は高校バスケを終える。

「二度と戻りたくないほどきつかった…(笑)。でも、あのきつい練習を乗り越えてメンタル面も成長し、今があります。今につながることをたくさん教えてもらいました」

茨城県のバスケットボールプレーヤーへ

高校卒業後は中央大学へ進学。在学中は関東大学1部と2部を経験し、4年時には、関東大学選手権大会で準優勝を達成。鶴巻自身も優秀選手賞を受賞し、世代でも有数のプレーヤーとして輝き始める。

そして、大学4年時、当時B2に所属していた茨城ロボッツに特別指定選手として加入。地元プレーヤーとして誰もが期待を寄せた。

「地元出身選手ということで注目されているのは少し恥ずかしさもあります(笑)。でも、地元でプレーできることは本当に嬉しいです。そもそも、今こうやってB1のチームが茨城県にあることは自分の中学時代は考えられませんでした」

2019年3月4日 vs.アースフレンズ東京Z #29 鶴巻啓太初出場

当時はまだ”ロボッツ”というチームはなく、トップリーグの試合を茨城県で見ることは少なかった。紆余曲折あり、現在は国内トップリーグの試合を茨城県で年間30試合見せることができている。

「今の”プロバスケットボール選手”を夢見る中学生は目指す目標がどんどん近くなってきていると思います。その中で目標にされる選手になれるようにロボッツでプレーできていることは嬉しいです」

地元出身となると少し特別な存在にもなり、期待値も増す。プレッシャーがかかることも多いだろう。しかし、彼の戦う姿を見た茨城県の小中高生が鶴巻を目標にし、プロバスケットボール選手になり、茨城ロボッツの入ってくることもこの先大いに可能性はあるだろう。

From TORIDE CITY。鶴巻啓太は茨城ロボッツから次の世代へ夢を見せ続ける。

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