#11チェハーレス・タプスコット あなたは一人ではない

取材:文:佐藤 拓也 text by Takuya SATO

写真:茨城ロボッツ photo by IBARAKIROBOTS

がん患者に対して「同じ状況の患者や家族をサポートしたい」、「一人ではないと伝えたい」という#11 チェハーレス・タプスコット選手の強い思いから誕生したゴールドリボン活動支援。そのキャンペーンの一環として、4月12日の群馬クレインサンダーズ戦は小児がん啓発を目的とした「ゴールドリボンゲーム」がBリーグで初開催された。

試合会場に設置されたゴールドリボンブースではヘアドネーションの活用方法の説明や募金活動が実施され、そして、その小児がん患児・そのご家族の皆さまを試合に招待し、試合を観戦するとともにタプスコット選手との交流が行われた。

最愛の父親のがん罹患がきっかけ

「私の父親は1人で私を含めた3兄妹を育ててくれました。どんな時も我々をサポートしてくれて、いつでもそばにいてくれました。小さい頃、あまり治安のよくない環境で私たちは育ったのですが、父親が私たちのためにより安全でいい環境で過ごせるように引っ越しをしてくれました。だからこそ、危険な目に遭うことなく、我々は育つことができたのです。どんなに苦しい時でも笑顔を絶やさなかった。『いい父親』とはどういうものなのかを示してくれた人。私にとって、ヒーローであり、ベストフレンドです」

タプスコットにとって最愛の父親ががんを罹患したこと(現在は寛解)が支援活動を行うきっかけとなった。

「家族や友人など自分にとって大切な人ががんを患うつらさを私は分かります。だからこそ、そういう方々をサポートしたいという思いからはじめました」

最初に活動を行ったのは愛媛オレンジバイキングス在籍時の2019年。「Together Assist for Fight(闘うためのアシストをともに)」というキャンペーンを実施して、がん治療研究を「アシスト」したいとの思いから、ホームゲームにおいて、チームアシスト数×1,000円をタプスコット選手が主要ながん研究施設へ寄付するという取り組みが行われた。

子どもたちの前で12アシストの大活躍を披露

茨城ロボッツに移籍しても、その思いは変わらず2022年12月にタプスコットが主導となり、「M-HOPE Player's Action with シェイ」を始動。小児がんの子どもたちが安心して、笑顔で生活できるよう、治療から就学、就業までを支援する「認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワーク」との連携のもと、第一弾としてゴールドリボン活動支援を企画。12月3日~4月30日までのホームゲームを対象に、タプスコット選手のアシスト数×1000円を指定の団体へ寄付する活動をスタート。そして、新たな取り組みとして群馬戦において「ゴールドリボンゲーム」が開催されることとなった。

これらの取り組みについて、タプスコット選手は

「自分がサポートすることができていてうれしい思いがあります」と手ごたえを口にしながらも、

「がんを患っている人たちは毎日病気と闘っているのです。そう考えるとつらい気持ちにもなります」

と決してポジティブな感情だけが湧いてきているわけではない本音を明かす。

「だからこそ、すべてはがんと闘っている人のために、その人たちがこの活動によって少しでも喜んでもらえるようになりたいと思って続けています」と自らに言い聞かせるように口にした。

そして、今回試合を見に来てくれる小児がん患児・そのご家族の皆さまに、

「Stay strong(強くいてください)」

「You are not alone(あなたは決して一人ではありません)」

というメッセージを届けるためにコートに立ち、両チーム最多の12アシストを記録する活躍を披露した。

小児がんとは

「本当にありがたく思っています」

感謝の言葉を口にしたのは認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワークの松井秀文理事長。

「小児がんは国内での年間発症者が約2500人と少なく、いわゆる“希少がん”なんです。社会的にあまり注目されない病気ではあるのですが、病気と闘って頑張っている子どもたちはいるんです。そこにタプスコット選手が注目してくれたことを我々はとてもうれしく思っています」

小児がんとは、一般的に15歳未満の小児に発生するがんの総称で、患者は成長期に厳しい治療を行わなければならないため、入院期間が長くなるケースも多く、学業や日常生活に支障をきたすこともある。

それゆえ、「病院にいる期間が長く、外の人と交流する機会が少ないし、いろんな偏見を持たれる場合もある」と松井理事長と話す。

だからこそ、「今回のように病院の外に出て、いろんな人と接して、『自分は一人ではない』ということを子どもたちが理解してくれたことに大きな意義があると感じています。子どもたちだけでなく、親御さんもつらい思いをされています。応援してくれる人の存在がいることによって、『頑張って病気を治そう』というモチベーションにつながると思っています」と松井理事長は感慨深い思いを話した。

そして、こう続ける。

「スポーツの力はすごいですね」

社会が変わっていくきっかけに

タプスコット選手の思いを体現する企画となり、さらに子どもたちや家族に勇気を与えることはもちろんのこと、取り組みを機に、社会が変わっていくことも目的として行われたこの企画。

タプスコット選手は「決して病気と闘っている大人の方を忘れているわけではありません。自分としても一回ですべてができるわけではないので、一つずつやっていこうと思っています」と前置きをした上で、

「我々大人は子どもたちが健康でいることをサポートしてあげることが役割だと思っています。今回、子どもたちのサポートをすることによって、子どもたちがそういう活動の存在があることを知り、将来、大人になった時に困っている子どもたちがいたら助けてあげるということに気づけるようになってもらいたい。そういうサイクルが生まれることが大切だと思っています」

と思いをつなげていくことの重要性を説く。

そして、松井理事長も、

「まだまだ小児がんを患う子どもたちが生きやすい社会だと言うことは出来ません。決して、子どもたちを特別視してほしいわけではなく、普通に受け入れてもらえる社会になってもらいたいんです」

「あなたは決して一人ではありません」と願いを口にする。

大切なのは、1人でも多くの人がこのメッセージを発せられる社会になっていくこと。そのために我々に何ができるのか。そう考えることが、大きな一歩となっていく。

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