取材:文:荒 大 text by Masaru Ara
撮影:B.LEAGUE
B1昇格という長年の夢を達成すべく、奮闘のシーズンを送る茨城ロボッツ。序盤20試合あまりを終えた段階で、B2東地区の2位と、上々の滑り出しをみせている。そんなチームに、新たな切り札が加わった。#4小寺ハミルトンゲイリーだ。日本でのキャリアを豊富に積んできたビッグマンは、この秋に日本国籍を取得し、その後ロボッツの一員となった。彼は、ロボッツというチームに何をもたらそうとしているのか。シーズン中の補強に踏み切った背景を含めて、小寺本人、そしてチームの強化を司る、ゼネラルマネジャーの上原和人に質問をぶつけてみた。
チームにフィットしていると実感している
まずは小寺に、ロボッツの印象やチームの雰囲気を聞いてみた。彼の言葉からは、ロボッツというチームを冷静に分析し、そして自分の力が必要なことを、しっかりと見定めていることが伝わってきた。
―茨城ロボッツの印象を教えてください
「相手として対戦しているときは、ロボッツのファンやブースターが醸し出す雰囲気がすばらしく、非常に戦いづらかったのを覚えていますし、そうしたチームの一員として戦えることには大きな喜びを感じています。」
―開幕節は群馬でプレー。その後どのようにトレーニングを積まれましたか?
「滋賀県にある自宅に戻って、トレーナーさんと体を動かしていました。ボールを使ったトレーニングというよりは、ウエイトやランニングを中心にしていましたね。朝は6時くらいに起きて、琵琶湖の周りを走ることで、メンタル面もリフレッシュしながらという日々でした。その期間、いくつかのチームからオファーはいただいていましたが、帰化申請の途中だったことから、まずは日本に帰化することに全力を尽くし、そこからロボッツのオファーを受けて加入を決意しました。」
―自身の特徴をどうとらえ、どのようにチームに貢献していきたいですか?
「チームに加入して、僕という存在が改めてチームにフィットしているなと感じます。ロボッツは強さもあり、層の厚いチームだと感じていますが、ビッグマンに対するディフェンスなどを考えると、そこが弱点とも感じていました。自分がチームに加入することで、相手をおさえることができるでしょうし、他の外国籍選手を休ませるなど、チームに対する貢献ができるのではと考えています。個人的には、群馬(クレインサンダーズ)や佐賀(バルーナーズ)といった、かつて自分が所属していたチームを倒すことで、自分の力を示したいなとも考えています。」
一方、チームとして加入に至った経緯としてはどのような舞台裏が存在していたのだろうか。ゼネラルマネジャーを務める上原は、次のように語る。
―シーズン中の補強を、どのタイミングで決意しましたか?
「シーズン中であっても、外国籍選手や帰化選手に限らず、高校生や大学生にも目をこらして、この選手がチームにいてくれたらどんな影響をもたらしてくれるか、さまざまな想定を立てて選手たちを見ています。今シーズン、試合を重ねていく中で、外国籍選手の負担や、他チームとのマッチアップをみていくと、体格のあるセンターがほしいという思いはありました。ただ、外国籍選手とすでに3人契約しているという状況で、かつチームが好調であることを考えると、外国籍選手の誰かと入れ替えるという選択はできませんでした。シーズン全体の状況を考える中で、帰化を果たした小寺選手と縁あって交渉することができ、獲得に至りました。」
―上原GMから見えていた、小寺選手の印象はいかがでしたか?
「リバウンドへの嗅覚や、パスセンスが印象的でした。タプスコット選手やトラソリーニ選手はアウトサイドもできる選手ですので、小寺選手が相手を引きつけて、彼らにパスを出せるとなれば、得点力も上がるのではないかと考えていました。また、小寺選手がバンビシャス奈良に在籍時の対戦では、彼のパスからやられた試合もありましたので、アップテンポなバスケット、シューター陣の活躍というのを考えたとき、フィットするなというのは感じていました。日本での経験も長いので、日本人選手にどんな特徴があるかも知り尽くしている選手ですし、『selfishじゃないのに、存在感がある』選手だと思っていました。」
―「unselfish」にも当てはまる選手でしょうか?
「そうですね。チームが始動してから数ヶ月経ちますが、今のチームにぴったりな選手だと思います。アシストにリバウンド、相手にフィジカル負けしないタフさ。彼の能力だけでなく、彼がコートに立つことで、今まで負担がかかっていた3選手の負担が減らせます。負担が減ればケガやパフォーマンスの波といったリスクも減ります。先々も見据えれば、いい効果が見込めると思います。」
加入後すぐに試合に登場。手応えは
ロボッツへの加入が発表されてからわずか4日、小寺はアウェーで行われた青森ワッツ戦に出場した。リバウンドを果敢に奪い、一方ではアシストも記録。端から見れば十分すぎる働きをしたのではと思われたが、本人はどのように感じていたのだろうか。
―青森戦ではさっそく初出場。プレーの感触を振り返ってください
「加入して最初のゲームということもあり、いろいろな感触を得られました。プレータイムこそ長いものではありませんでしたが、学ぶ部分も多かったですし、チームの雰囲気を掴むこともできました。練習はたくさん積んできましたが、試合の経験に勝るものはないなと感じています。得られたものをポジティブに捉えて、戦略などを学んでいきたいなと感じています。」
―円陣の中で声をかけるシーンもあった。何を話していました?
「シーズンの中で簡単なゲームはないということ、そして調子がいいときもあれば悪いときもあるので、調子が悪いときにどれだけポジティブにいられるかが大事だと伝えていました。チームメイトが落ち込んでいれば、顔を上げて、集中しようということを伝えていましたし、内容というよりは、タイミングを見て、声をかけることを重要視していました。」
小寺の働きには、上原も大きな手応えを感じていた。
―青森戦のGAME1。働きぶりとしては上々だったのでは
「ゲームの入りから、相手の外国籍選手が結構押し込んできて得点を取りに来ていました。小寺選手が入ったところで、相手の疲れもあったんでしょうけど、力は負けていないなと感じられたので、プレータイムこそ長くなかったですが、かなり手応えのあるものでした。」
プレーだけではないアクセント。チームに競争も生む
小寺が加入したことで、ロボッツの選手は13人となった。ベンチ入りの12人やコートに立つ5人を選ぶことに当たっては、選手間でも生き残りを懸けた戦いが始まることになる。上原は、「いい面も悪い面もある」としながら、次のように語る。
―選手が増えることで、競争の火種になるのでは?
「例えば、プレータイムが減ることでコンディションが崩れてしまう選手もいるでしょうし、一方ではプレータイムを勝ち取るために練習から競争意識の激しさも出てくるでしょう。小寺選手が入ることで、例えば今までファウルトラブルなどのときに4番(パワーフォワード)を務めていた遥選手、あるいは眞庭選手あたりが、本職の3番(スモールフォワード)でのプレータイムを勝ち取る努力はしないとならないでしょうね。練習の質は確実に上がると思います。これまでの状況であれば、5対5の練習をしようというときに外国籍選手が1人対2人という、試合ではまずないシチュエーションでの練習となっていました。小寺選手がいることで、ビッグマン同士の練習も可能になります。それぞれの選手が自分のポジションで練習できているという意味では、いい影響はすでに起きていると思います。」
―今シーズン多用している「3ガード」を含めて、ローテーションにも影響があるのでしょうか?
「3ガードがうまく回る時もあるでしょうし、一方では相手のスカウティングから3ガードが止められる場面にも出くわす可能性があります。3ガードを武器として持ちつつ、今度は小寺選手が入ることで『ビッグ3』ができる可能性もあります。まだ試してはいないですけど、オプションが増えたという意味では、チームとしての幅は広がっていくのではないかと思っています。」
チームはアウェー連戦の真っ只中。小寺がホーム・茨城のファンやブースターの前に姿を見せるのは、もう少し先の話となる。最後に、小寺から頼もしいメッセージをもらった。
―小寺選手の勇姿を早く見たいと願うファンやブースターもいる。一言メッセージをお願いします
「僕がアダストリアみとアリーナのコートに立つのは、まだ先のことになってしまいますが、皆さんにはゆっくりその時を待っていただければと思います。また、コロナ禍の中でもあるので、健康には注意して、しっかり手洗いをして、マスクをしてアリーナに来たり、バスケットLIVEで僕の姿を見てくれればと思います。チームからはマスクもグッズとして出ているし、ぜひみんなで着けてもらえればいいですね(笑)。一方、僕らは勝ち続けて、皆さんに喜んでもらえるようなチームにしていければと考えているので、応援していただければと思っています。」
ロボッツがもう1段高く飛躍するには、彼の力が必要となるタイミングは度々訪れるだろう。小寺を加え、B1昇格へと挑戦を続けるロボッツから、今後も目が離せなくなりそうだ。