文:茨城ロボッツ text by IBARAKI ROBOTS
写真:茨城ロボッツphoto by IBARAKI ROBOTS
「今シーズンは起承転結で言うところの”転”のシーズンになります」
7月1日に開催された、2024-25シーズン開幕記者会見で代表の川﨑篤之が話した言葉だ。
今シーズンは社長・ゼネラルマネージャー交代など、フロント側での変革もあった中で、チームでは新戦力の台頭、ダブルキャプテン体制、ヘッドコーチ交代と転換期を迎えていた。開幕当初の躍進を見て、期待に胸を膨らませたファンも多かっただろう。しかし、終わってみれば、15勝45敗。B1継続を決めた昨シーズンの勝利数を上回ったものの、依然として苦しいシーズンとなってしまったかもしれない。
では、このシーズンは「失敗」だっただろうか。収穫のないシーズンだっただろうか。
転換期を迎えたクラブの葛藤、そして得た成長。見る人によっては全く違う印象になる、それくらい様々なことがあったシーズンだった。この記事を読む中でファンの方々にも改めて聞きたい。
「今シーズンはあなたの目にどのように写っただろうか」
2024-25シーズンの振り返りをピックアップし、前後編で振り返る。
今回の後編ではチームが掲げた「1% Better」の体現者たちの葛藤、そして開花、チームの窮地を救った主力たちの活躍について。そして改めて「どのようなシーズンだったのか」を振り返る。

1% Betterの体現者たち
今シーズン、ホルムHCが常々伝えていた、「1% Better」という言葉。昨日よりも今日、今日よりも明日、1%ずつ成長していくチームとしての信念だった。今シーズンを表すこのキーワードを体現したのは、昨シーズン途中加入でB1本格挑戦の#14 久岡幸太郎、3シーズンB2で圧倒的なスコアリングを魅せていた大型ガード#17 駒沢颯だろう。

話を開幕まで遡ると、B1に挑んだ2人のガードはB1という大きな壁に阻まれていた。2選手ともに、B2では己の強みを活かし、プレータイムを得ていた期間が長い。チームの中心として、#14 久岡は安定したゲームメイクとディフェンス、#17 駒沢は巧みなスキルを活かしたオフェンスで輝きを放っていた。そして、本格的なB1挑戦となった今シーズン。#14 久岡は開幕から中々プレータイムに恵まれず、少ない出場機会で自身の強みをアピールしていく時間が続いた。#17 駒沢は千葉J戦GAME2で初のスターティング5に名を連ねるも、強みであった得点力ではB1の壁に苦しみ、プレータイムも安定しなかった。
自身のプレーに悩み、苦しんだ期間が多かっただろう。しかし、事態は急変した。チームの1st ポイントガードでもあった#3 長谷川が今シーズン絶望の負傷を追う。同級生でもある#14 久岡、#3 長谷川の背中を見続けた#17 駒沢が真価を発揮しなくてはいけなくなったのだ。

#14 久岡は#3 長谷川が負傷し、下がらざるを得なくなった第12節仙台戦から早速ギアを上げる。「#3 長谷川の代わり」というよりも、アグレッシブなディフェンスでチームを鼓舞し、速い展開でのオフェンスで”らしさ”を全面に押し出した。きっかけは正ポイントガードの負傷離脱だったかもしれない。ただ、確かに我慢を続けたからこそ咲いた、#14 久岡のプレーがそこにはあった。その後も、第16節の琉球戦GAME2ではキャリアハイの15得点。第31節のFE名古屋戦では第4Qだけで9得点をあげ、勝利を手繰り寄せる活躍など、開幕の時とは違った”久岡幸太郎”を見せることができた。

「僕はコートに入る時は、いつだって人生を変えるつもりで1秒でも多くプレータイムを掴み取ろうという気持ちを持っています」
いつも#14 久岡は覚悟を持ってコートに立っていた。ただ、この男の活躍はまだ終わっていない。現状に満足せず、常に歩みを続けるからこそ、#14 久岡の真価は発揮される。「1% Better」の体現者として、これからの活躍も目が離せない。

そしてもう一人のポイントガードの#17 駒沢。#3 長谷川が怪我をした直後、こんな言葉を口にしていた。
「俺が不甲斐ないから(ノボルを)休ませることができなかった」
自責の念を感じ、悔しさをにじませる顔をしていた。以前から「B1初挑戦でビビってしまっている」ということも話していた矢先、突然の出来事にさらに困惑したことだろう。普段のお調子者からは想像できないほど、悩み苦しんだことだっただろう。しかし、これで終わらないのが#17 駒沢。中途半端なメンタルではB2時代に見せたスコアリングは出せない。練習中では、#3 長谷川に教えを請う場面も見られ、少しずつ、ただ確かに歩みを続けていた。

今シーズン努力の花が咲いたのは3Pシュートだった。ドリブルから虚を突くジャンパーの精度を上げていき、第14節長崎戦GAME1では3Pシュート5本を含む、17得点の大暴れ。それに伴い、外を警戒するディフェンスを緩急で抜き去る場面も増え、持ち味のスコアリングを遺憾なく発揮。開幕直後に迷いの生じていた#17 駒沢は徐々にいなくなっていった。ただ、それは#3 長谷川の負傷が引き起こしたというよりは、謙虚に自身の現在地を確認しながらも、成長を続けた#17 駒沢の粘り強さによるものだっただろう。

「1% Better」を体現してきた2人を見続けたクリス・ホルムHCはこんな言葉をかけた。
「2人は本当に良い選手。#3 長谷川選手が負傷してプレータイムが伸びたかもしれませんが、#3 長谷川選手の代わりというより、2人それぞれの良さを出して戦っていってほしい」
終盤の勝利はこの2選手の活躍なくしては語れない。チームコンセプトを1シーズン通して体現し続けた勇敢なポイントガード2名には改めて感謝を伝えたい。
ダブルエースの躍動

今シーズン、オフェンス面でチームを牽引したのは、#0 フランクス、#13 中村の2選手に異論はないのではないだろうか。2選手とも、ポテンシャルで言えば、B1トップ層にも引けを取らない。#0 フランクスはリーダーシップ、#13 中村は強い負けん気も備えており、この2人を抑えることは容易ではない。しかし、前半を振り返ってみると爆発力があるものの、安定性にかける場面も多かった。3Pシュートの多投でリズムを崩す場面も見られ、本当の実力を発揮できていなかったようにも感じる。もちろん、パフォーマンスとしては高いレベルではあったが、この2選手に関して言えば、スタンダードが高く設定されてしまってることも現実だ。それほどまでに、乗ったときの2人は止められない。しかし、思い返せばこんな心配は杞憂だったと言えるほどの後半戦だっただろう。

まず、#0 フランクスに関しては、3Pシュートは脅威であり続けながらも、2Pシュートやポストプレーで安定して得点が狙えるようになり、シーズン終わって平均16得点とチームトップを記録。大きな怪我もなく、開幕から試合に出続け、常にチームに声をかける様子が見受けられた。特に印象的だったのは最終節GAME1の北海道戦。この日、自慢のロボスリーは2本試投のみとなったが、スイッチしたディフェンスのミスマッチを突き、高確率で2Pシュートを沈めていった。2FG%は66.7%、40分間効率的なプレーを披露。数字面で言えば間違いなくエース級の活躍、さらに勝利への執念を1シーズン見せ続け、幾度となくチームを救ってきた。

#13 中村はロボッツに来てから今シーズンで5シーズン目。最初の2シーズンは決してプレータイムは多くなかった。上向き始めた瞬間に大怪我を負い、浮上の機会を失ったこともあった。思い返せば、大きなジャンプアップの前の助走だったのかもしれない。ただ、それも目的を見失わず、プレーを続けた功績だろう。本人は「バッシュを元に戻したら調子が上がった」と話すが、間違いなく努力の花が咲いたシーズンだった。自身がオフェンスのファーストオプションになり、期待に応え、4月に入ってからは40%近くで3Pシュートを決め続けた。得点、アシスト、スターティング出場はいずれもキャリアハイ。B1でも脅威の存在に駆け上がってきた。

2選手とも、時にはホルムHCから高い要求を受け、発破をかけられることもあったが、それ以上の活躍を残してきた。激しいディフェンスに苦しむこともあったが、自身にベクトルを向け、耐え続けてきた。華やかな活躍の裏には必死にもがく力強いエースの姿があったのだ。チームとしての姿勢、エースとしての覚悟を見せ続けた今シーズン。2選手はこれまでのキャリアでも特別な1シーズンを送ったのではないだろうか。

どんなシーズンだっただろうか
数トピックに分けて紹介したが、それ以外にもどの選手も崩れることなくチームに貢献し続けてくれた。#2 モサクは常に自己研鑽に励み、要所で華麗なスキルを見せた。#7 浅井は出場機会は多くなかったかもしれないが、3Pシュートに自信をつけ、チャンスを掴み取る姿勢を見せた。#10 陳岡はルーキーらしからぬハートの強さを見せた。#11 タプスコットは未だ健在の得点力を見せた。#20 フロイドは途中加入ながら、すぐさまチームに溶け込み、Bリーグ史上初の得点・リバウンド・ブロックのトリプルダブルを見せた。

#21 ジェイコブセンはチームへの献身性を見せた。#24 サンは最終節で大きな仕事を果たし、気迫あふれるプレーを見せた。#25 平尾は転換期へ繋ぐ大きな活躍を見せた。#29 鶴巻はディフェンスにフォーカスしたチームとして欠かせない存在に。#34 遠藤は縁の下の力持ちとして貢献した。

誰一人として欠かせない、チーム一丸として戦い切った。ただ、最終戦終了後に#25 平尾が話したように「誰もこの結果に満足はしていない」。序盤からの課題に苦しみ、2度の11連敗とファン・ブースターに勝利を届けられない悔しさが続いた。
決して成功ではない。では、このシーズンは「失敗」だっただろうか。収穫のないシーズンだっただろうか。
チームとしての礎を築き、カルチャーの醸成のきっかけになった。確実に成長を見せ、各々が自身の立場を確立した。呼応するかのように会場の熱量は上がり、共に戦うファン・ブースターがチームを支え続けた。
最後にもう一度問いたい。
戦い続けたチームにとって、待ち続け、共に戦ったファン・ブースターにとって、「どんなシーズンだっただろうか」。

