取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:B.LEAGUE
日本代表の活動による中断期間が明け、ロボッツはアウェーで、昨シーズンのBリーグ王者、千葉ジェッツとの試合に臨んだ。ロボッツは新たな戦術「3-2」のゾーンディフェンスでの勝負を選び、粘り強い戦いを続けたが、GAME1で77-83、GAME2で103-111で敗戦。ただ、2日間・80分にわたって戦いの形をしっかりと見せ続けたことは、また新たな「BUILD UP」の証とも言える。王者との激闘の末に何を見たか、戦った者の言葉で振り返っていくことにする。
チームで守り、ハードに攻める
これまで、マンツーマンでの思い切りの良さをディフェンスの基本線としてきたロボッツ。B2からB1へとステージを変えた今シーズンも、それが変わることがなかった。しかし、#2富樫勇樹を筆頭に機動力が高く、一方では#21ギャビン・エドワーズなど、インサイドをパワフルに切り開くカードもある。万能型とも言うべき千葉に対して、ロボッツはチームとして守り続ける必要があった。リチャード・グレスマンヘッドコーチが選んだのは、前3人、後ろ2人による「3-2」のゾーン。これをマンツーマンと使い分けるのではなく、常時行う道を選んだのである。その狙いをグレスマンHCはGAME1を終えた段階でこう語っている。
「他のチームと比べるとアンダーサイズな面がありますので、ディフェンスを工夫するという面から3-2のゾーンを採用しました。ペイントを守りながら、3ポイントに対しても警戒することは大変でしたが、日本で3-2を採用しているチームが少ないだけに、相手に対して考えさせることを念頭に置いていました。」
ゾーンで守られたことに対する打開を狙った千葉が、外からのシュートを多投した(特にGAME1ではそれまでの平均の1.5倍に当たる42本を試投)ことで、千葉のシュート精度がバラつけば一気に攻め上がることもできた。2試合ともにファストブレイクポイントでは千葉を上回り(GAME1:17、GAME2:9)。素早く1本を決めてはまた集中したディフェンス、という流れに持ち込んだ。ただ一方で、リバウンドをよく取られ、千葉のオフェンスリバウンドは20、セカンドチャンスポイントは27に達した。その点については、指揮官も警戒を強める。
「ゾーンの時に限らず、セカンドチャンスでやられてしまった感があります。セカンドチャンスポイントでの19点の差は非常に大きいです。自分たちの改善点は特にディフェンスでのリバウンドです。この問題を解決しなくてはならないでしょう。」
2試合を通じてビハインドの展開が長かったロボッツだったが、GAME1の第3クォーターでは#25平尾充庸が火付け役となって一気に10-0のラン(連続得点)に成功する。アシストあり、スティールあり、自らのシュートあり…。前線から「戦うぞ」という声が聞こえてきそうなほどであった。あの猛追劇について、平尾は試合後にこんなことを話している。
「自分たちが主導権を握るためには、ディフェンスからのバスケットをするというのが必要な場面で、僕たちからすれば『千葉さんがもっとハードに来る』という準備をしていたのですが、僕らの最初のオフェンスが決まったことで(平尾から#21エリック・ジェイコブセンへのアリウープダンク)、少し引いたのかなという感じがありました。一方では僕らのゾーンに対して迷っているような仕草もあったので、そこを突いていけたと思います。」
一方で、平尾にとっては「勝たせるガード」「勝たせるキャプテン」になるためにもがく日々が続く。それでも、彼はポジティブな言葉を残していった。
「全員の気持ちを一つにさせることは、非常に難しいことだと思うんです。僕が思っていても、誰かが違うことを考えていたり。そうなってしまった時点で、チームは崩れていってしまいます。僕が考えたことをチームに伝えることで、個人としても勝たせられる存在に少しずつなっていくでしょうし、偉そうなことを言うようですけど、それが他の選手たちの経験や成長にもなるはずです。誰かが言っていることを自分のことのように考えられなければ、この世界で成長はできないはずです。想いを共有する、という部分を大事にしたいと思います。」
昨シーズンに取材を始めて以来、たびたび彼の口から伝えられる「自分ごと」というメッセージ。臆せず、言葉にして伝え続けることは、チームのBUILDUPに対して、この上ない重要性を持つだろう。
「2点の取り方」も見えてきて
GAME1で、3ポイントシュートのタッチに苦しみ続けたロボッツ。これに関してはグレスマンHCも「20.8%という3ポイントの確率では、厳しい結果になってしまう」と、反省するしか無かった。だが、それでも千葉に終始食らいつけたのは、試合を通じて「2点が取れる」状態を作れていたからだろう。ロボッツがオフェンスでの形に苦しんでいた序盤戦の間、なかなかできていなかったペリメーターエリアでの得点が、GAME1では16点、GAME2では10点に達した。極端な言い方ではあるが、「3ポイントかペイントか」という状態を脱却しつつあることが、こうして数字で見えていることは着実な戦果だろう。昨シーズンから、インタビューで平尾が常々「2点をどう取るか」というバスケットスタイルを口にしていたが、それが形になりつつある。
さらに、アタックした結果、ファウルをもらってフリースローを得ることもできていた側面が大きい。この2試合でのフリースローのアテンプト(試投数)はGAME1が32、GAME2が24。今節が行われる前の14試合での平均アテンプトが17.4本だったことを考えると、いずれも大きく上回るものだ。これを高確率(両試合とも87.5%)で決め続けたことで、千葉に傾きかけた流れを最後まで渡しきらなかったことは大きい。また、フリースローが決まることで、その後の千葉の攻撃がトランジションのようにならなかった。時計が止まった状態での得点というのは、守りの上でも大事であることを再確認した格好になる。今節を終えて、チームとしてのフリースロー成功率は78.9%。リーグトップの数字となったことは、純粋に誇って良いのではないだろうか。
一方では、序盤からエナジー全開で戦い続けるがゆえに、どうしても試合の中ではペース配分が苦しくなる場面も出てくる。そんな中、GAME2において#29鶴巻啓太がチームを救った。ドライブでディフェンスの間に食い込んだかと思いきや、スピンムーブから相手を剥がしてゴールを奪う。試合の終盤になったところでインサイドへ強烈に走り込めるカードが残っていたことは大きかった。これは本人曰く、意識的なプレーであったことが窺える。
「僕がアタックを重ねていた時間は、福さん(#2福澤晃平)や平尾さん、ビッグマンたちが疲れているように見えました。そこでアタックしなければ、という考えもありました。またそれがうまく決まったなとも思います。」
この日、鶴巻はB1で最多となる12得点。日々成長を感じさせる「鶴巻の身のこなし」がより磨かれる結果になれば、「攻守ともに鶴巻」というカードが現実味を帯びてくる。また、この千葉戦でも浮かび上がった部分ではあるが、#11チェハーレス・タプスコットやジェイコブセンがインサイドで消耗しつつあるタイミングでこうした得点が取れることは、そのままロボッツの戦略上の幅に繋がっていくだろう。計算が立つ選手が、その能力通りに戦うことも重要だが、今節での福澤しかり、鶴巻しかり、試合の途中から調子を上げて襲いかかるような選手がいれば、相手の守り方も変わらざるを得ない。結果としてマークが散る可能性も出てくる。そうなれば、コート全体を使ったアップテンポなオフェンスは、より実現性を増していくことだろう。ディフェンスでは既にチーム内で動かぬ評価を得ている鶴巻。そこには本人も自信を覗かせる。
「コーチからも信頼を得て試合に出られるようにもなっているので、自分の武器としていたディフェンスがB1でも通用している面を感じます。ただ、勝ちきる強さはまだ僕らには足りないと強く感じています。大事な場面でのオフェンスを成功させられなかったり、相手に簡単な突破を許す場面もあります。そこをもっと突き詰めていけたらとは感じています。」
敗戦にやや肩を落とした様子の鶴巻ではあったが、まだリーグ戦は4分の1を終えたところ。千葉相手に直接対決でやり返すチャンスも残されている。鶴巻の伸びは、そのままロボッツの将来に繋がるのだ。彼にはどうか、胸を張っていてほしい。
変貌したスター軍団から、ADみと初勝利を狙う
12月もかなりタイトな日程だが、幸いにしてロボッツにとってはホームでの戦いが続く。次節は、西地区の島根スサノオマジックをアダストリアみとアリーナに迎え撃つ。ロボッツにとっては2018-19シーズンにB2で対戦して以来の島根との激突となるが、当時と現在ではチームの姿は全く別物と言える。
島根はオフに#14金丸晃輔や#3安藤誓哉の日本代表経験者と、東京五輪銅メダルのオーストラリア代表、#4ニック・ケイなど大物を次々と獲得。彼らが大車輪の活躍を見せることで躍進を、見せている。前節を終えて11勝5敗と西地区3位。チームの平均得点はリーグ3位の88.7得点となっており、今節も組織的なディフェンスが要求されることだろう。
島根の注目はケイと#8リード・トラビスによるフロントコート陣。特にトラビスは10月24日の横浜ビー・コルセアーズ戦以来、9試合連続で20得点以上を記録しているオフェンスモンスター。平均得点は22.9と、並み居る選手を抑えて現在リーグの得点王に君臨している。内も外もという万能型の彼を相手に、まずは集中した守りを続けたい。時にはファウルになってでも止めに行くという強い覚悟も、求められる瞬間はあるだろう。
対するロボッツは、タプスコット、トラソリーニ、ジェイコブセンの外国籍トリオに注目していきたい。3人がそれぞれ攻守でどのような働きができるか。特に念願叶ってB1の舞台に挑んでいるタプスコットが、値千金のシュートを放って「シェイ・タイム」を演出できるか。平日ゲームも待ち受ける中で負担をシェアし合えることも重要になってくるだろう。
また、それを実現するには#22ハビエル・ゴメス・デ・リアニョの本領発揮も欠かせない。ハードワーカーであることに疑いは無く、彼がどれだけファンを沸かせられるか、ぜひ見ていきたいところだ。先日には「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2022 OKINAWA」の「ASIA RISING STAR GAME」への参加が決定したゴメス・デ・リアニョ。選出を自ら祝えるような活躍を期待したいところだ。
思い起こせば、今シーズンのホームでの勝利はかみす防災アリーナでのもの。アダストリアみとアリーナでのB1昇格後初勝利は、誰もが渇望しているところだろう。「強豪との対戦でホームを守った」という経験は、また一つ選手たちを成長させる。勝利に沸くアダストリアみとアリーナを実現すべく、一段と高いボルテージでのブーストをお願いしたい。