取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI
新型コロナウイルス感染症によるチーム活動の停止を経て、日立市・池の川さくらアリーナでのホームゲームに臨んだロボッツ。横浜ビー・コルセアーズとの試合は前半こそ互角の戦いを見せたものの、後半で大きく突き放され、77-107で敗れた。ベンチ入りメンバー8人という、限界とも言える状況の中で我慢の戦いを続けたロボッツ。厳しい戦いの中で何を得ようとしていたのか。試練の一日を振り返る。
出ている選手全員が立ち向かう
コンディションが整わなかったため、#2福澤晃平と#25平尾充庸が欠場となったこの試合。普段はなかなかプレータイムが伸びないメンバーも含めて、エントリーした8人の選手がフル稼働での戦いとなった。ファウルトラブルも戦況を大きく動かしかねない試合となったが、結果として#11チェハーレス・タプスコットが2019-20シーズン以来となる40分間のフル出場を果たしたほか、#0遥天翼、#14髙橋祐二、#22ハビエル・ゴメス・デ・リアニョ、#55谷口大智が今季最長の出場となった。このような事態となった背景として、リチャード・グレスマンHCは、#21エリック・ジェイコブセンと#29鶴巻啓太もプレータイムを制限しながらの試合であったことを明かした。
「今日のような状況というのは私としても経験がそうあるものではなく、難しい状況でした。ただ、この展開は試合前から分かっていたことでした。とは言え、今日の結果を糧にして、また次のステップに進まないといけません。どうやるかは自分たち次第なのです。ジェイコブセン選手、鶴巻選手とプレータイムに制限をかけた選手もいましたし、多嶋選手がコートを離れたことも心配でした。とは言え選手たちはさらに限られた人数の中でも戦い続けてくれました。特に最終盤でコートに立っていた、遥選手、タプスコット選手、髙橋選手、ハビエル選手、谷口選手。彼らが見せてくれた姿勢は誇りに思います。」
均衡した試合が徐々に横浜ペースとなる中で、第3クォーター終盤には#8多嶋朝飛が負傷してコートを離れざるを得ない状態に。手負いのチームが、いよいよ窮地に追い込まれた瞬間だった。ここからチームは、タプスコットがポイントガード役に回って攻撃の組み立てを図る。積極的にインサイドまでドライブで食い込み、得点を重ねることで立ち向かっていく。終盤、どうしても点差が離れてしまった場面でも、その場その場での解決策をしっかりと導き出そうとしていた。
試合終了後、タプスコットが会見に現れた。異なるポジションを務めながらの戦いを、こう振り返った。
「自分自身の心がけとしては『チームに今、何ができるか』ということを考えながらのゲームになりました。時にはインサイドを張りつつ、コーチからはポイントガードとしても動き、シュートを狙いに行くよう伝えられ、コーチの求めにしっかり応えようと臨んでいました。様々なことができるというのが、僕の長所の一つだと思いますので、それを実行しながら、どうすればチームの勝利につなげられるかという部分を念頭に置いていました。」
昨シーズン以来、チームのフィロソフィーに据えられつつある「Unselfish」。その気になれば一人でオフェンスを完結させられるであろうタプスコットが、チーム最多の23得点を挙げながら、7リバウンド・5アシストという数字を残したことは、チームの屋台骨としての仕事を全うした結果だろう。置かれたチーム状況を誰よりも把握している選手たちが、各々に課せられたミッションとともに戦いきろうとした40分間だった。まずは、試合を完遂してくれたことをねぎらいつつ、少しでも早く元のチームの姿に戻ることに全力を投じてもらいたい。そう思わされる瞬間だった。
悩める男は光を掴むか
大学在学中からフィリピン代表としての活躍もあった、ゴメス・デ・リアニョ。大学を卒業して迎えた今シーズン、プロ1年目の舞台に日本を選び、ロボッツの一員となった。若きプレイヤーはそのシュートセンスで時折能力の片鱗を見せる一方で、なかなか満足なシーズンを送れているかと言われれば難しいところだっただろう。
その彼が、この横浜戦で一つの戦い様を示した。積極的にアウトサイドからシュートを放って、4本の3ポイントシュートを沈めた。調子の悪い時の彼は、どうしてもシュートを打ちたいがあまり、必要以上にボールをもらおうと動きがちだったのだが、この日はしっかりキックアウトのパスが来るのを待っていた。1本入れば、間合いを掴んだからだろう、乗っているのが見て取れた。後半こそ相手ディフェンスのプレッシャーをかいくぐれずに2得点に留まってしまったが、シーズンハイの14得点は立派な数字である。試合を終えたゴメス・デ・リアニョは、こう総括をする。
「今日の試合を迎えるまでに、チームとしてたくさんの壁がありました。タフなシチュエーションの中、自分たちが戦い抜くことで、横浜さんに簡単に勝利を許すような展開にはしたくありませんでした。選手、コーチ、スタッフが組織として一緒になって戦ったわけですが、結果は残念なことになってしまいました。」
その一方で、自身のプレーに対してはこう感触を語る。
「プレータイムをもらえたことで、自分にとってのステップアップにしようという気持ちがありました。ただ、自分のマークマンにシュートを決められた場面もありましたし、ディフェンスがより良くならないと、と思いますし、それがチームの助けになると思います。今までと同じように準備をして、いつも通りというのを心がけていました。呼ばれればすぐにコートに飛び出せるようにしていました。この試合は自信にできたとも思います。ただ、残るシーズンは今まで以上の頑張りが必要でしょう。できることの全てを出し切って、1試合1試合に向かっていきたいですし、チームに少しでも貢献したいんです。自分にできる全てをやっていこうと思います。」
コートに出たときのがむしゃらさは、ルーキーならではの部分も見せていたゴメス・デ・リアニョ。一つ、この試合で結果として報われたことが、ここからの試合、あるいは今後の彼のバスケット人生においても、大きな推進力となるはずだ。恵まれた体格を持ちながら、あの素早い間合いでシュートを打てる選手はそうそう見当たらない。この一年の苦労が花開くところまで持っていけるか。あと少しが楽しみである。
万雷の拍手に包まれて
残念ながらGAME1が中止となったものの、この日は会場を無料開放して「ROBOTS has COME!」と銘打ったイベントが行われた。選手たちもコート上に登場してのシュート対決も行われたが、この日会場で最も注目を浴びたのは、スペシャルトークショーだっただろう。ロボッツ戦の放送での解説でおなじみとなっている元ロボッツキャプテンの一色翔太さんと、ロボッツのマーク貝島ゼネラルマネージャーが登壇したのだが、開催前には「スペシャルゲスト」の登場が予告されていた。ここに、思ってもみない男が登場した。3月の試合中に負傷したことで、戦列を離れていた#13中村功平である。手術を終え、戦線復帰に向けたリハビリのさなかではあるが、傷めた箇所の経過は順調なようで、登場とともに右腕を回してコートへと入っていった。トークの内容を明かす、というわけにはいかないのだが、会場がワッと和やかになったことは確かだった。
実は、イベントの終了後、静けさを取り戻したコートに再び中村が立った。「まだコンタクトプレーを行うのは厳しい」と話す中村だったが、何気なくボールを手渡されるとシュートを披露し始める。幸いにして彼が左利きだったこともあり、ジャンプシュートは問題なく打てる状態にあった。フリースローラインから徐々に距離を伸ばし、3ポイントラインからも難なくリングを射止めた。リバウンダー役に入っていた大塚健吾S&Cコーチの表情が緩んだのが、マスクの上からでも分かるほどだった。
そんな状態だったからだろう、トークショーの終盤にはこんな大胆な発言も飛び出した。
「病院の先生からは全治6ヶ月という診断が出ているのを皆さんも知っていると思うんですが、ケガから1ヶ月が経って、僕としてはあと1ヶ月で全然プレーできるんじゃないかというぐらいの感覚です。とにかく、今は復帰に向けてリハビリをがんばっています。復帰したときは、前よりも成長した姿を見せられるように頑張ります。」
彼の言葉が現実になるのならば。これほど頼もしいことはないし、チームとしてもまた+αの追い風となることだろう。イベント後の姿に、それが現実味を帯びていることも合わせて伝わってきた。ジャージ越しのシルエットは少しほっそりとした姿にはなっていたが、「13」のユニフォームを着た彼が再びコートに立ち、ロボッツがまたフルパワーで戦いに臨める瞬間が来ることを祈りたい。
群馬との第2ラウンド。全員バスケで超えていけ
次節の試合はすぐさま訪れる。アダストリアみとアリーナでの群馬クレインサンダーズとの一戦だ。今年1月にB1での初対決を迎えた両者。この時は終盤まで繰り広げられた神経戦を抜け出したロボッツが84-91で制して、敵地での1勝を挙げた。ここからシーズン最終節までに一気に3回の対決が待ち構えるが、チーム目標のシーズン20勝に向けて勝ち星を取り切れるかが重要度を増す。両者のメンバーを比べていくと、特に群馬のインサイドの選手層に分がある。特に柱になる存在が、東京五輪チェコ代表の#12オンドレイ・バルヴィンだろう。リーグ最長身である217cmという高さは類を見ない。彼にインサイドを制圧されてしまう展開は避けておきたいため、ここのところの戦いで見られているような、ダブルチームの使いどころが肝になってくるだろう。
ロボッツとしてはファウルトラブルも気をつけたい一戦。コンディション次第ではあるが、レバンガ北海道との一戦で見せたような「クロスマッチアップ」も時には選択肢となる。鶴巻や遥、谷口らが代わる代わる相手を抑えることでフラストレーションを溜めさせる展開に持ち込めるかが重要になりそうだ。
苦しい戦いが続く中、1勝をもぎ取ることがチームを救う瞬間となる。今シーズン最後の平日ホームゲームに訪れ、クラップを送ってほしい。