文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:豊崎彰英、B.LEAGUE photo by Akihide TOYOSAKI, B.LEAGUE
昨年7月に、B1でのファーストシーズンに向けて始動したロボッツ。「BUILDUP」を掲げたチームの歩みは、険しいものばかりだった。同年10月の開幕を経て、今年5月の最終戦まで一気に走り抜けたチームの1年を、ロボッツに関わる皆さんはどのように受け取っただろうか。毎節「AFTER GAME」を連載してきた当サイトでは、今回から3回に渡って、今シーズンを振り返る特別企画「AFTER SEASON」を実施。第1回はチーム始動から、昨年12月にアダストリアみとアリーナでのB1初勝利を果たすまでを中心に振り返っていく。
期待と、不安と。幕開けと共に見えた課題
チームは7月の下旬に始動。#8多嶋朝飛、#21エリック・ジェイコブセン、#55谷口大智など、新加入選手も合流して調整が続いていく。新たな舞台に向けて期待や抱負を述べる者もいた一方、「B1」という勝手の違いに不安を覚える者もいた。3シーズンぶりにB1での戦いに挑むこととなった#0遥天翼は、B2・B3で2シーズンを過ごす中でいつの間にか抜けていた感覚を取り戻そうと調整に励んでいた。
「ずっとB1でプレーしていた朝飛が入ってきましたが、ディフェンスにおけるフィジカルの強さが、これまでのロボッツとは特に違うと感じます。フィジカルで押してくる、それに対してうろたえてしまう。この部分は、チームとして経験しなくてはダメだと思います。」
「開幕を迎えれば、そういった部分にも慣れるはず」とも付け加えた遥。しかし、もっと分かりやすく慎重さを隠さなかったのが、#2福澤晃平だった。B2では個人歴代最多となる(2021-22シーズン終了時点)、通算598本の3ポイントシュートを沈めた屈指のシャープシューター。成功率も高く、5年間の通算での3ポイント成功率は40%を超えている。B1への切符を掴んだB2プレーオフでは、レギュラーシーズン以上の得点力を見せていただけに、ついにB1へ殴り込みとなるかという思いを抱くファンも多かったはずだ。しかし、彼の言葉は一つ一つに現実味のある不安を帯びていた。
「B1という舞台の経験が無いので、今準備していることが正しいのか、筋力を増やしたからと言ってそれが通用するのかも分かりません。これまでB2にいた中で100%とかそれ以上の準備ができていたとしても、B1では通用しない可能性もある。これまでも不安や考えすぎてしまうことはあったんですけど、特に今はチーム内でしか練習ができていないので、今の強度で開幕しても大丈夫なのかとか、そんな気持ちになってしまうことはあります。」
コンタクトプレーでの強度をより高めることを目指した福澤。得意のプレーを活かす、あるいはプレーの幅を増やす。「シューターだけではバスケット選手として終わってしまう」と常々口にする彼がトレーニングから見直して挑んだ新シーズンだったが、彼の不安は現実となって表れることになる。
2021年10月2日。記念すべきB1での開幕戦を、ロボッツはアウェーの地で戦った。対戦相手は秋田ノーザンハピネッツ。アリーナを埋め尽くす「クレイジーピンク」と称される熱狂的なファンと、チームが一丸となって見せるハードなプレッシャーディフェンスを武器にするチームだった。ロボッツはGAME1を84-63、GAME2を83-57と、いずれも点差を付けられての連敗という形でスタートする。なかなかシュートまで持ち込めず、GAME1で13、GAME2では23個のターンオーバーを喫して、真正面からディフェンスに跳ね返される格好となってしまった。この時を振り返った福澤は、こう話す。
「練習の中では、自分なりにはやれていたという感覚もあったのですが、いざ始まってみれば、秋田さんは全くディフェンスの強度も違いましたし、実力が全然足りていなかったのを感じました。実際には、全然準備ができていなかったというのを、すごく感じさせられました。」
ただ、「開幕がこれで良かった」と話した者もいる。キャプテン・#25平尾充庸だ。
「特に秋田さんのディフェンスは、個々の能力が非常に高いので、そう言った意味では組織的なところでカバーしなければと思います。一方で、他のチームでここまで個人でプレッシャーをかけてくるチームがあるかというと、僕はおそらく無いと思います。その意味でも、開幕節で秋田さんのディフェンスを肌で感じられたことは、運がいいと感じています。これを基準にして、残りの58試合をしっかり戦っていきたいと思います。」
この1年、ロボッツは負けてもポジティブであり続けた。振り返ってみれば、それこそが、「BUILDUP」において一つの原動力であり続けたのではと思わせられる一幕となった。
勝利への糸口をたどり続けて
秋田に連敗した後、アウェーでの滋賀レイクスターズ戦、そしてホーム開幕節には強豪・宇都宮ブレックスと戦ったが、これも連敗。開幕から6戦に渡って白星を掴めず、初勝利はかみす防災アリーナにて行われた三遠ネオフェニックス戦だった。11月に日本代表の招集期間を迎えたことでリーグ戦が一度中断するのだが、その時点でロボッツは2勝12敗、勝率は.143と苦しみ抜いていた。昇格組として「B1の壁」は高く、厚い。そんなイメージを持ってしまいがちだし、筆者もそれを疑わなかった。ただ、そこで一つ、冷静に当時を語ったのは多嶋だった。
「昇格初年度ということもあって、いろいろな声がチームの内外から聞こえてきていたわけです。ただ、あまり関係ないのでは、と個人的には思っています。『初戦でやられた』『B1だから負けた』というよりも、『自分たちがどう戦うか』が確立できていないゆえに上手くいっていない感じでした。みんなが試行錯誤をしていたわけで、その部分の差だとは思いました。」
移籍加入組である多嶋は、他にも率直に悩みを明かす。
「チームの雰囲気やスタイルに対して、アジャストしきれないままの開幕だったんです。チームとしても、B2から昇格を果たしたメンバーが多く残っていて、それによる雰囲気の良さと、不安とか、選手個人個人のいろいろな感情が混ざったままのシーズンインでした。期待感がある一方で『やれるのか』という不安と、独特な雰囲気だったのかなと思います。」
その中で、個人的にプレーで光を放ちつつあったのが、#29鶴巻啓太だった。前のシーズンで主力としての立場を掴むきっかけとなったディフェンスにさらに磨きがかかり、宇都宮戦では日本代表の#6比江島慎を相手に一歩も引かず。11月7日の大阪エヴェッサ戦では、#25ディージェイ・ニュービルを完封し、来日以降初めて1桁得点に抑え込んだ。この試合で実況を務めた能政夕介氏の「鶴巻の身のこなし」というフレーズと共に一気に注目を集めるわけだが、当時を振り返ると、いかにがむしゃらだったかが見えてくる。
「去年『ディフェンス』という武器を見つけて、それを磨くことでさらに貢献したいという気持ちがありました。序盤戦では、チャレンジャー精神というか、『俺ならできる』というマインドでは無かったので、ぶつかりに行こうと。とにかくやり続けた結果、ニュービル選手を抑えることができたのかなと思わされました。あれができたことで、個人的に自信につながったので、そこからも徐々に自信にできていった感じですね。」
千葉ジェッツを相手にすれば#2富樫勇樹、サンロッカーズ渋谷を相手にすれば#9ベンドラメ礼生。そしてアルバルク東京戦では#24田中大貴。こうした各チームのゲームメーカーを相手にしたかと思えば、群馬クレインサンダーズ戦では#4トレイ・ジョーンズ、レバンガ北海道戦では#24デモン・ブルックスに張り付くなど、サイズで上回るポイントゲッターに対しても度々壁となり、そのディフェンス職人ぶりはロボッツを度々救うことになる。元を辿れば、2020-21シーズンの香川ファイブアローズ戦で、B2屈指の点取り屋である#30テレンス・ウッドベリーを食い止め、さらにその後の熊本ヴォルターズ戦で#11石川海斗(現・ファイティングイーグルス名古屋所属)からゲームメイクの自由を奪った。一気に信頼を勝ち取ったことが、彼の今を切り開いたとも言える。ただ、その直前までの鶴巻は、なかなか出番らしい出番を得られず。激しいポジション争いで崖っぷちに立たされた状況だった。そこから掴み取った「B1でプレーする」、それもほとんどの試合でスターターを務めるという今の姿は、本人にとっても望外の状況だったという。
「ここまで試合に絡めるようになることは想像していなかったですね。バスケットを始めてから大学まで、ずっと試合に出させてもらっている状況からプロに入って、2019-20シーズンの終盤や、2020-21シーズンの序盤は全然試合に出られないという悔しさがすごくありました。その時を考えて、今、ここまでの状況になるとは思っていませんでした。このチームで成長を続けられているので、『このチームで良かった』ってすごく思いますね。」
今季はさらに、かねてからの武器だったオフェンス能力も開花し、8試合で2桁得点を記録。身体能力をフルに使って緩急を作り、鋭いドライブで相手を翻弄していくプレースタイルは、ロボッツの新たなアクセントとなっていった。
「戦い続ける40分」が意味する物
開幕から2ヶ月が経過した時点で、まだロボッツはアダストリアみとアリーナでの勝利を果たせていなかった。神栖開催があったことや、宇都宮、あるいは川崎ブレイブサンダースといった強豪クラブとの対決が組まれていたことはもちろん理由になるだろう。しかし事実として、「VICTORY FACTORY」あるいは「守るべきホーム」と選手たちが呼ぶ場所で白星が掴めていなかった。
12月11日、島根スサノオマジック戦のGAME1も、1桁点差まで追い上げたところから大きく引き離され続け、59-87と一方的な展開を許してしまった。この日、試合後に平尾がこぼした言葉が、今も強く印象に残っている。
「戦ってない、戦ってないよ。これじゃ、どこのチームとやっても負ける。」
ロボッツのYouTubeチャンネル「ROBOTS TV」の「Inside ROBOTS」で公開されたロッカールームでのやり取りでは、彼の想いの強さが更に際立って伝わる。
「シュートが入る、入らないは別にして、戦わなきゃまず勝てないし、相手は必死にリバウンドとかルーズボールとかを戦っているのに、負けている自分たちがボールを適当に扱って、50対50のボールを取られて。そんなのではどこにも勝てないし、自分たちが今までの試合で積み上げてきた物が全部崩れた。40分間戦って、初めて自分たちのバスケットができてコートに立てるわけで、それは日本人選手も外国籍選手もみんな一緒。明日、もう1回戦いましょう。」
迎えた翌日、ロボッツは闘志を前面に出して島根と対峙した。第3クォーターでは一時11点までリードを広げ、それでも手を緩めない。終盤、島根が#3安藤誓哉が軸となって猛追を仕掛け、残り21秒の段階で85-85の同点に持ち込まれた。この瞬間にロボッツはタイムアウトを取り、残り時間を全て使い切る攻撃を組み立てていく。
平尾がピックアンドロールから放った3ポイントは惜しくもリングに嫌われるが、この時ゴール下には#15マーク・トラソリーニが潜り込んでいた。リバウンドを弾いたボールが手を離れた瞬間にタイムアップを告げるブザーが鳴り響く。リングの上で弾んだボールが吸い込まれ、ロボッツは劇的な勝利を掴み取った。待ちに待った勝利が、ブースターを狂喜乱舞させる。ベンチから飛び出した選手たちが手荒くトラソリーニを祝福した。
1勝に沸いた一方、平尾はこの後の記者会見で、チームのあるべき姿をこう話している。
「自分たちはあくまでチャレンジャーであって、なおかつ一つの勝利をものにしたいチームです。だからこそ、終わってからもそうですけど、『もっと必死にやろう』というところを話して。今日は試合前のアップからも気持ちを見せてくれていたので、そこは一つ成長できた部分なのかなと思います。」
「一つの勝利をものにしたい」という思いに飢え続けたチームが掴んだ勝利は、チームをさらに一歩押し進めた。島根戦の後、平尾がケガで約1ヶ月の離脱という事態も訪れる中、12月25日・26日に行われた信州ブレイブウォリアーズとの試合に連勝し、B1で初の連勝にこぎ着けた。2019-20シーズン、B1昇格を間近にしていた信州を相手に連敗を喫したロボッツだったが、彼らが身上とするいやらしいディフェンスをくぐり抜け続けて、得点を重ねて退けた。2年がかりでの「連勝返し」は、チームの確かな成長と、現在地を確かに見せつけるものでもあった。