文:荒 大 text by Masaru ARA
写真:豊崎彰英、B.LEAGUE photo by Akihide TOYOSAKI, B.LEAGUE
「BUILDUP」を掲げたチームの歩みを振り返る「AFTER SEASON 2021-22」。前回は1月から3月までの戦いを主に取り上げ、苦戦の日々の中で勝利を掴み取り、そしてB1昇格以来最大となる5連勝を果たすという中での、ロボッツの面々が見せた成長を振り返った。この連載特集も、今回がラストとなる。上昇気流を得たはずのチームが、4月に入って、シーズン終了を迎えるまでの約1ヶ月の間に待ち受けた、怒濤の日々をなぞっていく。
「Mr.Unselfish」の躍動
3月31日を以て#15マーク・トラソリーニが退団したことで、ロボッツのビッグマンラインアップは非常に絞られたものとなる。その中で#11チェハーレス・タプスコットと#21エリック・ジェイコブセンのプレータイム上の負担も増え続け、2人揃って1試合当たり30分以上の出場が当たり前となっていた。さらに、このタイミングで再びチームにコロナ禍が直撃したこともあり、コンディション調整の制限も出てきてしまう。結果として4月2日・3日の千葉ジェッツ戦、4月17日の横浜ビー・コルセアーズ戦と3連敗となった中で、4月20日、アダストリアみとアリーナでの群馬クレインサンダーズ戦を迎えた。
互いに離脱者が多発するチーム状況ではあったが、群馬はこの試合で、欠場が続いていた#4トレイ・ジョーンズが復帰してコートを駆け抜けていく。しかし、ゴール下での強度に分を見出したロボッツは、序盤から積極的にリバウンドに絡み、それを得点につなげることで群馬を一気に引き離した。この試合で誰に注目が集まったかと言えば、タプスコットに他ならないだろう。第1クォーターから得点を重ね続け、第3クォーター終了時点で28得点。3日前の横浜戦でフル出場をしたばかりのタプスコットだが、この日もここまで常にコートに立って、群馬の#3マイケル・パーカーや#4トレイ・ジョーンズ、#40ジャスティン・キーナンと言った強力フォワード陣と渡り合う。
そして、第4クォーターだけで17得点の荒稼ぎを成し遂げ、終わってみれば45得点。レバンガ北海道の#21ショーン・ロング、大阪エヴェッサの#25ディージェイ・ニュービルを抑え、今シーズンの1試合個人最多得点を記録したのだった。試合直後には「疲れたね」とこぼしたタプスコット。この日の独壇場ぶりについては、シーズン終了後にこう語っている。
「朝起きた時に『今日は自分の日だ』という感覚になっていました。時折そんな感覚になる時はあるのですが、ずっとB2でやり合っていた群馬さんが相手だったので、そうした気持ちになったのかもしれません。また、群馬の選手たちは、試合中によく自分に話しかけてくるんです。それがさらなるモチベーションになっていました。」
Bリーグ、それもB1のインサイドを張る選手として、サイズでは及ばない面があるのは確かだ。インサイドを主戦場とする「パワーフォワード」が登録ポジションである外国籍選手の中で、195cmという身長はB1の中では最も低い。序盤戦はその高さや屈強さに勝負を挑み、跳ね返されるシーンもあった。それでも、シーズンが進むに従って、しっかりインサイドへとアタックして得点を積み重ねていく姿を見せつけたことで、得点力も次第に相手の脅威となっていった。特に3月以降の18試合中、16試合で2桁得点を記録し、スコアラーとしての健在ぶりを示した。
「(序盤戦は)心身ともにタフな状況でした。チームが開幕から勢いに乗れたわけではなかったですし、自分を含めて全員が『B1』というものを感じていたはずです。あの時期は、今思えば『学び』の時期だったのではないでしょうか。ただ、チームは良くなっていくと分かっていましたし、自分のプレースタイルも理解していたので、チームと共に状態を上げていけると感じていました。プレーの精度を高めていくために、時間が必要な状況だったと、チームの全員が理解していたと思います。」
タプスコットにとってターニングポイントになったと感じているのは、昨年12月にアウェーで行われたアルバルク東京戦のことだったという。トラソリーニがこの2連戦をベンチ入りしたものの欠場する中で、GAME2で30得点を挙げた彼は、この群馬戦を含め、シーズンで合計4度の1試合30得点超えを果たす。徐々に自信を取り戻していったことで、終盤戦においてはチームの揺るぎないキーマンとなっていった。
一人、また一人とコートを離れ
コロナ禍を乗り越えて最初の試合となる横浜戦は、コンディション調整を鑑みた結果、#2福澤晃平と#25平尾充庸がエントリー外となり、ベンチ裏から戦況を見守った。しかし、この試合で#8多嶋朝飛が脚の負傷のため途中交代を余儀なくされ、そこから2週間ほど欠場となった。さらには今シーズンフル出場を続けていた#29鶴巻啓太が左膝半月板損傷の重傷を負い、4月24日のレバンガ北海道戦以降を欠場する。さらにこの北海道戦ではタプスコットまでもがケガのためエントリー外に追い込まれる。北海道戦GAME2のロスターは7人。Bリーグが定めた最低登録人数を下回った状態での試合が続いていた。この試合、並々ならぬ思いを持っていたのが、何を隠そう、平尾だったのだ。北海道を指揮する佐古賢一HCとの、当時NBL(Bリーグの前身リーグの1つ)に参入したばかりの広島ドラゴンフライズでの縁があってのことだった。
「北海道戦に関しては、佐古さんへの恩返しがしたかったんです。今まで良いことばかりではなくて、怒られる時や迷惑をかけてしまった時もあったんですけど、そういった部分をプレーで恩返ししたい。そんな思いが、北海道戦や、パナソニック時代のコーチである大野篤史さんがいる千葉ジェッツ戦の時は強くなるんです。だからこそ、どうしても勝ちたかったですし、プレーの中で今までから少し成長した『平尾充庸』というのを見せたかった。」
この試合、ロボッツは誰が出ても強度が落ちないゲーム展開を見せ、北海道を追い詰める戦いに持ち込む。84-77と敗れはしたが、平尾は後のインタビューで、チームの戦いぶりに手応えを感じていたという。
「個人としての考えを言えば、プロである以上戦うことは当たり前だと思っていて、人数が少なかろうが、応援してくれる人たちや、サポートしてくださる方々のために、戦うのは当たり前だと思っています。特に、北海道戦でみんなが『戦うこと』を見せてくれたのは、非常にうれしくて。逆境の中なので、諦めてしまう選手が出てもおかしくない状況ではあるんです。それが誰一人、茨城ロボッツの中にいなかったというのがキャプテンとしてはうれしかった。負けこそしましたが、『このチームは誇らしいな』『もっといろんな人に見てもらいたいな』と感じるような試合でした。」
そこから中2日。平尾の思いはしっかりと結果で報われることとなる。開幕の地でもある、CNA☆アリーナあきたに乗り込んで行われた、秋田ノーザンハピネッツ戦。第4クォーターの序盤でこの試合最大となる12点のビハインドを背負ったものの、それをオフィシャルタイムアウト突入までに巻き返し、シーソーゲームのまま、試合は今季初のオーバータイムへともつれ込む。5分間のオーバータイムは点の取り合いの中で進み、1プレーが勝負を分けるところまでやってくる。残り22.6秒、平尾がコーナーから放った3ポイントが吸い込まれる。拳を握りしめた平尾は、胸をポンと叩き、タイムアウトのベンチへと戻っていった。平尾はこの場面を振り返って、試合後にこんなコメントを残している。
「難しい展開なのだと、みんなが分かっていたからこそ、動き続けられた部分があると思います。ジェイコブセン選手がゴール下で有利になる部分はあったし、当然彼のポジション取りは見ます。ただ、それを見すぎるのではなくて、しっかり周りで動くというのができた。だから、僕のシュートのところでも、タプスコット選手が持っていたところで福澤選手がカットに入ってくれたから僕のところがノーマークになった。コーチたちが言い続けていた『Unselfish』というところを体現できたから、最後のシュートも決まったのかなと思っています。」
一瞬のプレーを完成させる積み重ねの末に、勝利を掴んだロボッツ。この後に行われた、横浜とのアウェー2連戦こそ連敗に終わったが、チームは疲労の色を見せながらも、着実に「B1で闘う集団」へと上り詰めようとしていた。
迎えたBUILDUPの着地点。戦い続けた景色は
アウェー5連戦を終えたロボッツは、残り3戦を全てアダストリアみとアリーナで戦うことになる。シーホース三河との対戦はジェイコブセンのファウルトラブルから相手に徹底的にインサイドを攻め込まれて敗戦。最終節の相手は、「B1昇格同期」とも言うべき間柄の、群馬クレインサンダーズだった。
ここまでの2戦はいずれもロボッツが勝利していたが、実はB2での5シーズンの間、ロボッツが群馬に勝ち越せたシーズンは一度も無かった(前身リーグ時代は所属リーグが違ったため対戦なし)。勝敗で五分に持ち込んだのは、2017-18シーズンに3勝3敗に持ち込んだのが唯一。6シーズン目にして群馬に初めて勝ち越しを果たせるか、さらにはB1東地区のチームを相手に唯一の勝ち越しを達成できるか。一つの勝利が色々な意味合いを持つ一戦となっていた。
GAME1は終盤に#21エリック・ジェイコブセンが怒濤のダンクラッシュを見せるなどで一気に群馬を振り切り、93-82で勝利し、群馬戦での勝ち越しを達成する。翌日の最終戦には、今季最多となる3640人の観衆が詰めかけ、両チームのブースターが熱を持って応援を続ける、一種異様な光景となった。序盤で離されたロボッツは、追い上げを見せたものの、84-95で敗戦。満員の観衆の中での勝利とはならなかった。
開幕前、平尾はこんなことを話していた。
「スポンサーの方やファン・ブースターの方に、一人一人、全員が『やりきったよ』という表情が見せられたらと思っています。『これ以上はできなかったよ。今のロボッツはここまでだよ』と、全てにおいてやりきったという姿を見せたいですね。」
試合後の会見に出席した平尾に、改めてこの目標を成し遂げられたかを問いかける。彼は、終盤戦の戦いぶりに満足は見せつつ、個人的な悔しさも覗かせた。
「チームとしてはタフな状況の中で一生懸命戦ってくれて、僕から見て悔いは無いのかなと思っています。全力で戦いましたし、最後の最後まで一生懸命にボールを追いかけましたし、そういった意味ではこのチームを誇りに思います。ただ、個人としては特に競ったゲームの中で今日の試合を勝たせられなかったことは、僕の責任でもありますので悔いが残っています。今シーズンのチームのような『闘う集団』に持っていけたことはうれしいのですが、『勝たせられない、勝たせたい』という気持ちは強いので、しっかりと次のシーズンで『勝たせられるガード』という目標を歩めたらと思います。」
また、難しい一年を指揮することとなったグレスマンも、シーズンを振り返ってこんな言葉を残す。
「山あり谷あり、という感じで、4時間でも5時間でも話せてしまいそうなぐらいですが、一言でいえばハードなシーズンでした。ただ、選手たちに感謝の気持ちを伝えたいと思います。序盤の20試合を3勝という成績で終えてから、勝率を上げていくことができました。ここまでのことができるチームは本当に少ないと考えています。大きく戦術やコーチングを変えたわけではないですし、選手の入れ替えを経験したわけでもありません。選手たちが戦い続けてくれたシーズンだったと思います。」
今季最多の観衆が集まった中での試合で勝利を収めることができなかったのは、ある意味「忘れ物」として、今後につながっていくことだろう。ただ、戦い続けるということでしか得られない物を、必死になって得ようとし続けたロボッツが残した物は、形になる物、ならない物を含めて、今後にしっかりと受け継がれるはずだ。また、来シーズンには昇降格を巡るサバイバルも始まるため、いつまでもエンジンがかかってこない戦いは悲劇を招きうる。そこを含めて、着実なBUILDUPが続けていけるかが、来シーズンにおける一つの見どころになるだろう。新たなシーズンに向けて、わずかな休息とともに、チームは生まれ変わっている最中である。フルハウスのアダストリアみとアリーナにおいて、次の機会が巡ってきたときこそ勝利を願ってやまない。2022-23シーズンに。そんな期待を寄せつつ、AFTER SEASONを締めくくることとする。