取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
ロボッツはアウェーに乗り込み、横浜ビー・コルセアーズと対戦。昨シーズンは3試合を戦って勝利を果たせなかった相手に、どのように戦うかが注目された。ロボッツはGAME1で#1トーマス・ケネディ、#2福澤晃平など控え選手の活躍もあって77-84で勝利すると、GAME2では#11チェハーレス・タプスコットが今季最多の32得点を記録。#25平尾充庸が2試合連続の17得点を挙げるなど、ボールの連動性を確保しながら戦い、この試合も77-84で勝利。3連勝を果たすとともに、B1昇格後初めての勝率5割に到達した。この勝利の裏にあったのは戦力の厚み、そして相手の長所を抑えるための我慢の連続があったからこそだろう。
際立った厚みの差
GAME1で見られた「17」対「39」という数字。この試合の勝敗を分けたのは、この数字で示される通り、互いのベンチメンバーによる得点だったのではないだろうか。横浜BCは負傷の影響で#1パトリック・アウダが試合にエントリーしたもののプレーをせず。また、#6赤穂雷太もケガで前節を欠場し、復帰初戦となっていた。そうした事情はあったにせよ、横浜BCは控え選手の得点が伸びない。#14大庭岳輝が9得点、#23キング開が8得点を挙げた以外は無得点、という状況だった。
対してロボッツはベンチスタートのメンバーがしぶとく得点を重ねる。口火を切ったのは福澤だった。第1クォーター、試合開始から9-0の連続得点を許した中で3ポイントシュートを決めると、このクォーターだけで8得点。チームが一気に息を吹き返した。この場面について、福澤は試合終了直後のインタビューでこう答えている。
「試合の出だしが重たくなって、プレーのチャンスがすぐに来たんですけど、プレーのテンポを上げることと、ファウルしても良いのでディフェンスをアグレッシブに行こうという気持ちで行きました。1本目のシュートこそ外れたと思うんですけど、2本目で入ったので、シュートタッチが良いと自分の感覚的にもあったので、思い切り良く打とうと。それがチームに良い流れを持ってこられたので良かったかなと思います」
結果的に、このクォーターを終えると14-15と、ロボッツがリードを奪うことに成功し、ここから試合はロボッツが逃げて、横浜BCが追う、という展開に終始していく。アウダの欠場でビッグマン事情が厳しい横浜BCは、インサイドの大黒柱の#10チャールズ・ジャクソンに代えて帰化選手の#32エドワード・モリスを投入するが、得点が伸びず。逆にロボッツはケネディが3ポイントシュートでのファウルを誘うなど、巧みに相手を惑わせ、フリースローも決めてこのクォーターで7得点。そしてクォーター終盤には相手ディフェンスを釣り出した#17山口颯斗のパスを受けた#13中村功平がブザービーターでの3ポイントを沈めて前半を終える。バランスの良さがとにかく際立っていた。こうした部分についてはリチャード・グレスマンHCも手応えを感じていたようだ。
「多くの選手が力を見せてくれて、ステップアップをしてくれたことで、勝ちに繋がりました。また、これが自分たちのやりたいことであり、成し遂げたいことです。自分たちには、誰か1人、ではなく多くの人間が活躍してくれること、つまりバランスが大事だと思っています」
そして後半になると、スターター組が躍動の時を迎える。特に前半3得点だった中村、そして無得点だった平尾が、この後半から躍動を見せた。終わってみれば、中村はB1でのキャリアハイを塗り替える15得点、平尾も今季最多タイとなる17得点を挙げて、勝利の立役者となった。ちなみに平尾が後半に入ってギアが上がったように見えたのには、この試合の開催地・横浜国際プール特有の事情があったようで…。
「変な話になるかもしれないんですけど、スポーツコート(床材に樹脂製のパネルが敷き詰められたコート)でやったことがなくて。ボールの跳ね方だったり、ちょっとした違いがあってすごく不思議な感覚だったんです。逆に後半、ボールの跳ね方だったりそういったところを調整しながらできたのと、やっぱり思い切ってシュートを打とうと思っていたので」
より上位を争おうとするのなら、良くない時間は極力減らすに越したことはない。平尾は、1試合の中で修正力を発揮し、見事勝利につなげた。
「持たない司令塔」の心得
ロボッツの中で時折見られるシーンが一つある。オフェンスをじっくり組み立てなくてはならないとき、通常であれば平尾や#8多嶋朝飛など、ポイントガードと呼ばれるポジションの選手がボールを運んでいく。ただ、このボール運びを、ロボッツはタプスコットが担当するタイミングがあるのだ。ただ、その間のプレーの組み立てについては、ポイントガードの選手たちがしっかりと指示を出していく。対する横浜BCは、#5河村勇輝がとにかくボールを持ったところから始まる、というオフェンスが基本線だった。こうした組み立てについて、GAME2を終えたところで平尾に尋ねた。
「仰るように、うちはシェイ(タプスコット)がボールを持って、その間に指示を出して、最終的に困ったらガードの選手にボールを戻して…ということをやります。相手は河村選手が持って、というところだったんですけども、彼にボールが渡らないというときに、横浜さんの周りの選手も『どうしたら良いんだろう』となったはずです。朝飛さんや功平がそこをしっかりと抑えてくれたので、良い勝ち方になったと思います。」
相手の司令塔たる河村をどう抑えるか、という課題は横浜BCと戦う上で間違いなく勝負の大きなウエイトを占める。そして平尾の言葉通り、GAME2の最終盤になって、ロボッツは多嶋と中村の2人で河村を囲ってボールを持たせず、かと思えば果敢にスティールも狙う。横浜BCのオフェンスの一歩目を抑えに行った。この間に#21エリック・ジェイコブセンもボールのないところでジャクソンと対峙。ピックアンドロールを使った簡単な連携を生ませなかった。その後、横浜BCが一時同点にまで追いついたものの、逆転は許さず。残り1分半ほどで平尾が放った3ポイントシュートが決まり、さらにその後のプレーでジェイコブセンが相手を抜き去って2点を加点。逆に横浜は残り時間がわずかなタイミングでジャクソンがオフェンスファウルをしてしまい、ロボッツボールへ。これで勝負ありとなった。
実は平尾について、気になる数字がもう一つある。GAME1で個人ファウルが5つに達し、試合終盤にベンチに退かざるを得なかったわけだが、GAME2ではここをきっちりと修正してみせる。なんとファウルを1つも犯すことなく試合を終え、逆にファウルを7つもらったのだ。
「相手と一度戦った中で、どう出てくるか、どう対応してくるかというのを学ぶことができて、今日はどちらかと言えば相手の出方を利用して、ファウルをもらう、ということができましたね。」
プレータイムが長くなり得るゆえに、ファウルがかさむことは避けなくてはならない。勝利を目指す上で、同じ手は二度食わない。平尾がコート上で見せた姿こそが、そのお手本のようであった。
「チーム」が勝利を手繰り寄せ
返す返すも、特にこの2試合のロボッツは「チーム」として答えを見つけに行っていたようにも見える。その象徴的なシーンを2つほど紹介したい。まず、GAME1の前半、横浜BCの河村が、スローインを自ら投じた直後にゴール下へと駆け込み、#15デビン・オリバーとの連係プレーで得点を挙げる。そこから2分ほど経って、もう一度河村がスローインを試みる。場所も場面も、似たような場面が訪れるのだが、ここでチームは中村を投入。2度目を察知したのか、ベンチからは中村に対する激しい指示が飛んでいた。そして、スローインでオリバーにパスを送った河村は、再びゴール下へ。ただこの瞬間に中村は必死にコースを消し、2度目をさせなかった。
「あの場面、中村選手はよくやってくれたと思いますし、それ以外の場面で言えば多嶋選手も含めてよく守ってくれたと思っています。ディナイ(パスを遮る動き)で消していけるパスは消してくれていましたし、戦術自体は上手くいったと感じています。」
そして、GAME2。点差が詰まった第4クォーターの終盤に、横浜BCのチームファウルがかさむ。これによってフリースローを得ていくわけだが、タプスコットが2本ともフリースローを落としてしまう。再び訪れたロボッツのオフェンスで、タプスコットはまたファウルを受ける。どうしても入れたいフリースローだったが、その1本目が落ちる。3本連続の失敗に、やや場内のムードもどよめく中、素早くタプスコットに駆け寄ったのが、ジェイコブセンと多嶋だった。ジェイコブセンが言葉を贈ると、多嶋も少し笑みを浮かべる。タプスコットも、リラックスしたような表情を見せていた。あの緊迫した場面で、ジェイコブセンは何を伝えていたのか、タプスコットが語る。
「『心配しなくて良い、気にしなくて良いからしっかりと自信を持って打ってくれ』と言ってくれました。バイスキャプテンとして助けてくれましたし、それが大きな自信になりましたね。」
続くフリースローを決め、その後のプレーでタプスコットは3ポイントシュートも見舞う。難しい場面でも、声がかかることで目の前のもやが晴れていく。一瞬のやりとりだったのかもしれないが、ロボッツはあくまでチームとして勝利を目指している。今後もこうしたシーンは多く見られることだろう。
今季初の水曜ホームで躍動を
次節は中2日でのレバンガ北海道戦。今シーズン初めての水曜日開催の試合となる。ロボッツは開幕節以来となる、アダストリアみとアリーナでの試合に臨む。
北海道は現在、2勝6敗で東地区の最下位。チャンピオンシップ出場を目標に掲げながら、なかなか循環を作り切れていない。昨シーズン、1試合平均25.0点を挙げてB1得点王となった#21ショーン・ロングも、今季の1試合平均得点が12.4と大きく数字を落としている。その中での注目選手は#5アレックス・マーフィー。昨シーズンはB2の福島ファイヤーボンズでプレーした後に退団していたが、ケガ人に悩んでいた北海道が急遽獲得してチームに合流した。開幕当初こそマッチングに苦しんだが、スターター起用された10月15日の富山グラウジーズ戦以降、4試合連続で2桁得点を記録している。身長206cmながら、相手をいなすような動きで得点を重ねる姿には注意しなくてはならない。ロボッツとしては足元に食い込むようなディフェンスでその動きを阻みたいところだ。
対するロボッツは初の古巣対戦となる#17山口颯斗に注目しないわけにはいかない。開幕節でこそ大活躍…とはならなかったが、その爽やかな見た目や飄々とした受け答えに反して、コート上では常にギラついた闘志を見せ続けている。この試合で鮮烈な「恩返し」となれば、言うことはないだろう。
あまり意識させてはいけないのかもしれないが、この試合はロボッツにとってB1で初めてとなる「貯金」をかけた戦いでもある。試合を重ねるごとにチームは目を見張るような成長を続けていて、チームスローガン「GEARUP」につながるような姿を見せている。そうであれば、残るは「4000」の部分を成し遂げたいところ。平日の夜、ふと立ち寄ったアリーナで、白熱の一戦が繰り広げられるはず。ぜひ会場での応援をお願いしたい。