取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI
今シーズンのB2の最終決戦となった、プレーオフファイナル・群馬クレインサンダーズ戦。最終決戦を見届けるべく、多数のロボッツファンがアウェー会場に駆けつけたほか、水戸市のユードムアリーナで行われたパブリックビューイングにも連日多くのファンが集まった。そんな中、ロボッツは文字通り白熱の闘いを演じ、今季ホーム無敗を誇った群馬から1勝を奪い、GAME3に持ち込む。GAME3は攻守にわたって躍動し続けた群馬に終始リードを許し、敗れたものの、「闘う」という姿勢を最後まで崩すことはなかった。レギュラーシーズンから数えて64試合、プレータイムにして2570分の死闘を終えたロボッツの戦士たち。その集大成とも言える、ファイナルの舞台裏に迫る。
詰むや、詰まざるやの2戦。火を灯し続けた選手たち
結果から見れば、クロスゲームとなったGAME1とGAME2。しかし、その展開を振り返ると、いずれの試合も、終盤にかけて群馬に最大10点以上のリードを許した。あと一歩でも流れを渡してしまえば「詰み」となる展開。ただ、そこで群馬の流れを押しとどめ、ロボッツのターンへと持ち込んだことは、大きな成果だった。選手もそれを感じていたようで、#2福澤晃平はGAME2の後に行われた記者会見でこのような話をしている。
「10点以上の差が開いた場面から、自分たちのディフェンスで我慢して、それ以上大きな点差にされず、1桁差に戻して食らいついていく。それを第3クォーターや、第4クォーターの大事な場面でできるというのは、チームとして力がある証拠だと思います。」
共通点となったのは、「闘う」という空気を選手たちがしっかりと作っていったことにある。GAME1においては31得点を挙げた#25平尾充庸がその筆頭といえるだろう。彼が闘いの火を消さず、灯し続けたことに意味があった。GAME1を終えて、平尾が残した言葉が印象的だ。
「まだ試合が終わっていないのに、会場の雰囲気を含めて、コート上の選手にも、ベンチにも群馬さんの空気に飲まれてしまっているという感覚がありました。ハーフタイムに、『まだ負けたわけじゃない、まだまだこれから盛り返していくんだ』とチームメイトたちに伝えて、雰囲気作りから意識していました。」
有言実行とばかりに、平尾は続けざまに得点を奪っていく。ペイントタッチあり、アウトサイドからのシュートあり、巧みなファウルドローンあり…。平尾に乗せられるかのように、ロボッツは後半に躍動感を取り戻していった。GAME1を終え、後が無くなった状況でも、選手たちは決して悲観的にはならなかったという。ロッカールームに戻った選手たちは、翌日にカムバックを果たすことを目指し、声を掛け合ったという。敗れたとはいえ、確かな手応えがそこにあった。
負ければ、そこでシーズンが終わりを迎えるGAME2。今シーズン、ホームゲーム無敗を誇っていた群馬に、反撃の狼煙を上げたのは#6小林大祐だった。ビハインドがやや大きくなり始めた場面で投入された小林は、ビッグショットを次々に沈めて、第3クォーターだけで13得点を挙げる。試合後の会見でコメントを求められると、「勝てて良かったです」と短く述べた小林。投入された場面については、こう振り返った。
「ビハインドで、なかなかリードができないという状況で、どれだけ僕が出た時間でプラスに持っていけるかを考えていました。群馬さんは強いチームなだけに、相手の思っていないこと、奇想天外なことをやって、相手をリズムに乗せないという意識のもとでプレーしていました。」
思惑は見事にはまり、ロボッツは息を吹き返し、もぎ取ったリードを守りきった。1勝1敗。最後の戦いに向けて、彼は試合のポイントをこう振り返った。
「特にプレーオフで相手に勝ちきるには、『経験』、『勝負強さ』あるいは『勘の良さ』というところが絶対必要になってきます。そういった部分のエッセンスを、僕が加えられたらというつもりでプレーをしていました。GAME3を勝つにしても、勘の良さと経験がとにかく物をいうと思います。どこで相手を引き離すか、どこで試合を優位に運ぶか。どう相手の選択肢を削って、どうやってこちらの的を絞らせないかですね。群馬さんは経験豊かな選手が多いとはいえ、もはや『勝った方が強い』というゲームですし、お互いのプライドがぶつかり合うわけです。どれだけ勢いを持たせられるか、明日もその役割になると思っていますし、それを受け入れてやっています。」
最後の戦いに向けて、課題は明白。ロボッツには、とにかく勝ちきること、それだけが求められていた。
ブザーが鳴るその瞬間まで、闘った
運命のGAME3。序盤からエンジン全開で攻めにかかった群馬に対して、平尾曰く「受けてしまった」というロボッツは、この日もビハインドを背負った戦いとなってしまう。前日に群馬を苦しめたゾーンディフェンスも、この日はなかなか相手を抑えられず。#3マイケル・パーカーや#41ブライアン・クウェリにインサイドをすり抜けられては立て続けに得点を許し、群馬が走る展開となった。GAME1とGAME2で群馬の平岡富士貴ヘッドコーチが「緩んだ展開があった」と反省したのを踏まえてか、群馬は強度高くディフェンスを展開し続ける。パーカー、クウェリ、#4トレイ・ジョーンズや#40ジャスティン・キーナンがインサイドを絞り込むビッグラインアップを、ロボッツはなかなか攻略しきれない展開が続く。前半を19点のビハインドで折り返し、勝負は後半へと突入した。
この日もロボッツは勝負の灯火を決して消さなかった。インサイドでは#11チェハーレス・タプスコットや#15マーク・トラソリーニがしっかりと勝負を挑み、アウトサイドでは福澤がタフな3ポイントもねじ込んでいく。どこからなら相手を上回っていけるか、ロボッツは局面局面で、がむしゃらに探り続けていた。しかし、ビハインドは15点から20点ほどの状態からなかなか動かない。
第4クォーター残り1分47秒、これまでのロボッツを支え続けてきた#27眞庭城聖がコートに立つ。相手のチームファウルも貯まった状態、わずかなオープンやインサイドの隙を見つけてはシュートに持ち込んでいくが、群馬も最後まで手綱を緩めなかった。コーナーでパスを受け取った眞庭の3ポイントシュートがリングに嫌われ、群馬の#30山崎稜がリバウンドを掴んだところで、試合終了を告げるブザーが響く。ロボッツの2020-21シーズンは、B2準優勝という形で終わることとなった。
全ての戦いを終えて、平尾が会見場に現れる。訥々と、シーズンを終えての胸の内を明かした。
「欲を言えば、チームとしてもう少し高いところを目指したかったというのはありますが、チームのみんなが僕の気持ちや、ファンの皆さんの気持ち、いろいろな人の気持ちを背負って、一緒に闘ってくれたということはすごくうれしかったです。このチームだからこそ、最後までこの場で闘えたことは誇りに思っています。今日こそ勝ちたかったわけですが、簡単に勝たせてくれないのが群馬さんだと思いますし、シーズンを通して求めてきたことが100%出たかと言われれば、そうではないと思います。ただ、その中で、一生懸命ファンの人たちのためであったり、パブリックビューイングに来ていただいた方々のために、一生懸命コートを駆け回りました。『悔いはない』と言えば嘘になりますが、チームとしてはやりきりました。ただ、欲を言えばもう少し相手を苦しめたかったという部分はありますし、これが今のロボッツの限界だったのか、『まだ、勝ってはいけない』というメッセージのようなものを、僕らは与えられたのかなとも思います。」
その上で、来シーズンに向けた、チームが向かうべき姿についても語ってくれた。
「来シーズン、また違うステージに向かうわけですし、どうなっていくかは分からないところではあるのですが、新しいチームになったときに、ロボッツが一からスタートするのではなく、チームに残った人間が土台を残したまま、さらにプラスアルファを積み上げていくことができれば、もっともっと今以上にいいチームができるのではないかと思っています。一つ一つの状況判断といいますか、ノーマークを見つける、ノーマークを作る、そこにパスを通していくという技術、あるいは戦術については自分たちが求めていかなければならない部分だと思いました。まだまだ自分たちが強くなるためには課題がたくさんあるわけですし、プロとしてバスケットをやらせていただいているからこそ、チーム・個人がレベルアップするために課題を解決していかなければならないと思っています。一方で、ロボッツらしさ、40分闘うということを前提に、またレベルアップして行ければと思います。」
選手はすでに、前を向いている。先の見えないB1での戦いの中で、今シーズンのロボッツが培ってきた経験、あるいは「Unselfish」「Toughness」「Uptempo」といったカルチャーの部分は、脈々と受け継がれていくことだろう。わずかばかりの充電期間を経て、また再始動を迎えた時には、全力で駆け出してほしいものである。
激動の一年を経て、次のステージへ
B2優勝という、有終の美を飾ることこそ叶わなかったが、ロボッツはひとまず激闘の日々を終えた。新型コロナウイルスの影響が色濃く残った中で開幕を迎え、時にはクラブとしても感染症の危機に直面しながら、なんとか戦い抜くことができた。そして、これからは最高峰「B1」において、ロボッツが戦うことになる。
その中で、ロボッツの一員として新たなステージに立つ者、新たなチームで「B1昇格」の経験を落とし込もうとする者、あるいはバスケットの世界から旅立とうとする者。様々な人たちが様々な決断を下すことになるだろう。ただ、この1年、いばらきブルーとつくばオレンジのユニフォームを身にまとい、戦い続けていたことは、どうか皆さんの記憶に留めてほしい。これは選手に限らず、応援を続けたファン・ブースター、あるいはロボッツを支えたスポンサーの方々にとっても同じことである。5月16日、アダストリアみとアリーナで迎えた歓喜、5月24日、太田市運動公園市民体育館で味わった悔しさ。代えがたいこの経験を、忘れずにいたい。
B1の頂を目指す道のりは、決して平坦なものではないだろう。しかし、ロボッツはあくまで「B1制覇」を目標に、新たな一歩を踏み出すことになる。これから訪れるであろう、苦しい瞬間も、あるいは楽しい瞬間も、ロボッツの背中を押し続けてほしい。