取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:B.LEAGUE
今シーズン初の平日開催となった、敵地に乗り込んでのシーホース三河戦。ロボッツは強力な三河の攻撃陣に対して辛抱強く守り続け、一方では素早いボール回しと手数の少ないオフェンスを武器に得点を量産して、シーソーゲームへと持ち込んだ。しかし、残り時間わずかという段階から、三河の#7長野誠史に3ポイントシュートを立て続けに被弾して勝負あり。81-71で敗戦となった。勝ち筋も見えていたゲーム。改めて「良いゲーム」ではなく「強いゲーム」を見せなくては、勝利を得られないことを知らされる結果となった。
ビッグラインナップにも冷静に対応
三河のスターターは、リーグ随一の高さを誇る。その中で最も身長が低いのが、#19西田優大の190cmというのだから恐れ入る。ポイントガードを務める#5カイル・コリンズワースも198cmと、単純にロボッツのガード陣が相対するには高さのミスマッチが生じてしまう危険があった。仮に183cmの#14髙橋祐二が相手となったとしても、15cmの差は大きい。ロボッツはここをまず冷静に見極め、コリンズワースへのマッチアップに#0遥天翼を当てた。遥も今シーズン初のスターター起用に応え、手厚いディフェンスを展開。第1クォーターからしっかりと守りきった。試合を終えて、スターター起用について遥はこのように語っている。
「リッチ(リチャード・グレスマンHC)からは、5番の選手(コリンズワース)を止めるように指示をもらっていて、ディフェンスにフォーカスして、自分らしさを出していこうと思っていました。」
後を引き継いだ#29鶴巻啓太も含めて、乗せてはいけない存在だったコリンズワースを、8得点に抑えられたと言う意味では、この戦略は当たりだったと言えよう。
一方、この試合では三河のオフェンスモンスターである#54ダバンテ・ガードナーをどう守るかというポイントも存在した。彼がペイントエリアを強引にこじ開ける展開になってしまうと、ロボッツのインサイド陣にファウルトラブル等の懸念も出てきてしまう。ただ、そこにおいてもとにかく選手たちの献身性が目立った。ロボッツは決定的なズレを作らず、ガードナーの手でフィニッシュせざるを得ない状況を作り出し、さらに彼の主戦場であるインサイドから追いやっていた。結果として第1クォーターで3ポイントシュート5発を浴びて、ガードナーに15得点を許してしまうが、17-19とロボッツのリードで終えることができた。さすがにこれを良しとしなかったと見て、第2クォーター以降で三河オフェンスはボールを散らしていくが、ロボッツはまず目の前のマークマンにしっかり対応することからブレなかった。
一方では機動性での勝負にも積極的に打って出た。#21エリック・ジェイコブセンがペイントエリアで素早く面取りをすると、シンプルなハイロープレーで相手を剥がしきって得点を生み出していく。特にジェイコブセンの得点量産に当たっては、#2福澤晃平との緻密なピック&ロールが成立していた部分も大きかった。#11チェハーレス・タプスコットもボールの流動性とのバランスをとりながらアタックを重ね、シーズンハイとなる19得点を記録。試合が進むに従ってアウトサイドのシュートタッチが重くなる中、堅実に「2点を取る」ことを繰り返し、ロボッツは確実に流れを手元に残し続けていた。
このような展開となったことには、三河の#4細谷将司、#14ジェロード・ユトフ、#21橋本晃佑が揃って「ケガを抱えていた(三河・鈴木貴美一HC談)」という事情から試合にエントリーしながらもプレーせず、三河が事実上8人の選手でローテーションを回さざるを得なかったという側面も存在する。ただ、ここに対して良い意味で付き合わず、最善のプレーを選び続けた。
点差を一時的に離されてもしっかりと食らいつき、第4クォーター、残り1分30秒の段階で1点のビハインド。歴戦の試合巧者である三河を相手にどちらが勝ってもおかしくない状態を作り出していた。しかしここから、試合は大きく動くことになる。
良いゲームから、勝てる、勝ちに行くゲームに
間違いなく、この試合のロボッツは「良いゲーム」を見せていた。ただ、そこに生じた一瞬のほころびを見逃してくれないのがB1であると、ロボッツは試合最終盤のわずか90秒間に身を以て体験することになる。
ガードナーがボールを持った場面で、タプスコットとの1on1を展開すると、ここに鶴巻がヘルプに出る。既にチームファウルが4つに達し、ゴール下にいたジェイコブセンに至っては個人ファウルが4つとファウルアウト寸前。万が一を考えて、簡単にゴールを明け渡してしまうのは阻止したい、そんな判断もあったはずだ。
ただ、これにより、#8多嶋朝飛がゴール下への飛び込みに備えてコリンズワースと長野の2人を見張らなければならず、両選手に対して安易に寄せきれない状況となってしまった。ガードナーは空いたサイドの長野へのパスを選択。受けた長野も迷うことなく3ポイントを沈め、三河が一歩前に出た。
そこから、会場のムードは一気に三河の勝利へと傾いた。長野に対して立て続けに3本の3ポイントシュートを浴びて、点差は一気に10点に拡大。試合はそのまま決着となってしまった。第4クォーター自体のロボッツの試合運びも、決して悪いものではなかったが、終盤になって三河がたびたび展開したゾーンディフェンスに対して、なかなか有効なシュートを決めきれなかった。1点差で食らいついていたという現実以上に、ジワジワと流れはロボッツから無くなっていたのかもしれない。
ドラマチックな試合運びは、B2時代からこれまで何度となく見せてきたロボッツ。ただ、それがなせた裏には、戦いの灯火を選手やコーチたちがしっかりと燃やし続け、その結果として相手とのねじり合いを制したという受け取り方ができる。昇格を果たした昨シーズンだけでも、第4クォーターだけで19点差を逆転したアースフレンズ東京Z戦しかり、群馬クレインサンダーズを2試合に渡って追い詰め、最終的には1勝をもぎ取ったB2プレーオフのファイナルしかりだ。今回の試合に関してそれが無かったとは言わない。ただ、「B1で勝つ」という目標を遂げるためには、40分間全て、時にはオーバータイムまで含めても常に相手よりもその灯火を大きく、強く保ち続けなければならない。それを経て初めて「良いゲーム」は「勝てるゲーム」へと昇華するはずだ。
試合後、選手たちは着替えもそこそこに、サブアリーナで会場の退館時間ギリギリまでシューティングに臨んでいたという。それだけでも、いかにこの日のゲームが悔しい物だったかが伝わってくるだろう。勝つことで作られる歴史もあれば、負けることで作られる歴史もある。いつの日か、「この日負けたからロボッツは強くなれたのだ」と胸を張れるようになってほしい。悔しさと共に、そんな思いも芽生えさせるゲームとなったはずだ。
一発勝負の緊張感を制せ
リーグ戦はここから1週空くことになるが、Bリーグの各クラブは新たな戦いに身を投じる。天皇杯・全日本バスケットボール選手権大会、いわゆる「オールジャパン」が行われるのだ。これまでB2所属だったことでなかなか大会参加の機会が巡ってこなかったロボッツにとっては、実に3シーズンぶりとなる天皇杯への参戦となる。シーズンへの反撃ムードを作るためにも、しっかりと勝ち進みたいところだ。
トーナメントを勝ち上がれば3日連続でのゲームとなるこのラウンド。ロボッツは愛知での戦いから中2日で北海道の北海きたえーるに乗り込む。初戦では群雄割拠のB2東地区で首位を走るファイティングイーグルス名古屋とのゲームに臨む。#12野﨑零也の復帰やB2アシスト王#11石川海斗、3ポイントシューター#18相馬卓弥の加入、外国籍選手も#0アンドリュー・ランダルや#41ブライアン・クウェリが加入するなど、「B2オールスター」と呼ぶにふさわしい陣容でシーズンを戦っている。これだけのメンバーが揃っただけに、オフェンシブに試合を展開しているかと言うとそうではなく、平均得点は76.3とリーグ8位。一方でディフェンスがここまで大崩れする試合がなく、平均失点64.2はリーグトップの数値。最多失点も開幕戦の越谷アルファーズ戦の76という、非常に締まった展開に持ち込んでいる。
そのカギとなっているのが、今シーズンFE名古屋に加入した帰化選手、#3エヴァンスルークだろう。ここ5試合連続でスターター出場を果たし、堅実に得点・リバウンド・ファウルドローンを重ねていくことで流れを相手に渡さない役割を担っている。彼が献身的に「つなぐ」ことで、ランダルやクウェリといった外国籍選手がここ一番での爆発力をセーブできている。ロボッツとしては侮ることなく戦いたい。
ロボッツは内に外にとにかく隙を探し続けていくことに勝機を見出していきたい。ボールが止まることで相手に考える余裕を与えてしまっては、徐々にFE名古屋の流れに飲まれてしまいかねない。リバウンドへの意識を高く持ち、そこからトランジションでしっかりと決めきる。この繰り返しがどれだけできるかで勝敗は変わってくるだろう。
キープレイヤーは#2福澤晃平と#15マーク・トラソリーニ。スピードとパワー、そしてシュートスキルを兼ね備えた2人が、どこまで相手のディフェンスをかき乱せるか。誰か1人がヒーローになるのではなく、2人、3人と得点に絡み続けるスタイルで勝利を目指したい。
今のロボッツに必要なものは、何よりも「勝つためのタスクをこなすこと」、そして「勝ったという経験を得ること」の2つだ。ハードなスケジュールではあるが、一つでも実りのあるゲームで、ロボッツを支える人たちを喜ばせてほしい。