取材:文:荒 大 text by Masaru ARA
撮影:豊崎彰英 photo by Akihide TOYOSAKI
茨城ロボッツの前身である「つくばロボッツ」時代のホーム、つくばカピオアリーナで行われたサンロッカーズ渋谷との2連戦。チームにとっては「始まりの地」とも言うべき場所で、NBL時代から戦ってきたSR渋谷と、ついにB1の公式戦で相見えた。追いかけては引き離されを繰り返し、GAME1こそ76-85で敗れたロボッツだったが、GAME2では終始効率よく得点を重ねながら、ディフェンスでは個性に長けたSR渋谷の攻撃をチームとして押しとどめた。ロボッツは第4クォーターで一気にSR渋谷を引き離し、94-78で勝利。チケットが完売・1308人のファンが詰めかけたゲームで、冷静さを失わなかった選手たちが掴み取った、成長を実証する勝利でもあった。
コート上のベクトルはブレず
試合の流れを天秤に例えるとするならば、ロボッツの側に傾くこともあれば、SR渋谷サイドに傾くこともまたしかり。なかなか両者ともに決め手を作りきれず、ここのところのロボッツが連続して直面している我慢比べの展開が訪れた。
一進一退の状況は、徐々にではあるが両チームを共にエキサイトさせつつあった。しかし、ここぞという場面でチームとして戦ったのは、ロボッツだったように見える。その戦いざまは、随所に現れた。#5ケビン・ジョーンズ、#14ジェームズ・マイケル・マカドゥ、#55ジョシュ・ハレルソンから成るSR渋谷の強力なインサイド陣に対して、時にダブルチームを駆使して進路を塞ぎつつ、ゴール下を徹底的に絞り込み続けて、簡単なシュートを打たせなかった。そしてシュートが落ちたとみるや、そのリバウンドを掴むのか、はたまたタップして一度危険水域から出すのか。目まぐるしい密集の中でも、そうしたプレー選択がはっきりしていた。
結果として、ゴール下を守り続けた#21エリック・ジェイコブセンは37分28秒と、今シーズン2番目に長いプレータイムを記録しながらノーファウルでこの試合を終えることになる。どうしても無理のあるプレーをしてしまってはファウルがかさみ、それがすぐさまチームの窮地につながるという中で、最後まで強度を落とすことなくハードにやりきったことは、後に触れる#11チェハーレス・タプスコットの得点力以上の効果があったと言っても過言ではないだろう。
「最終的な点差こそ16点となったが、ただの16点差での勝利ではない」と記者会見で話したリチャード・グレスマンHC。激闘についてはこう振り返る。
「中盤で追いつき、終盤で勝ち越した。チームが戦い続けたことの結果でした。今日の試合にはたくさんのファイトがあったと思いますし、これをやり続けていくべきです。タプスコット選手の得点力もさることながら、平尾選手、多嶋選手、そして福澤選手と、ハンドラーを務めた選手が軒並みターンオーバーを0としました。リバウンドでも戦い続けて、結局は同数に持ち込みました。これもチームの力でしょう。」
試合の中ではヒヤッとする場面もあった。第4クォーターに入って、グレスマンHCにテクニカルファウルが宣告されたほか、紙一重というプレーが、なかなかロボッツのポゼッションとなって巡ってこない。少し前のロボッツであれば、こうした部分から感情が先に立ってしまい、バランスを欠いたプレーが顔を出すところだった。
しかし、そこからのロボッツが、しっかり戦うことにベクトルを向けていた。第4クォーターの序盤のシーンが、まさにそれを印象づけた。#29鶴巻啓太がSR渋谷の#9ベンドラメ礼生へのパスに手を引っかけたものの、アウトオブバウンズに。だが、そのラストタッチを巡って、鶴巻は珍しく判定に対して食ってかかるような仕草を見せたのである。だが、そのタイミングでベンチにいた#0遥天翼がしっかり直前のディフェンスを称えた。#2福澤晃平も鶴巻に近寄ってなだめるように背中を叩くと、またポジションへと送り出した。
この直後のプレーで、ベンドラメの3ポイントシュートが外れ、リバウンド争いからボールがはじき出されてコートを転々とする。ここに鶴巻が間一髪で飛び込み、速攻を狙っていた福澤にタップでつなぐと、福澤も手数をかけずに前を走っていたタプスコットへとパス。囲まれながらもファウルをもらったタプスコットは3点プレーを完成させ、一気にロボッツのペースへと持ち込んでみせた。
ともすればいつ失ってもおかしくない流れを、ロボッツはしっかり握り続け、最後まで失わなかった。タフな展開の中でももたらされた勝利とも言えるが、この試合が持たせた意味合いは、「1勝」という数字以上に大きなものとなったはずだ。
勝負を分けた、一瞬の「化かし合い」
この試合、オフェンスでチームの爆発力となったのは、他でもないタプスコットだった。インサイド、アウトサイドを問わず好調なシュートタッチを見せ続けたタプスコットは、シーズンハイとなる34得点を挙げてみせた。インサイドに少しでもスペースを見つけたり、マッチアップで優位を見つけたりしようものなら、構わずゴール下へと突進し、得点につなげ続けた。
#15マーク・トラソリーニの離脱が続く中、スコアラーとしてのタプスコットが好調であり続けている。昨シーズンも終盤にかけて得点力を伸ばしていった彼だが、今シーズンの平均得点も13.2まで増やしてきた。もはやお馴染みとなりつつある、試合後の日本語でのあいさつも勝利の後ということもあって「やったー」と、朗らかなものに。その上で、タプスコットはあくまで謙虚に、「チームの努力で勝ち取った試合だった」と振り返った。
一方、ディフェンスでも象徴的なプレーがあった。第4クォーターも残り時間わずかというところで、乾坤一擲とも言うべき得点がほしいSR渋谷は、#44盛實海翔が3ポイントシュートを狙う。盛實の左側からはマークマンだった#8多嶋朝飛が体を寄せにかかっていた。盛實はここですぐには打たず、少しバランスを崩したような動きを見せる。この当時の点差に着目してみると、推測ではあるがその意図は解き明かすことができる。
当時のスコアは86-76で、ロボッツが10点のリード。ただ、試合時間はまだ1分半ほどあり、ここでシュートを打っても、渋谷にとってはまだ攻撃チャンスが何度か残る。1点でも多く得るには、多嶋の出足を利用してファウルを得ることも選択肢となる。瞬時の判断で盛實は、あわよくば4点プレーの完成を狙ったのだ。もしこれが実現すれば、3ポイント2本で追いつく6点差となる。となれば、試合の行方は一気に混沌としかねない。
だが、多嶋はこの思惑を、絶妙のタイミングで外してきた。シュートチェックへの追っ手を一瞬だけ緩めることで、接触を防ぎにいったのだ。ショットクロックが差し迫る状況で、崩れた体勢を立て直すだけのステップもできず、それ以上のパスをつなぐこともできず。盛實はバランスが崩れたままシュートを打つほかなかった。打ち切れなかったシュートのリバウンドをジェイコブセンが回収したことで、再びロボッツが攻勢をかけていくこととなる。
瞬時の駆け引きを制してロボッツの時間へと導いた多嶋。彼が最後の局面で持ち前の冷静さから見せた妙技が、終わってみれば勝敗の分かれ目ともなったのである。
GAME2を終えての記者会見に、多嶋が出席した。巡り合わせからか、なかなか勝ちゲームの後に取材をすることができていなかったこともあり、ここまでの成長を一気に問うことに。改めて、多嶋はチームが進むべき道のりをしっかりと見定めているようなコメントを残してくれた。
「どんな流れであろうとも、自分たちのやるべき事をやり続ける。遂行度やインテンシティの部分など、チームとしての確認ごとをみんなでやり続けた結果、それが最後に自分たちの流れへと持って行けたのだと思います。勝っていることで、チームのみんなが良い雰囲気になっているのは事実だと思います。ただ、勝った負けたで一喜一憂するのではなく、やるべきことを、どれだけゲームの中でできたのかを改善して、修正して、積み重ねた結果が今のチーム状態だと感じています。シーズン前の時期の練習や、シーズン中の苦しい状況も乗り越えたこと、準備し続けたことが結果につながっていると思うので、それは勝ち負けに限らず、自分たちの積み重ねの証拠なのかなと思います。」
「BUILDUP」は一朝一夕に成し遂げられない。それはある意味当然のことと感じてはいたが、今シーズンの終わり、あるいは来シーズン以降に向けても残り続ける課題なのだ。ある者はその肝を「遂行力」や「危機感」と述べ、またある者はBUILDUPを実現するために「戦うチーム」であることを求める。そして多嶋は「積み重ね」を強調する。言ってしまえば、これらは決してバラバラな発言などではなく、この全てが必要なことなのだ。チームメンバーの一人一人が課題意識を認識しているからこそ、違った発言も出てくる。そこをしっかり積み上げ続けたロボッツは、まだまだ「変身」の余地を残している。終盤戦が俄然楽しみになるようなゲームだった。
手負いの王者を、ホームに迎え撃つ
久々に平日ゲームなしとなったロボッツ。次節はアダストリアみとアリーナで千葉ジェッツと対戦する。この試合から、アダストリアみとアリーナも100%収容に戻る。願わくば満員のアリーナにクラップがこだまするような景色を見たいところだ。
昨年12月に敵地で対戦した際には連敗を喫したロボッツ。この時はゾーンディフェンスで戦ったものの、今回の対戦でどうなるかは見物である。
千葉は天皇杯の決勝で#33ジョン・ムーニーが右肩を負傷して戦線を離脱したほか、直前のリーグ戦で#1ジョシュ・ダンカンも負傷退場するなど、選手起用で厳しい側面を抱えている。2人の回復次第では#21ギャビン・エドワーズ1人でインサイドを守りきらなくてはいけない試合も予想できてしまうところだ。
よって、この試合では日本代表選手がどれだけ躍動するかに注目したい。千葉の#2富樫勇樹や#14佐藤卓磨が、どれだけコートをかき乱していくかがポイントになりうる。彼らがノビノビとプレーすることは避けたいため、富樫にサイズで利するであろう鶴巻や、パワー勝負も苦にしない遥といったメンバーがどれだけ彼らを抑えられるかが、ゲーム全体の得点数を左右するだろう。
ロボッツとしても、日本代表#55谷口大智の出番だろう。前回対戦では2試合ともに無得点に終わってしまったことで本領発揮とはならず。#15マーク・トラソリーニの不在が続く中では、谷口のシュート力と、いざというときのディフェンスでの高さに頼りたくなる場面も訪れる。ロボッツが誇るエンターテイナーが、コート上でどんな大立ち回りを演じるのか。そこ次第で、会場のボルテージはいかようにも変わってくるだろう。
この試合を皮切りに、再びタフなスケジュールがロボッツに待ち受けている。そこを乗り越えるためにも、一つ勝利で良いイメージを作っておきたい。勝利に向けた熱いブーストと選手たちの躍動で、王者・千葉を飲み込むようなゲームにしてくれることを、期待したい。